社会・産業のデジタル変革

2. 日本企業のOSS活用の実態と課題——2025年度ソフトウェア動向調査

2025年度オープンソース推進レポート:Part I 日本の現在地

本章では2025年度ソフトウェア動向調査 [独立行政法人情報処理推進機構, 2026]をベースに、日本企業のOSS活用状況の経年変化を分析する。2025年度は回答者の業種構成が2024年度 [独立行政法人情報処理推進機構, 2025]から著しく変化しており、単純な数値比較では業種ミックス効果が結果を歪める可能性がある。そのため、業種グループ(8区分)と企業種別(ユーザー系/ベンダー系)の複合ウェイトバック補正を実施し、2024年度を2025年度の複合分布に合わせた「補正後2024年度値」を算出した。補正前後を対比することで、純粋な年度変化と集団構成効果を分離する。

2.1 主要発見事項

2.1.1 母集団構成の変化

  • 2024年度はエネルギー・インフラ(水道・電気・ガス)が26.7%、金融・保険(銀行・信金等)が25.9%、運輸が15.8%を占め、3業種で全体の68.4%を占めていた

  • 2025年度は流通・サービス(26.0%)、情報通信(24.6%)、製造業(22.1%)が中心となり、業種構成が根本的に入れ替わった

  • ベンダー系企業の比率が14.6%から29.6%と約2倍増加。OSS活用率が高いベンダー系の増加が2025年度の実績を押し上げる方向に作用している

  • 補正ウェイトの最大値は建設業×ユーザー系の約16.4倍(2024年度 n=5社)。当該セルのサンプル不足は補正値の不安定要因となっている

2.1.2 OSSポリシー整備の前進

  • OSSポリシー整備率:2024年度実績 19.5%(補正後2024年度値 32.0%) から2025年度実績 36.7%

  • 補正効果 +12.5pt:2024年度は業種ミックス上、OSS活用度の低いエネルギー・インフラや金融機関が多かったため、実態より低く評価されていた

  • 補正後2024年度値と2025年度実績の差は +4.7pt。業種構成変化を除いた上でも実質的な整備進展が確認できる

2.1.3 OSS化の進展・OSPO設置の停滞

  • OSS化実施率:2024年度実績 4.6%(補正後2024年度値 12.0%)から 2025年度実績 15.2%(+7.4ptの補正効果、補正後も+3.2ptの実質進展)

  • OSPO設置率:2024年度実績 2.0%(補正後2024年度値 4.8%)から 2025年度実績 4.1%。実質的にはほぼ横ばいと解釈できる

2.1.4 OSS課題の構造変化

  • 2024年度の最大課題である「わからない」が34.8%(補正後2024年度値26.0%)から2025年度実績14.1%へ大幅減少。OSS課題認識の具体化が進んだ

  • 2025年度は「セキュリティ面の懸念」(25.7%)、「技術ノウハウ・人材不足」(21.5%)、「OSS文化の未醸成」(18.8%)の課題が上位に浮上

  • 「ルール・ポリシーなし」は補正後2024年度値で31.2%だったが2025年度実績では20.7%に減少。ポリシー整備の進展と連動している

2.2 回答母集団の特徴と変化

2.2.1 調査概要

2024年度と2025年度の調査は、同一の対象(国内企業のIT・情報システム担当者)に実施したアンケートであるが、2024年度は特定業種に回答が集中していた。それを踏まえ2025年度は平準化を図り、業種・企業規模別に無作為抽出した企業へ案内を行った。その結果、有効回答数が799件から362件に減少、さらに業種構成が大幅に変化した。

表 2-1 調査概要比較
項目 2024年度 2025年度 変化
調査対象 国内企業のIT・情報システム担当者 国内企業のIT・情報システム担当者
有効回答数 799件 362件 -437件
調査方法 ウェブアンケート ウェブアンケート
主な設問構成 6章構成(プロファイル/組織/技術/人材/レガシー/その他) 14設問グループ(Q1〜Q14)
DX、生成AI、ベンダーロックイン等が新設
大幅改訂

