社会・産業のデジタル変革

Web情報と生成AIによるWISDOM-DX推薦システムを開発

公開日:2025年3月3日

DXを推進する企業に役立つデジタル人材育成講座をAI技術によって自動的に推薦

独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)と国立研究開発法人情報通信研究機構 (以下、NICT)は、Web情報に基づいて企業活動を評価するWISDOM-DXシステムと生成AI技術を用いることにより、企業のDX活動への取り組み状況に応じたデジタル人材育成講座を推薦する、WISDOM-DX推薦システムを開発しました。

IPAは、Society 5.0の実現を目指し、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援し、DXに必要なデジタル人材の育成を推進しています。DX支援の一つとして、NICTと共同でWeb情報に基づいて企業のDX活動を自動的に評価するWISDOM-DXシステム(脚注1)を開発してきました(文献1,2)。また、デジタル人材育成のために経済産業省とともにデジタル人材育成講座を提供するマナビDX(脚注2)というポータルサイトを運営しています。マナビDXは、デジタルスキルの習得を目指すすべての人に向けて、レベルに応じて幅広い講座を提供しています。

今回、WISDOM-DXシステムと生成AI技術を統合し、企業のDX活動内容に応じて、企業のデジタル人材育成に有効であるマナビDXの講座を自動的に選択して推薦可能であることを検証しました。WISDOM-DX推薦システムは、まず、Web情報から各企業のDXについて様々な活動内容を抽出して、その活動レベルを評価します。次に、各企業の様々な活動内容から生成AIの要約機能(脚注3)を用いてDX状況要約ファイルを生成します。この要約ファイルとマナビDXの講座内容から類似度を算出し、DX活動レベルとマナビDX講座レベルとの整合性を調整してマッチング度を決定し、各企業に講座を推薦します。WISDOM-DX推薦システムを用いて、DXを推進している企業63社に対して、マナビDX講座を推薦しアンケート調査を行った結果、実用的な有効性(脚注4)を確認しました。

従来、マナビDXの利用者は、登録された講座の概要と講座ごとに設定された講座レベルなどを参考として必要な講座を選択していました。WISDOM-DX推薦システムにより、利用者が所属する企業のDX活動状況も踏まえて講座を選択することができます。また、マナビDXの講座登録事業者に対して、各企業のDX活動レベルや必要とする講座情報を通知することによって、登録事業者はタイムリーに講座の追加や内容の更新が可能となります。今後、以下のような改善を図り、活用領域を広げていく予定です。

1) 個人の関心情報の活用

マナビDX利用者個人の受講履歴を活用して、利用者の関心を推薦結果に反映させます。具体的には、受講済み講座の推薦を抑制しつつ、受講済み講座と類似度が高くよりレベルの高い講座を推薦します。また、マナビDXの講座登録事業者に対して、各企業のDX活動レベルや必要とする講座情報に加えて、利用者個人が推薦候補から選択した講座と選択しなかった講座の情報を提供することによって、登録事業者は利用者の関心事項やニーズを把握することができます。

2) 潜在顧客の推定によるプロモーション活動

マナビDX登録講座以外のコンテンツに関しても潜在顧客を推定することが期待できます。例えば、情報処理技術者試験の一つであるIT パスポート試験について、東京証券取引所上場企業 3,640 社に関して、団体申込みの可能性が高い企業を推定した結果、Web検索よりも高い精度で推定できることが分かりました(文献3)。今後、IT パスポート試験以外の情報処理技術者試験や他のサービスの潜在顧客を推定してプロモーション活動に活用していく予定です。

3) コミュニティの発展と拡大

人材育成では、有識者や教員など専門家が育成対象者を指導し、対象者が卒業生や修了生となって後進の育成を支援するというコミュニティが形成されます。コミュニティを発展させ拡大するためには、他のコミュニティに対するプロモーションが重要です。IPAの実施する未踏事業のコミュニティに関して、プロモーション対象となる大学や高専を推定し評価した結果、Web検索による推定よりも有効であると分かりました(文献4)。今後、様々なコミュニティへのプロモーションに活用していく予定です。

注釈

  1. 脚注1
    WISDOM-DXは、企業や組織が取り組んでいるテーマについて、その活動状況をAI技術によって自動的に分析・評価するシステムです。WISDOM-DXは、NICTが開発したWEBデータに基づく質問応答システムWISDOM XをNICTと共同研究契約を締結して活用しています。
  1. 脚注2
    マナビDX(デラックス)は、デジタルに関する知識・スキルを身につけることができるポータルサイトです。以下のWebサイトで利用可能です。
  1. 脚注3
    今回は可能性検証としてGPT-4oを用いましたが、今後はNICTの生成AIを利用予定です。
  1. 脚注4
    マナビDXの742講座から各社に10講座を推薦した結果、関心がある講座が含まれていると回答した企業が61社(97%)、5講座以上の講座に関心があると回答した企業が41社(65%)でした。

参考文献

  1. 奥村明俊,他:”Webデータに基づく企業のデジタルトランスフォーメーション活動評価システム WISDOM-DXの検証” ,第15回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム, 2023年3月
  2. 奥村明俊,他:”Webデータに基づく企業活動評価システムWISDOM-DXによる女性活躍推進企業の評価”, 2023年度人工知能学会全国大会(第37回), 2023年6月
  3. 奥村明俊,他:”Web データに基づく質問応答システムを用いた情報処理技術者試験応募法人の推定”,第22回情報科学技術フォーラム(FIT2023),2023年9月
  4. 奥村明俊,他:”わくわく感こそ成長の原動力 -Web データを活用した未踏事業の分析とプロモーション–“, 情報処理学会誌 Vol.65 No.10 pp.506-511, 2024年10月

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