社会・産業のデジタル変革
公開日:2026年3月4日
執筆:福地 弘行(IPA)
岡本 晋(IPA専門委員・一般社団法人monlon)
近年、オープンソースソフトウェア(OSS)は民間企業だけでなく行政組織においても重要性が増している。ドイツやエストニアでは公的資金で開発されたソフトウェアのオープンソース化が法的に義務付けられ、米国では連邦政府のコスト削減策としてOSS公開を通じた行政システムの再利用が推進されるなど、各国政府のアプローチは多様である。研究においては、政策の枠組みや組織に着目した質的調査が進む一方で、実際のOSS公開活動数やその規模に関する国際比較は十分に行われておらず、特に日本の国際的な位置付けは不明瞭なままである。そこで本レポートでは、「行政OSSの公開数は国や地域によってどのように異なるのか」というリサーチクエスチョンのもと、GitHub上のデータを用いた定量分析を実施した。本調査では、日本を含む7か国(日本、エストニア、シンガポール、ドイツ、フランス、英国、米国)の政府および公的機関がGitHub上で公開しているOSSについて、リポジトリ数、プルリクエスト数、スター数など複数の指標を用いた定量分析を実施し、各国のOSS活動の特徴と政策との関連性を明らかにした。
英国(リポジトリ約16,000件、プルリクエスト約190万件)と米国(リポジトリ約10,000件、プルリクエスト約54万件)は大規模、フランス(リポジトリ約2,400件、プルリクエスト約24万件)は中規模、日本・エストニア・シンガポール・ドイツは小規模に分類できる。データから読み取れる日本の特徴の例としては、626件のリポジトリに対してプルリクエストが約3,800件であり、リポジトリあたりの比率は約6.1件と小規模グループで最も低い。これは、プルリクエストを通じた開発活動の頻度が比較的少ないことを示しており、厳格なレビュープロセスや品質管理を重視する特徴を示している。
英国のGovernment Digital Service設立(2012年)、米国のFederal Source Code Policy(2016年)、フランスのCirculaire Ayrault(2012年)、ドイツのSovereign Tech Fund構想(2021年)など、各国で政策施行の前後にOSS公開数の増加が見られる。日本でも2012年の電子行政オープンデータ戦略、2021年のデジタル庁設立の前後に公開数が増加している。
7か国全体では行政サービス2,340件とデータ基盤・API 1,935件の公開が最も多く、エストニアはX-Roadをはじめとするデータ交換基盤、シンガポールはスマートシティ関連といった各国固有の注力分野も観察される。日本については、国土地理院や国土交通省による地図・都市情報分野でのOSS公開活動が特徴的である。
日本の行政機関によるOSS活動は、英国・米国・フランスに比べて小規模であるものの、国土交通省や国土地理院による地図や空間情報分野における活発な活動が確認された。全体としてもデジタル庁が設立されて以降公開数が増加傾向にある。今後、これらの萌芽的な動きを加速させるため、より組織的な動きへと拡大していくための戦略的なアクションが求められる。
本調査はGitHub上の定量的なアプローチにとどまっており、他のプラットフォームや政府系インナーソースを活用したOSS公開活動が対象範囲外となっている。さらに、各国のOSS活動の実態に関する全体像は把握できたものの、その背景にある政策や政治的動向との因果関係は明らかになっていない。今後は、それらの限界を超えたリサーチを継続的に実施するとともに、政府におけるOSS活動を促進するためのより具体的な方策について議論を加速させる必要がある。
IPA デジタル基盤センター

2026年3月4日
公開