2.2.2 業種構成の変化

業種構成の変化が非常に大きく、補正なしの直接比較は結論を歪める可能性がある。2024年度はエネルギー・インフラ(26.7%)、金融・保険(25.9%)、運輸(15.8%)の3業種で全体の約68.4%を占めていた一方、2025年度はこれらの合計が14%未満に激減し、代わりに流通・サービス、情報通信、製造業が中心となっている。

表 2-2 業種グループ別構成比
業種グループ 2024年度
N
2024年度
%
2025年度
N
2025年度
%
増減
情報通信 158 19.8% 89 24.6% +4.8%
製造業 44 5.5% 80 22.1% +16.6%
金融・保険 207 25.9% 24 6.6% -19.3%
エネルギー・インフラ 213 26.7% 10 2.8% -23.9%
運輸 126 15.8% 15 4.1% -11.7%
建設業 5 0.6% 45 12.4% +11.8%
流通・サービス 39 4.9% 94 26.0% +21.1%
公務・その他 7 0.9% 5 1.4% +0.5%
合計 799 100.0% 362 100.0%

注意:構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはならない。

2.2.3 企業種別の変化

ベンダー系企業(受託開発・パッケージソフトウェアベンダー等)の比率が14.6%から29.6%へとほぼ2倍に増加した。ベンダー系はOSSポリシー整備率(49.6%)・OSS化実施率(19.7%)がユーザー系(14.4%・2.1%)を大きく上回る傾向があるため、ベンダー系比率の増加は実績ベースの2025年度OSS指標を押し上げるバイアスとなっている。

表 2-3 企業種別構成比の変化
企業種別 2024年度
N
2024年度
%
2025年度
N
2025年度
%
ユーザー系(ユーザー企業+情シ子会社) 682 85.4% 255 70.4%
ベンダー系(受託開発・パッケージ等) 117 14.6% 107 29.6%

2.3 正規化(複合ウェイトバック)手法

2.3.1 手法の概要

業種グループ(8区分)と企業種別(ユーザー系 / ベンダー系)の計最大16セルを層として、2024年度の回答データに対し事後層別ウェイト調整(Post-stratification Weighting)を実施した。各2024年度回答者には下式でウェイトを算出し、加重平均によって「補正後2024年度値」を求める。

ウェイト計算式

ウェイト(業種i × 企業種別j)=(2025業種iシェア × 2025企業種別jシェア)÷(2024業種iシェア × 2024企業種別jシェア)

補正の方向

2024年度データを2025年度の業種×企業種別構成に合わせて再重み付け。 補正後2024 = 2025年度と同一の集団構成で2024年度調査を実施したと仮定した場合の推定値。

ウェイトキャップ

設定なし(建設業×ユーザー系 16.4倍等、一部セルに極大ウェイトが発生)。

2.3.2 セル別ウェイト一覧

表2-4に主要セルのウェイト値を示す。エネルギー・インフラ×ベンダー系、運輸×ベンダー系、建設業×ベンダー系は2024年度のセルサンプル数がゼロのため計算対象外(スキップ)となった。建設業×ユーザー系(n=5)は16.4倍という極大ウェイトとなっており、補正値の分散増大要因となっている。

表 2-4 セル別ウェイト一覧
業種グループ 企業種別 2024年度
n

2024年度

シェア

2025年度

シェア

ウェイト 安定性
情報通信 ユーザー系 61 19.8%×85.4% 24.6%×70.4% 1.03x ○(安定)
情報通信 ベンダー系 97 19.8%×14.6% 24.6%×29.6% 2.51x ○(安定)
製造業 ユーザー系 35 5.5%×85.4% 22.1%×70.4% 3.31x ○(安定)
製造業 ベンダー系 9 5.5%×14.6% 22.1%×29.6% 8.10x ▲(不安定)
金融・保険 ユーザー系 204 25.9%×85.4% 6.6%×70.4% 0.21x ○(安定)
金融・保険 ベンダー系 3 25.9%×14.6% 6.6%×29.6% 0.52x ▲(不安定)

