社会・産業のデジタル変革
公開日:2026年2月26日
独立行政法人情報処理推進機構
デジタル基盤センター デジタルエンジニアリング部
ソフトウェアエンジニアリンググループ
SLCP(Software/System Life Cycle Processes)は、ソフトウェアとシステムのライフサイクル全体を網羅する国際標準です。AIやIoT、ロボットなどハードウェアとソフトウェアの技術を融合させて新たな製品やサービスを創出する現代において、企画・要件定義といった超上流から開発、運用、廃棄までを一貫して扱うSLCPは、関係者間の共通理解と協働を支えるグローバルな基盤となっています。SLCPを前提として、要求工学、リスクマネジメント、アーキテクチャ、品質など多様な国際標準の整備が続けられています。新たな時代の要請に応えた価値創出に取り組む際に有用なソフトウェアエンジニアリングとシステムズエンジニアリングの知見がSLCPの中に集約されています。
近年、AI技術の進展は目覚ましく、特にフィジカルAIへの関心が高まっています。過去10年を振り返ってもIoTやロボットなど、機械、電気・電子、ソフトウェアなどの技術を融合させて新たな製品やサービスが生み出されてきました。半導体製造技術の高度化、EVや自動運転の開発も、ソフトウェアと電気、機械、材料など広範な技術の融合によって進められています。デジタル技術の象徴たるスマートフォンも、電池、ディスプレイ、カメラ、電子部品などに依存し、ガラスやフィルムなど高度な材料技術に支えられています。情報セキュリティの分野においても、パスワード認証だけでは不十分で、所持情報と生体情報を組み合わせるために物理デバイスが必要になっています。
今後、付加価値の高い製品やサービスを生み出すには、ハードウェアとは異なるソフトウェア特有の強みを十分に活かすことが重要です。ただし、ソフトウェアだけで実現できることには限りがあります。ソフトウェアが稼働する環境を構成する様々な要素と、多数の要素間の関係を理解し、それらの適切な組み合わせと融合を追求することで大きな価値を生み出す可能性が広がります。
こうした変化の中で成果を出すには、関係者が同じ前提のもとで協働し、妥当性確認を含めた判断を積み重ねられる「共通言語」が不可欠になります。
近年のAI技術の進展などにより、システム及びソフトウェア開発は大きく変化しつつありますが、何をどう変えるのが適切なのか、検討のベースラインとなるのが国際規格SLCPです。
SLCPはSoftware Life Cycle Processes(ISO/IEC/IEEE 12207)、つまりソフトウェアの着想・企画から開発、保守・運用、廃棄に至るまでのライフサイクルに関わるプロセス(入出力と活動)を、できるだけ網羅的に集めた国際標準として生み出されました。続いて同様に、ハードウェアの比率が高いSystem Life Cycle Processes(ISO/IEC/IEEE 15288)も定義されました。
その後、これらを生み出した二つの専門家集団ともに両者の整合を取る必要性を認識し、国際標準の改定に際して二つの系譜の調和(Harmonization)が図られました。産業界の実態からみれば両者が一体化することは自然な帰結でした。長年にわたる協議の結果、調和された国際標準が2015年に発行され、時代の要請に応えるべく改定され進化を続けています。ISO/IEC/IEEE 12207:2017とISO/IEC/IEEE 15288:2015は同じプロセス群で構成されており、ソフトウェアの実装に関わる部分に違いがありますが、多くの記述は共通です。ISO/IEC/IEEE 15288:2023でもプロセス群の構成は変わっていません。
SLCPで列挙されたプロセスの中で、AIに任せる部分と人間が注力する部分を勘案していくことになります。定型的な作業はAIが担うようになり、人間は企画や要件定義といった上流工程、およびAI生成物の妥当性確認に注力するようになっていきます。これらの領域はソフトウェアエンジニアリングとシステムズエンジニアリングの双方に共通しており、関係者が共通認識のもと協力することが不可欠です。SLCPは、この協力体制の基盤となります。
課題解決や事業創出に向かうとき、目的を見極め、視座を高くして全体を俯瞰することが重要になります。そして多様性を尊重して多角的に検討し、広範な関係者と協力することも大事です。最新のSLCPはそのことを強く主張しています。AI等の進歩により利用可能な技術が次々提供され、その応用分野が広がり続けており、事業機会が拡大していますが、技術は手段であって目的ではありません。狙うべき課題を特定し、その解決策の実現に効果的な技術を採用し、価値ある成果に辿り着かなければなりません。この部分は、ソフトウェアエンジニアリングでもシステムズエンジニアリングでも同様です。
現在のSLCPでは、「システム要件定義プロセス」の前に、「ミッションまたはビジネス分析プロセス」と「利害関係者ニーズおよび要件定義プロセス」が規定されています。従来の情報システム開発において「超上流」と言われていたプロセス、言い換えると今後のビジネスにおいて根幹的に重要なテーマについて、過去30年にわたるグローバルな議論の結果がここにまとめられています。
これらの超上流プロセスを踏まえたうえで、最新のSLCPを理解することは、現実のビジネスで必要とされる知識を国際標準から取り込むための前提になっています。つまり、SLCPでは関連プロセスが網羅的に列挙されており、それぞれのプロセスを詳細に取り上げる国際標準が紐づけられています。例えば、次のようなものがあります。
SLCPは、システム及びソフトウェア技術に関連する国際標準類の背骨にあたるわけです。SLCPを前提として、様々な知見が標準化されグローバルに産業界の共通理解を形成しています。高い安全性や信頼性が求められる分野では、これらの国際標準に基づく開発や管理が求められることもあります。
今後デジタル技術の応用はさらに拡大し、ソフトウェアとハードウェアを高度に融合させたシステム開発が求められます。そのためには、ソフトウェアのテストや品質管理に留まらず、ハードウェアを含めたシステム統合や妥当性確認の高度化も不可欠です。ハードウェア購入やソフトウェア開発の稼働に大きな費用をかける前に、モデリングやシミュレーションを駆使して適切な意思決定を行うことも重要です。ソフトウェアエンジニアリングとシステムズエンジニアリングが積み上げてきた知見を統合し、関係者が協力して新しい技術を駆使して社会の要請に応えていく基盤として、両者を調和させたSLCPは大きな役割を担っていくことになるでしょう。
一般に入手可能な日本語資料としては、次の資料があります。デジタルトランスフォーメーションやAI活用に取り組もうとする際には、これらのいずれかを手に取ることをお勧めします。
IPA デジタル基盤センター
デジタルエンジニアリング部 ソフトウェアエンジニアリンググループ

2026年2月26日
公開