情報セキュリティ

営業秘密のツボ 2024年06月19日 第96号

公開日:2024年6月19日

営業秘密の管理や保護に関する様々な情報をお届けして参ります。

巻頭メッセージ

財務省 関税局業務課
知的財産調査室長
伊藤 哲郎

我が国の税関では、水際において円滑な国際貿易、国際物流を確保しつつ、関税等の適正な徴収を行うとともに、社会・経済にとって有害な物品の輸出入を規制しております。
関税法では、麻薬、覚醒剤等のいわゆる「社会悪物品」と並んで、知的財産侵害物品(特許権、商標権、著作権等の知的財産権を侵害する物品と不正競争防止法第2条第1項に規定される不正競争行為を組成する物品の一部)についても、「輸出入してはならない貨物」と規定されており、税関ではその取締りを行っております。
また、営業秘密侵害品(営業秘密の不正使用により生じた物であることを知っている者により輸出入される当該物品)についても、平成28年6月から、関税法上の「輸出入してはならない貨物」として、税関による水際措置の対象となっています。

さて、税関において知的財産侵害物品を効果的・効率的に取り締まるためには、権利者の方々から、侵害疑義物品の発見に資する情報を差止申立て等の形で提供いただくとともに、侵害疑義物品が侵害品であるか否かを認定する手続(認定手続)において意見・証拠を適時に提出していただくことが重要です。
令和5年の税関における知的財産侵害物品の輸入差止件数は31,666件と、3年ぶりに3万件を超え、過去2番目に多い件数を記録しました。権利者の皆様には、追加の差止申立てや情報提供等、引き続きご協力いただければ幸いです。

営業秘密に関する財務省の直近の取組を少しご紹介させていただきますと、令和5年度関税改正により、令和5年10月以降、知的財産侵害物品の認定手続において、従来は認定手続における簡素化手続の対象から除外されていた特許権、実用新案権、意匠権及び保護対象営業秘密に関する輸入差止申立てに係る貨物についても、新たに簡素化手続の対象となりました。
簡素化手続においては、輸入者又は名宛人が認定手続開始通知書を受領した日から10執務日以内に、侵害の該否を争う旨の申出書の提出を行わない場合、権利者は証拠・意見の提出が不要となるため、人的・経済的負担の軽減に資するものと考えております。また、不正競争防止法に関する輸入差止申立てということで言えば、つい最近のことですが、「スカルプブラシ」の商品等表示にかかる輸入差止申立てを受理したところです。
効果的・効率的な水際取締りのためには、繰り返しになりますが権利者の皆様からの差止申立て等による情報提供が重要な役割を担っていますので、積極的に差止申立制度を活用いただくとともに、現在お悩みの事例等ございましたら、前広に税関へご相談いただければと思います。

最後に、財務省・税関は、知的財産の権利者の権利保護、日本の産業競争力の強化及び消費者の健康・安全の確保の観点から、引き続き、権利者や国内外の関係機関等と連携しながら、知的財産侵害物品の水際取締りにしっかり取り組んでいきます。皆様のご理解・ご協力をお願いいたします。

目次

訴訟・判決コラム:弁護士知財ネット

1.スタートアップにおける営業秘密の管理:弁護士知財ネット 弁護士 菅原 洸介

スタートアップにおいても、営業秘密の重要性への理解は進んでいますが、秘密管理の体制が不十分であるケースが依然として散見されます。
そこで、経済産業省が策定する指針等や近時の裁判例を踏まえながら、スタートアップにおける秘密管理の実践的なアプローチを改めて検討します。

コラムの内容は、弁護士知財ネットのウェブサイトをご覧ください。

 

1.サイバーセキュリティ対策

1.「内部不正防止対策・体制整備等に関する中小企業等の状況調査」報告書(2023年度)の公開:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

秘密情報の管理と保護に関して、「守るべき情報資産の認識不足」や「内部不正防止対策の取組の遅れ」などの課題が、特に中小企業において目立ちます。本調査では、ウェブアンケート及び先進的中小企業へのインタビュー調査を通じて、中小企業における内部不正防止対策を推進するファーストステップを探りました。