エネルギー・

インフラ

ユーザー系 213 26.7%×85.4% 2.8%×70.4% 0.09x ○(安定)

エネルギー・

インフラ

ベンダー系 0 × ×(対象外)
運輸 ユーザー系 126 15.8%×85.4% 4.1%×70.4% 0.22x ○(安定)
運輸 ベンダー系 0 × ×(対象外)
建設業 ユーザー系 5 0.6%×85.4% 12.4%×70.4% 16.4x ▲▲(極めて不安定)
建設業 ベンダー系 0 × ×(対象外)

流通・サービス

ユーザー系 32 4.9%×85.4% 26.0%×70.4% 4.39x ○(安定)

流通・サービス

ベンダー系 7 4.9%×14.6% 26.0%×29.6% 10.74x ▲▲(極めて不安定)
公務・その他 ユーザー系 6 0.9%×85.4% 1.4%×70.4% 1.30x ▲(不安定)
公務・その他 ベンダー系 1 0.9%×14.6% 1.4%×29.6% 3.18x ▲(不安定)
【安定性の凡例】各セルの2024年度サンプル数(n)とウェイト倍率による判定基準
  • ○ 安定:2024年度セルサンプルn≥20件かつウェイト≤5.0倍
  • △ 要注意:2024年度セルサンプルnが10〜19件、またはウェイトが5.0〜10.0倍
  • ▲ 不安定:2024年度セルサンプルnが1〜9件、またはウェイトが10.0倍以上(いずれか一方の条件を満たす)
  • ▲▲ 極めて不安定:2024年度セルサンプルnが1〜9件かつウェイトが10.0倍以上(小サンプルと極大ウェイトの両条件が重複)
  • × 対象外:2024年度セルサンプルn=0件(データなし。ウェイト計算不可のため補正対象外・スキップ)
【下降ウェイト(ウェイト < 1.0倍)についての補足】

上記の安定性判定(○ / △ / ▲ / ▲▲)は、主に上昇ウェイト(>1.0倍)による推定値の分散増大リスクを評価したものである。
一方、下降ウェイト(<1.0倍)のセルは推定値の分散を増大させないため、統計的な不安定性は生じない。ただし、2024年度に大量収集したサンプルが補正後にほとんど反映されなくなる「情報縮小」の問題が発生する。本データでの主な該当セルは以下の通りである。

  • ▼▼ 大幅縮小(ウェイト<0.1倍):エネルギー・インフラ×ユーザー系(n=213、ウェイト0.09倍→実効寄与約19件相当)
  • ▼ 縮小注意(0.1倍≤ウェイト<0.25倍):金融・保険×ユーザー系(n=204、ウェイト0.21倍→実効寄与約43件相当)、運輸×ユーザー系(n=126、ウェイト0.22倍→実効寄与約28件相当)

これらのセルについては、2024年度の大量サンプルが持つ業種固有の傾向(エネルギー・インフラ、金融・保険、運輸グループ)が補正後の集計にほとんど反映されない点に留意すること。業種固有の傾向を確認したい場合は、補正前の生データによる業種別単純集計を参照することを推奨する。

