社会・産業のデジタル変革
IPA調査分析ディスカッション・ペーパー2025-02
公開日:2025年10月9日
独立行政法人情報処理推進機構
経営企画センター 国際・産業調査部 荒川裕邦[脚注1] 河野浩二
本ディスカッション・ペーパーは、執筆者の見解に基づく内容であり、独立行政法人情報処理推進機構としての公式⾒解を示すものではありません。
日本が少子高齢化による労働力減少下で産業競争力向上と社会課題解決を実現するため、AIを含むデジタル技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可欠である。一方、DXの推進を担うデジタル人材の充足度、育成環境では、日本は他国に劣後する状況が伺える。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」によれば日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足していることが示され、これは米独と比べて著しく高い。また、デジタル人材に関わらず日本の人材育成の環境について、リクルートワークス研究所の「Global Career Survey 2024」によれば、OJTや自己啓発の実施割合は日本が調査対象国(日本、独、仏、英、米、中、スウェーデン)中で下位である。
AI時代におけるデジタル人材について、世界経済フォーラム(WEF)は「仕事の未来レポート2025」において2025~2030年に世界で現在の総雇用の14%に相当する新規雇用が創出され、AI・データ関連職種がそれを牽引すると予測する。スキル面ではAI、ビッグデータ、サイバーセキュリティの需要が伸び、分析的思考やリーダーシップ等のヒューマンスキルも依然として重要度が高いとしている。米国の大手テック企業等が参画するAI-Enabled Information and Communication Technology Workforce Consortiumは、「The Transformational Opportunity of AI on ICT Jobs」において、9割以上のICT職種で主要スキルの過半がAIによって変化すると予測し、今後10年間で全世界9,500万人にリスキリングを実行する目標を掲げる。また、北海道大学の川村秀憲教授は、これからITエンジニアにはAIに代替されにくい人間の感性や上位概念のデザイン力が求められると指摘する。
こうした状況から、今後、日本に必要なデジタル人材を育成していくためには、従来の資格・研修の拡充等の取組に加えて、デジタル人材の育成に関わる環境の整備が不可欠と考える。第一に、企業と個人の関係を、スキルをベースに評価や役割を決定するダイナミックな関係へと変革する必要がある。これによって、個人の主体的なスキル習得が後押しされ、企業は事業戦略の実現に必要なスキルをより具体的に把握し、育成に取組むことができる。第二に、AIによって急速に変化するスキルや実践を通じてこそ磨かれるヒューマンスキルの習得のため、実践型学習の拡充が求められる。産学連携によるPBL(Project Based Learning)や、学校教育では基礎科目と実践学習を組み合わせたカリキュラムの整備等の拡充が必要である。産学連携はスキルをベースとした採用の候補者見極めや個人のキャリア意識の醸成の機会にもなり得ることから、企業と個人の関係の変革と実践型学習の拡充が相互に強化し合ってAI時代のデジタル人材育成の仕組みが形成されると考える。
IPA 経営企画センター 国際・産業調査部 産業調査室
2025年10月9日
公開