詳細はウェブページをご確認ください。

2.「米国におけるAIのセキュリティ脅威・リスクの認知調査レポート」の公開:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

米国におけるAIに関するセキュリティ脅威とその認知に関するレポートです。本レポートによれば、営業秘密の漏えいは生成AIの誤用によるビジネスリスクのひとつです。米国の調査によれば「生成AI利用社内規則がある」としたのは回答者の21%で、生成AIの利用には営業秘密の入力等のリスクがあると言えます。

詳細はウェブページをご確認ください。

3.【注意喚起】Microsoft製品の脆弱性対策について(2024年5月及び6月):独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

5月15日及び6月12日(日本時間)にMicrosoft製品に関する脆弱性の修正プログラムが公表されました。CVE-2024-30040及びCVE-2024-30051の脆弱性については、早急に修正プログラムを適用する必要があります。Microsoft社が悪用の事実を確認しています。

 

2.セミナー・イベント・支援事業等のお知らせ

1.海外における営業秘密漏えい対策支援事業のご案内(オンライン対応可・無料):独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外ビジネスを展開するにあたって、自社の経営や技術に関する情報を保護することは極めて重要です。
ジェトロでは、実際に営業秘密の保護・管理体制の導入を図る日本企業の中国、タイ、ベトナム、インドネシア、インド、欧州一部の現地法人等を対象に、専門家によるコンサルテーションや社内研修を行う事業を実施します。サービス内容は支援対象企業のニーズにあわせてオーダーメイドでご提供いたします。日本とは異なる商慣習や労務環境、司法保護状況に合わせて営業秘密の管理体制や保護措置を導入するために、ぜひご利用ください。
事業の詳細、申請書はウェブページよりご確認いただけます。

  • 支援事業概要
    • 支援期間:採択後から2025年1月31日金曜日まで
      利用時間上限:1社あたり23時間
      採択企業数:中国、タイ、ベトナム、インドネシア、インド、欧州一部で計18件程度
      費用:無料
    • 実際に対策を導入するための社内措置等の費用は自社負担となります。
      今年度もオンラインでのご支援も可能でございます。
  • お問い合わせ先
    • ジェトロ知的財産課 泉、上原、河野、廣岡
    • Mail: CHIZAI@jetro.go.jp
      Tel: 03-3582-5198
      Fax: 03-3585-7289

 

3.関連法律・計画、指針、ガイドブック等のご紹介

1.「不正競争防止法等の一部を改正する法律」について:経済産業省 知的財産政策室

令和5年6月14日に法律第51号として公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」では、以下のようなさらなる営業秘密・限定提供データの保護強化を実施しています。

  • ビッグデータを外部と共有するサービスでデータを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能にすること
  • 損害賠償訴訟で生産能力を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求可能とすること
  • 国外において日本で事業を行う企業の営業秘密侵害が発生した場合にも、日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不正競争防止法を適用可能とすること

なお、この改正法は、2024年4月1日から施行されています。

詳細は経済産業省のウェブページをご覧ください。

2.不正競争防止法テキストを2024年版に改訂しました:経済産業省 知的財産政策室

不正競争防止法のテキストを2024年版に改訂しました。

昨年、5年ぶりに法改正がされ、本年4月1日から施行されました。改訂版では、その改正を取り込んだ最新の内容となっており、知財室ホームページにて公表しております。

また、不正競争防止法や令和5年の法改正の内容について説明会をして欲しいなどのご要望がございましたら、知的財産政策室までご連絡をお願いします。知財室員がご説明に伺います。

3.「秘密情報の保護ハンドブック」の改訂および「情報管理も企業力 秘密情報保護ハンドブックのてびき」の公表:経済産業省 知的財産政策室

不正競争防止法の講演等において、不正競争防止法の概要とともに紹介・説明させていただいておりました「秘密情報の保護ハンドブック」について、改訂版を公表いたしました(令和6年2月)。