2.3.3 正規化の限界と注意事項

  • 建設業×ユーザー系(2024年度実績 n=5社)への極大ウェイト(16.4倍)は補正値の分散を著しく増大させる。当該セルに関わる数値は参考値として扱うこと

  • 設問の変更(選択肢・スコープの違い)は補正対象外。

  • 補正は周辺分布の独立性(業種構成と企業種別構成の独立)を仮定している。実際の交互作用は近似的にしか除去されない

  • エネルギー・インフラ×ベンダー系・運輸×ベンダー系・建設業×ベンダー系は2024年度サンプルがゼロのためスキップ。当該セルへの影響は補正不可

2.4 OSS関連設問の比較分析

2024年度と2025年度のOSS関連設問の対応を以下に示す。

表 2-5 OSS関連設問の対応
設問テーマ 2024年度
設問No
2025年度
設問No
変更点
OSSポリシー制定状況 Q3-8 Q7-1
(OSS項目)
設問構造を変更。2024年度は4タイプ別マトリクス、
2025年度はOSS採用ポリシー1項目(他カテゴリと統合)
OSPOの設置状況 Q3-9 Q9-3 選択肢を整理し、2025年度は「開発を実施していない」を追加
自社ソフトウェアのオープンソース化状況 Q3-10 Q9-1 選択肢を整理し、2025年度は「開発を実施していない」を追加
OSSコミュニティ参画状況 Q3-11 Q9-2 2024年度は単一選択、2025年度は複数選択に変更。貢献の種類を詳細化
OSS利用時に関する課題 Q3-12 Q9-4 選択肢を整理・拡充。ライセンス・人材・文化・経営層等の新項目を追加
ビルディングブロック型開発の取組状況(OSS関連) Q8-1 2025年度から新設

2.4.1 OSSポリシーの整備状況

設問対応
  • 2024年度「Q3-8. OSSに関するポリシーの制定状況(1. OSS利用)」
  • 2025年度「Q7-1. 社内ポリシーの整備状況(3. OSS採用)」

注意)選択肢・質問文が変更されているため、直接比較は参考値として扱う。

OSSポリシーを整備している組織(全社統一+部署単位)の割合は、2024年度実績19.5%から補正後2024年度値32.0%に上昇し、2025年度実績36.7%と比べると差は+4.7ptに縮小した。補正効果は+12.5ptと大きく、2024年度はエネルギー・インフラ(ポリシー整備率9.9%)や金融・保険(16.9%)が全体を大きく押し下げていたことが主因である。
補正後も2025年度実績との間に+4.7ptの差が残っており、業種構成変化を除いた上での実質的なポリシー整備の進展が示唆される。2024年度の「ポリシーなし」が51.4%(411件)だったのに対し、2025年度は「定めておらず今後も予定なし」が30.1%(109件)にとどまり、「今後定める予定」が23.0%(83件)存在することも前進を示している。

表 2-6 OSSポリシー整備率の補正前後比較
指標 2024年度実績 補正後2024年度値 2025年度実績 補正後差
(補正後→実績)
OSSポリシー整備率
(全社統一+部署単位)
19.5% 32.0%
補正効果+12.5pt
36.7% +4.7pt

2.4.2 OSPOの設置状況

設問対応
  • 2024年度「Q3-9. OSPOの設置状況」
  • 2025年度「Q9-3. OSPOの設置状況」

注意)2025年度に選択肢「開発を実施していない」が追加されており、直接比較には留意が必要。

OSPOまたは同等部門が設置済みの組織は2024年度実績2.0%から補正後2024年度値4.8%に上昇し、2025年度実績4.1%をわずかに上回る。これは2024年度に多かった金融・保険(OSPOが多い傾向)やエネルギー・インフラのウェイトが補正によって調整された結果である。設置済み+計画中の合計でも補正後2024年度値7.0%(2025年度実績6.9%)とほぼ一致しており、OSPO指標については業種・企業種別構成の変化でほぼ説明できる。

表 2-7 OSPO設置状況の補正前後比較
指標 2024年度
実績
補正後
2024年度値
2025年度
実績
補正後差
(補正後→実績)
OSPO設置済み 2.0% 4.8% 4.1% -0.7pt
OSPO設置済み+計画中 3.1% 7.0% 6.9% -0.1pt

