社会・産業のデジタル変革

2. 調査の目的と手法

世界のOSS動向レポート:行政によるオープンソースソフトウェア公開活動の国際比較調査報告書

2.1 目的

本調査の目的は、「世界各国の公的機関によるOSS公開の実態」に関する全体像把握、すなわち「どの国のどの機関が、いつ、何をOSSとして公開しているのか」である。この目的を達成するため、情報収集のプラットフォームとして世界最大のOSS開発プラットフォームであるGitHub上の各国政府組織が作成したリポジトリに着目する。なお、本調査の対象組織には地方公共団体を含まず、中央省庁や全国規模の公共セクターのみを対象とする。
情報収集プラットフォームの選定では、「各国行政機関のOSS公開活動を定点的に観察できること」を判断基準としてGitHubを採用した。実際、ドイツの政府機関がGitHubと併用する形でGitLab上でもOSSを公開しているように、GitHub以外のオープンソースプラットフォームを活用する政府機関は存在する。また、インド政府は国内に限定したインナーソースのプラットフォームを整備し、エストニアやシンガポールでもGitHubと政府管理型のインナーソースプラットフォームを使い分けている。インナーソースプラットフォームの活用は、政府機関や国内など特定の範囲に限定してソリューションを共有することで外部公開へのリスク抑制などの利点などが考えられるが、他国からのアクセスが難しいため実態を調査することが難しく、本調査の限界を超える。このように、本調査では政府が活用するOSSプラットフォームやインナーソースプラットフォームの存在や意義を認めているものの、収集データの一貫性を重視して特定のプラットフォームを観察することとした。
調査対象国としては、上記の対象プラットフォームに関する制限もふまえ、「GitHub上で活動の大部分が観察できる国であること」「デジタル政府の文脈やOSS活用に関する先進的な事例が確認できる国であること」という条件を設定してデスクトップリサーチを行った。その結果、初年度となる本調査では、日本・エストニア・フランス・米国・ドイツ・シンガポール・英国の7か国を対象に調査を実施することに決定した。

2.2 調査手法

2.2.1 データ収集項目の設定

本調査では、各国行政機関のGitHub上のOSS活動について、「活性度」「成熟度」「組織の規模」「プロジェクト期間」の4つの観点に基づく以下のデータ収集項目を設定した。

A)活性度

OSSの活性度は、主に「リポジトリ数」「スター数」「フォーク数」「ブランチ数」などによって評価できる。 活性度は、組織が OSS をどの程度積極的に公開し、また外部から関心や再利用を得ているかと関連する観点である。本調査では、次の値を活性度と関連がある観測値として参照する。

リポジトリ数(Repository)

公開されているOSSプロジェクトの数。多いほど、組織が積極的にOSSを公開していることを示す。

スター数(Star)

OSSプロジェクトへの関心や人気度を示す指標。外部からの注目度や利用実績を示す。

フォーク数(Fork)

他者による派生開発や再利用の回数。OSSの波及効果や外部の開発者コミュニティでの活用度を示す。

ブランチ数(Branch)

開発の多様性や並行作業の状況を示す。活発な開発体制や複数機能の同時進行を示す。

B)成熟度

成熟度は、OSS の開発・運用プロセスが継続的に機能しているか、外部からの改善提案や参加がどの程度受け入れられているかと関連する観点である。本調査では、次の値を成熟度と関連がある観測値として参照する。これらの指標が高いほど、組織のOSS運用が制度的・文化的に成熟しており、持続的な改善や多様な協働が実現されていると評価できる可能性がある。ただし、公開ソフトウェア自身の品質や安定度、対象範囲の広さなどの要素も影響するため、複数の指標を総合的に解釈することが重要である。

イシュー数(Issue)

バグ報告や機能要望など、利用者・開発者間のやりとりの量。外部の開発者コミュニティとの対話や改善活動の活発さを示す。

プルリクエスト数(PR: Pull Request)

外部・内部からのコード貢献の提案数。外部貢献の受け入れ体制やコラボレーションの成熟度を示す。

コントリビューター数(Contributor)

実際にコードやドキュメントの貢献を行った人数。多いほど、開かれた開発文化や多様な参加が実現されていることを示す。

C)組織への浸透

組織の規模は、国ごとの行政OSS活動においてどれだけ幅広い組織にOSSを公開する活動意義や文化が浸透しているかという観点である。この観点によって、省庁横断的なOSS推進や国家レベルの統一的な戦略・体制整備などの戦略的動きの有無を示唆する。

オーガニゼーション数(Organization)

OSS活動に参加している政府系組織の数。分散的なOSS推進や省庁横断の取り組みの広がりを示す。

D)プロジェクト期間

プロジェクト期間は、OSS活動の「継続性」を評価するための重要な観点である。プロジェクト公開開始日が早いプロジェクトは、長期間にわたり運用・改善が続けられている可能性が高く、組織のOSS活動が定着していることを示唆する。他方、組織において最近公開されたプロジェクトが多い場合は、OSS活動が新たに拡大していることを示唆する。

初回コミット日時(First Commit Date)

各OSSプロジェクトがGitHub上で最初にコードを公開した時期。プロジェクトの開始時期や歴史的な経緯を把握でき、OSS活動の「継続性」を評価する際の重要な参考情報。

以上の項目に基づきデータを収集することで、プロジェクト数だけでなく外部開発者コミュニティとの協働や再利用の程度、制度的・文化的な成熟度等を幅広く観察することができる。

2.2.2 データ収集の実施

データの収集には、GitHub APIを活用したPythonスクリプトを用いた。使っている主なGitHub APIと取得情報は表2-1の通りである。

表 2-1 データの収集に用いた主なGitHub APIと取得情報

GitHub API

取得情報

GET /orgs/{org}/repos

組織のリポジトリ一覧取得

GET /orgs/{org}/members

組織メンバー一覧取得

GET /repos/{org}/{repo}/branches

ブランチ数

GET /repos/{org}/{repo}/issues?state=all

イシュー数(プルリクエスト数を除く)

GET /repos/{org}/{repo}/pulls?state=all

プルリクエスト数

GET /repos/{org}/{repo}/contributors

コントリビューター数

GET /repos/{owner}/{repo}/commits?per_page=1

初回コミット日時

これらのデータは、スクリプトによりCSV形式で保存し、国ごと・テーマごとに集計・比較分析を行った。なお、スクリプトの詳細は本文中にそのまま掲載しているので、再現性や他国展開も容易である。

データの収集期間は以下のとおり。

  • 初回コミット日時以外:2025年9月16日から2025年9月26日
  • 初回コミット日時:2025年9月30日から2025年10月3日

2.2.3 データの分析

本分析では、各国政府のGitHubアカウントから収集したリポジトリ数、スター数、フォーク数、イシュー数、プルリクエスト数、コントリビューター数、初回コミット日時などの各種指標を用いて、OSS活動の規模や性質を定量的に比較した。これらのデータをもとに、OSS活動度や制度的支援、文化的背景の観点から各国の特徴を整理し、グループ分けや傾向分析を行っている。