令和5年の不正競争防止法改正など関連法制度・ガイドラインの見直しに伴う修正、営業秘密・労働環境をとりまく「環境の変化」に伴う修正、「生成AIの利活用の拡大」といった社会の動きを考慮した修正等が今回の改訂の中心です。

秘密情報の保護ハンドブックや同ハンドブックのてびきといった資料は、経済産業省ホームページからダウンロード可能です。次のリンク先をご確認いただき、社内研修等での活用をご検討いただけますと幸いです。また、ご希望の方には冊子をお届けすることも可能でございますが、現在改訂版の冊子を準備中のため、準備が整い次第、知財室ホームページからの請求受付を開始予定です。なお、ハンドブックの手引きにつきましては、請求受付を始めましたのでご希望の方へお届けすることも可能でございます。

詳細は「冊子の送付について」をご確認ください。

4.「限定提供データに関する指針」の改訂およびデータ利活用に関する資料を公表中:経済産業省 知的財産政策室

不正競争防止法では、限定提供データに関する規定を設けております。企業が保有・活用する「情報」を営業秘密と相互補完的に守る枠組みです。

経済産業省では、限定提供データの定義や不正競争に該当する要件等について、一つの考え方を示すものとして「限定提供データに関する指針」を公表しておりますが、この度、不正競争防止法の改正において限定提供データの保護範囲の見直しを行ったことを踏まえて、指針の改訂を行いました(令和6年2月)。

知財室では、データ利活用に関する資料をウェブサイトにて公表しておりますので、ご活用いただけますと幸いです。

データ利活用を始めたいが何から始めて良いかわからない、データ利活用においてどのような点に気をつければ良いか等の疑問をお持ちの方はぜひご覧ください。

5.「知的財産推進計画2024」について:内閣府 知的財産戦略推進事務局

知的財産戦略本部において、政府における知財戦略や知財施策を取りまとめた「知的財産推進計画2024~イノベーションを創出・促進する知財エコシステムの再構築と「新たなクールジャパン戦略」の推進に向けて~」を公表しています。

詳細は知的財産推進計画2024のPDFをご確認ください。

6.「技術情報管理 自己チェックリスト」のご紹介:経済産業省 安全保障貿易管理課

経済産業省は産業競争力強化法に基づく技術情報管理認証制度の基準をもとに、中小企業や専門知識がない方でも自社の情報セキュリティ対策の状況を確認し、必要な対策を把握できる「技術情報管理 自己チェックリスト」を公開しております。

情報セキュリティ対策をなにから始めればいいか分からずお悩みの方は、まずは自己チェックリストを経済産業省ウェブページからダウンロードして、自己診断してみましょう。

技術情報管理自己チェックリストのダウンロードは技術情報管理自己チェックリストのウェブページからできます。

 

4.お役立ち動画集

1.はじめての「営業秘密管理」研修動画:独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)

INPITでは、大切な秘密情報を巡るよくあるトラブル事例や、営業秘密として管理する手法についてまとめた研修動画を、当館のeラーニングサイトIPePlatに公開しております。
営業秘密について学びたい、これから営業秘密管理に取り組もうという方向けの内容で、無料でご視聴いただけます。

動画はIP ePlatのウェブページよりご確認いただけます。
・はじめての「営業秘密管理」

2.技術流出の防止に向けたウェブページ、動画、パンフレットのご紹介:警察庁 警備局外事情報部外事課 経済安全保障室

皆様の企業・研究機関にはどのような技術情報がありますか?技術流出の防止には、「情勢」・「事例」・「対策」の理解が欠かせません。この度、警察庁公式サイトに特設ページ「技術流出の防止に向けて」を開設し、技術流出に関する情勢、リスクのある具体的事例「3つのS」と題した企業や個人が取るべき対策などをわかりやすく説明しています。動画やパンフレットも掲載されていますので社内研修等にご活用ください。

「技術流出の防止に向けて」のウェブページで、事例、動画、パンフレット等をご覧ください。

3.研修動画「今、そこにある脅威~内部不正による情報流出のリスク~」を公開中:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

3月21日に内部不正による情報漏えいの手口や対策を学べる新作の動画を公開。IPAが過去に制作した情報セキュリティ対策に役立つ他の映像と併せて、新入社員向けの研修などにご活用ください。

4.全話最終回(!?)毎回倒産するショートドラマ「スタートアップは突然に」:独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)

スタートアップ必見!知的財産の重要性を呼びかける、全5話のWebショートドラマを公開中です!