2.4.3 オープンソース化状況

設問対応
  • 2024年度「Q3-10. オープンソース化状況」
  • 2025年度「Q9-1. オープンソース化状況」

注意)2025年度に選択肢「開発を実施していない」が追加されており、直接比較には留意が必要。

OSS化実施率(積極的+一部)は2024年度実績4.6%から補正後2024年度値12.0%に上昇し、2025年度実績15.2%との差は+3.2ptとなった。補正効果(+7.4pt)は業種ミックス変化を反映しており、2024年度に多かった金融機関・水道等はOSS化率が極めて低いため補正前の値が押し下げられていた。補正後でも+3.2ptの実質的な進展が残る点は、OSS化が実際に加速していることを示す。

表 2-8 OSS化実施率の補正前後比較
指標 2024年度
実績
補正後
2024年度値
2025年度
実績
補正後差
(補正後→実績)
OSS化実施率 (積極的+一部) 4.6% 12.0%
補正効果+7.4pt
15.2% +3.2pt

2.4.4 コミュニティ貢献

設問対応
  • 2024年度「Q3-11. OSSコミュニティ参画状況(単一選択)」
  • 2025年度「Q9-2. OSSプロジェクトへの貢献(複数選択)」

注意)2024年度は単一選択(「国際/国内コミュニティへの参画」のいずれか)、2025年度は複数選択(貢献種別8項目)と設問形式が根本的に変更されている。設問形式の変更が結果の大部分を規定しており、年度間の直接比較は適切ではない。以下の数値は参考値として提示する。

2024年度の単一選択ベースのコミュニティ参画率(国際・国内いずれか)は2.5%(補正後2024年度値7.3%)であった。2025年度は複数選択方式で「何らかの活動あり」が30.1%となっているが、この差は設問変更を反映したものであり実態変化として解釈できない。2025年度の個別貢献項目では「保守契約・商用サポートによる間接支援」(6.6%)、「社内ツールのOSS化・再利用促進」(7.2%)、「フォーラム・イベント等での知見共有」(6.1%)が上位を占める。

  • この画像には「Q9-2. オープンソースプロジェクトへの貢献」の調査結果のデータが含まれています。詳細は「図表の内容(テキスト読み上げ用)」で確認できます。
    図 2-1 Q9-2. オープンソースプロジェクトへの貢献(2025年度ソフトウェア動向調査より)
図表の内容(テキスト読み上げ用)

横棒グラフ「Q9-2. オープンソースプロジェクトへの貢献」。全体(n=362)、ユーザー企業(n=255)、ベンダー企業(n=107)の各回答比率(全体/ユーザー企業/ベンダー企業の順)。

  1. 社員によるソースコードの提供:5.2% / 3.5% / 9.3%
  2. 保守契約や商用サポートの購入によるOSS維持のための間接的な支援:6.6% / 6.3% / 7.5%
  3. コミュニティのフォーラムやイベント等での知見共有や議論参加:6.1% / 3.1% / 13.1%
  4. プロジェクトやイベントへのスポンサーシップ等による金銭的な支援:1.1% / (表示なし) / 3.7%
  5. 社内開発したツールやライブラリ等をオープンソース化し、再利用を促進:7.2% / 5.1% / 12.1%
  6. わからない:11.9% / 12.5% / 10.3%
  7. その他:0.6% / 0.4% / 0.9%
  8. 特に活動していない:69.9% / 73.7% / 60.7%

全体の約7割が「特に活動していない」と回答。ベンダー企業はユーザー企業より各種貢献活動の実施率が高い傾向。

2.4.5 OSS活用に関する課題

設問対応
  • 2024年度「Q3-12. OSS利用時に関する課題(複数選択)」
  • 2025年度「Q9-4. OSS活用に関する課題(複数選択)」

注意)選択肢が大幅に拡張・再編されているため、対応する項目のみ比較する。

最も注目すべき変化は「わからない」の激減(2024年度実績34.8%→補正後2024年度値26.0%→2025年度実績14.1%)である。補正後でも26.0%だった「わからない」が2025年度では14.1%となっており、業種構成変化によらない実質的な意識変化が確認できる。OSSへの理解・認識が組織全体で具体化している表れと解釈できる。
また「ルール・ポリシーなし」は補正後2024年度値で31.2%だったが2025年度実績では20.7%へと減少しており、ポリシー整備率の上昇(2.4.1節)と表裏一体の変化として理解できる。一方2025年度に新設された「セキュリティ面の懸念」(25.7%)・「技術ノウハウ・人材不足」(21.5%)・「OSS文化の未醸成」(18.8%)が上位課題として浮上しており、OSS活用の裾野拡大とともに課題が高度化・具体化していることを示す。

