社会・産業のデジタル変革

1. はじめに

世界のOSS動向レポート:行政によるオープンソースソフトウェア公開活動の国際比較調査報告書

本レポートでは、開発プラットフォームGitHub上で観察される各国政府のオープンソースソフトウェア(OSS)のリポジトリ数と関連するデータの収集を通じて、各国の公共セクターにおけるOSSへの関心の強さやコミットメントの大きさを国際的に比較することを目的とする。
近年、OSSはあらゆる開発プロジェクトにおいて必要不可欠な存在であるという認識が広がっている [独立行政法人情報処理推進機構, 2024]。OSSを通じた組織、地域を超えた共創は、組織におけるソフトウェアやシステムの開発コストを下げるだけでなく、社会全体に技術や知見の好循環を生み出し、経済的効果を生み出す [Knut & Torben, 2024; Hoffmann, Nagle, Zhou]。
このようなOSSへの注目は民間組織に限らず、行政組織でも拡大している。例えば、ドイツでは2021年の連立政権協定で公的資金によるソフトウェア開発の原則としてOSS公開が規定され、2026年現在では連邦政府内で開発されたソフトウェアのオープンライセンス公開が義務化されている [SPD,Bündnis 90/Die Grünen, & FDP, 2021; Deutscher Bundestag, 2024] 。エストニアでは、デジタルアジェンダ2030において公的資金で開発されたソフトウェアのオープンライセンス公開が原則化され、行政データ連携基盤「X-Road」が国際的に利用可能なフレームワークとして発展してきた [Ministry of Economic Affairs and Communications, 2021] 。フランスでは2016年のデジタル共和国法で行政情報システム調達時のフリーソフトウェア優先採用が奨励され [Legifrance, 2016]、米国では2016年のソースコードポリシーで連邦政府資金開発ソフトウェアの最低20%のOSS公開が義務付けられた [Office of Management and Budget, 2016] 。
こうした各国の取り組みには、異なる推進の方向性が存在する。欧州の事例は「公的資金で開発された公共部門のソフトウェアをOSSライセンスのもとで公開すべきである」という考えに基づいており、この考え方は欧州を中心とするFree Software Foundation Europe(FSFE)が推進する「Public Money, Public Code(PMPC)」の理念とも共鳴している [Free Software Foundation Europe, 2017] 。一方、米国の事例では政府内の開発コスト削減を目的とする実利重視のアプローチが採用されている。
こうした国際的な動向を概観すると、世界各国で行政組織におけるOSSの重要性は高まっている一方で、その活動規模や目的、推進アプローチなどは国によって様々であることがわかる。では、日本の行政組織はどのようにOSSを活用することができるのだろうか。日本が今後行政組織でOSSを推進するためには、諸外国の活動をその特徴も含めて調査、分析し、日本の位置付けや方向性を整理する必要がある。したがって、本レポートでは日本および諸外国の政府機関におけるOSS推進活動の国際比較を主目的として調査を実施する。
先行研究としては、公共セクターのOSSプロジェクトにおけるアプローチや組織条件を国際的に調査した研究や、公共セクターのOSS活用における計画・実施・評価のための指標を提示する研究などが挙げられる [Linåker, Lundell, Servant, & Gamalielss, 2025; Muto Linåker, 2024]。これらの質的な研究アプローチに基づく国際比較や指標化の取り組みは、公共セクターでOSS活動を推進する専門組織OSPO(オープンソース・プログラム・オフィス)の設立や、国内外のOSSのカタログ作成など、先進事例を他の国や地域でも実現し、評価しやすくなるという点で政府関係者にとっても有用な成果をあげている。しかし同時に、これらの既存研究が政策の枠組みや意図を分析している一方で、行政OSSに関する実行レベルのアウトプット自体や活動数に関する国・地域別の実態や特徴は十分に把握されていない。特に、日本は既存研究における国際比較の中でほとんど参照されておらず、行政におけるOSS推進という視点での日本の位置付けは未だ不明瞭である。そこで、本レポートでは、「行政OSSの公開数は国や地域によってどのように異なるのか?」というリサーチクエスチョンに基づき、GitHub上で収集されたデータ分析結果を示す。
本レポートの構成は以下の通りである。第2章では、本リサーチの調査目的と手法を説明する。第3章では、調査結果として国ごとに収集されたデータの概要を説明し、各国の「公共セクターOSS」として特徴的な事例を一つずつ例示する。第4章では、第3章で整理したデータをもとに、「活動数」「時間軸」「技術分野」の三つの視点から国際的に比較する。第5章では、本レポートで得られた洞察をまとめる。
なお、本レポートは調査データに基づく直接的な分析結果のみを述べ、考察や議論は述べていない。本リサーチの結果をもとに、さらなるリサーチの可能性や行政実務への反映などさまざまな展開が予想されるため、それぞれの視点に基づく考察や議論については別途座談会を実施し、その収録結果を公開する予定である。