『全話最終回… どうやっても毎回倒産してしまうナオトとその仲間たち』

大手企業の契約担当者の罠に落ち、信頼していた研究パートナーにはめられ、不慣れな異国の地でも知的財産トラブルに見舞われるなど、挑戦のたびに知的財産が原因で倒産してしまう3人組。知的財産の重要性を知らないと行き着く先は「THE END.」になってしまうという、学びのある物語です。

動画は特設サイト「スタートアップは突然に」でご覧ください。

5.「スタートアップ社長inサバンナ」!:独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)

世界初!?厳しいビジネスの世界をサバンナに例え、ネイチャードキュメンタリーさながらに、サバンナで生きるシャチョー(スタートアップ類)の大切なアイデアや技術を“捕食”されないよう、知的財産の重要性を啓発する動画になっています。

YouTube動画はINPIT Channelの「スタートアップ社長 in サバンナ(ナレーション:森田成一)」からご覧ください。

6.営業秘密保護PR動画を公開中です(ショートドラマ&解説動画):独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)

トップセールスでうっかり…、取引先からの要請に答えたら…、展示会でアピールし過ぎて…、など営業秘密で陥りがちな失敗とケーススタディをYouTube動画で公開中です。

 

5.相談窓口のご案内

1.「営業秘密支援窓口」をご活用ください:独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)

豊富な知財実務経験を有する「知財戦略エキスパート」が、企業の実情に合わせた秘密情報の管理体制(例えば、書類・記録媒体の管理方法、電子データの管理等)の整備をご支援いたします。

地方自治体や中小企業支援機関が主催するセミナー・講演会、中小企業における社内研修等への講師派遣も無料で実施しており、ご好評いただいております。是非ご活用ください。

お問い合わせは、「営業秘密支援窓口」のウェブページをご参照ください。

2.営業秘密・秘密情報管理、知財戦略のFAQ:独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)

INPITが運営する「知財ポータル」にて、「特許などによる権利化、営業秘密としての秘匿化をどう使い分ければよい?」「転職しようとする社員に対してどのような契約を結べばよいか?」、「他社を退職した技術者を採用する際にどのような点に注意すればよいか?」等といった、営業秘密管理におけるよくある質問を一問一答形式のFAQとしてとりまとめています。

詳しくは知財総合支援窓口(知財ポータル)の「よくあるご相談」のウェブページをご覧ください。

 

事務局のつぶやき

今月の知財室

いつも「つぼマガ」をご愛読いただきありがとうございます。
経済産業省知的財産政策室でございます。

私が知財室に着任したのは2022年6月でして、今このつぶやきを書いているタイミングでちょうど2年が経過しました。
その間、不正競争防止法の改正法の成立・施行、逐条解説や各種ハンドブック等の改訂があった一方、世間的にも注目を集める営業秘密漏えい事案もあり、短いながらも印象深い2年だったと感じています。

営業秘密管理の重要性について、引き続き普及啓発に努める重要性を感じているところではありますが、頻繁な部署異動が役所の常であり、私も異動を意識する時期になってきました。異動に伴う営業秘密の漏洩には十分なご注意を呼びかけさせていただいておりますが、私の方では、他部署に異動することになりましても、引き続き営業秘密管理の重要性を意識して、知財室の普及啓発に微力ながら貢献していければと思います。

「つぼマガ」第96号をお読みいただき、ありがとうございました。

 

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