表 2-9 OSS課題項目の比較(2024年度 vs 2025年度)
課題項目 2024年度
実績
補正後
2024年度値
2025年度
実績
設問の比較
ルール・ポリシーなし 27.2% 31.2% 20.7% 同一設問
メンテナンス不安 / セキュリティ懸念 24.0% 30.6% 25.7% 類似設問
商用サポートがない 18.1% 20.9% 19.3% 同一設問
詳細情報入手困難 / 公的情報サイトなし 14.4% 17.8% 6.9% 類似設問
わからない 34.8% 26.0% 14.1% 同一設問
特になし 15.5% 16.1% 36.5% 類似設問
(2025新設)技術ノウハウ・人材不足 21.5%
(2025新設)OSS文化が育っていない 18.8%
(2025新設)ライセンス遵守・知財体制未整備 17.7%
(2025新設)経営層の理解・支援不足 2.5%

2.5 主要指標サマリーと正規化効果

2.5.1 OSS主要指標の全体比較

表 2-10 OSS主要指標の全体比較
OSS指標 2024年度
N
2024年度
実績
補正後
2024年度値
2025年度
N
2025年度
実績
OSSポリシー整備済み(全社+部署単位) 799 19.5% 32.0% 362 36.7%
OSPO設置済み 799 2.0% 4.8% 362 4.1%
OSPO設置済み+計画中 799 3.1% 7.0% 362 6.9%
OSS化実施(積極的+一部) 799 4.6% 12.0% 362 15.2%
【参考指標】コミュニティ参画状況について

コミュニティへの参画状況については、2024年度と2025年度で設問形式が根本的に異なるため、年度間の直接比較は適切ではない。数値の差は実態変化として解釈できない点に留意し、各年度の参考値として以下に示す。

  • 2024年度実績:参画率2.5%(補正後2024年度値:7.3%)
    • 「国際/国内コミュニティへの参画」のいずれかを選択する単一選択方式で実施。
  • 2025年度実績:「何らかの活動あり」が30.1%
    • 貢献種別8項目を問う複数選択方式で実施。
    • 具体的な活動の上位は、「社内ツールのOSS化・再利用促進(7.2%)」、「保守契約・商用サポートによる間接支援(6.6%)」、「フォーラム・イベント等での知見共有(6.1%)」となっている。

2.5.2 業種別・企業種別クロス分析

各グループ内の補正方法を統一し、より適切な比較を可能にするため、本節の「補正後2024年度値」は以下の方法で算出している。

業種別

各業種のサンプルを対象に、その業種内のユーザー系/ベンダー系比率を2025年度の実績比率に合わせて補正する(業種内企業種別比率補正)。ただし2024年度にベンダー系が存在しない業種(エネルギー・インフラ、運輸、建設業)は補正不可のため2024年度実績のままとする。

企業種別

ユーザー系・ベンダー系それぞれのサンプルを対象に、その企業種別内の業種構成比率を2025年度の実績比率に合わせて補正する(企業種別内業種構成補正)。
この方法により、比較軸(業種または企業種別)以外の変数を2025年度水準に揃えた上で年度間比較を行う。ただし各分析軸の補正はあくまで当該グループ内の調整であり、全体集計の手法(業種と企業種別の複合補正)とは数値が異なる。

表 2-11 業種別 OSSポリシー整備率の補正前後比較
業種グループ 2024年度
N
2024年度
実績
補正後
2024年度値
(注1)
2025年度
N
2025年度
実績
補正可否
情報通信 158 39.9% 45.5% 89 60.7% 補正適用
製造業 44 38.6% 31.0% 80 30.0% 補正適用
金融・保険 207 16.9% 15.7% 24 29.2% 補正適用
エネルギー・インフラ 213 9.9% 10 60.0% 補正不可 (注2)
運輸 126 10.3% 15 13.3% 補正不可 (注2)
建設業 5 20.0% 45 22.2% 補正不可 (注2)
流通・サービス 39 15.4% 15.3% 94 31.9% 補正適用
公務・その他 7 0.0% 0.0% 5 0.0% 実績0・n少

補正方法:各業種内のユーザー系/ベンダー系比率を2025年度の実績比率に合わせて補正

表 2-12 企業種別 OSSポリシー整備率の補正前後比較
企業種別 2024年度
N
2024年度
実績
補正後
2024年度値
(注1)
2025年度
N
2025年度
実績
補正可否
ユーザー系 682 14.4% 20.0% 255 28.2% 補正適用
ベンダー系 117 49.6% 41.2% 107 57.0% 補正適用

補正方法:各企業種別内の業種構成比率を2025年度の実績比率に合わせて補正

表の見方と補足

  1. (注1)
    補正後2024年度値の計算方法は各セクション(業種別 / 企業種別)の比較軸ごとに異なる。全体集計の補正後値とは算出方法が異なるため数値が一致しない。
  2. (注2)
    エネルギー・インフラ、運輸、建設業は2024年度にベンダー系回答者がゼロのため企業種別比率補正が適用できない。「補正不可」は補正が実施されていないことを示す。2024年度実績と2025年度実績の差は業種構成変化の影響を含んでいる可能性があり、実質的な年度変化として解釈する際は留意が必要。
  • エネルギー・インフラ(2025年度n=10)、建設業(2024年度n=5)はサンプル数が極端に少なく、2025年度実績60.0%・22.2%は統計的に不安定。業種固有の趨勢として過度に依拠しないこと。

  • 公務・その他は2024年度(n=7)・2025年度(n=5)ともにポリシー整備済みの回答がゼロであったため整備率0.0%となっているが、サンプル数が極めて少なく業種全体の実態を代表しているとは言えない。「整備が進んでいない」と積極的に解釈せず、評価困難として扱うこと。

  • 製造業(補正後2024年度値31.0%≒2025年度実績30.0%)は補正後差1.0ptとほぼ同水準。2024年度の製造業ベンダー比率(20.5%)が2025年度実績(5.0%)より高かったため補正後に下降。実質的な年度変化はほぼなし。

  • ベンダー系の補正後2024年度値41.2%が2024年度実績(49.6%)より下降するのは、2024年度のベンダー系の大半が情報通信(OSSポリシー高整備率業種)に偏っており、2025年度はより多様な業種に分散しているため。

2.6 考察と結論

2.6.1 複合ウェイトバック補正が示す集団構成効果

業種と企業種別の複合ウェイトバックを適用した結果、2024年度調査における本来の集団で取得された場合の推定値(補正後2024年度値)は、実績より全指標で高い値となった。これは2024年度の調査において、OSS活用度の低いエネルギー・インフラ業(水道176社・電気23社等)や金融機関(銀行等207社)・運輸業(港湾・航空等126社)が過大に抽出されていたことを意味する。言い換えれば、2024年度の実績は「業種ミックス効果」により実態より低く見えていた可能性がある。
補正前後の差(集団補正効果)はOSSポリシー整備率で+12.5pt、OSS化実施率で+7.4ptと大きい。OSPO設置率については補正後2024年度値(4.8%)が2025年度実績(4.1%)をわずかに上回るが、これは2024年度に多かった金融機関(OSPOへの意識が比較的高い)の比重が補正後に適正化された結果であり、実質的にはほぼ横ばいと解釈できる。

2.6.2 OSS活用環境の変化に関する考察

ポリシー整備の加速

補正後2024年度値(32.0%)から2025年度実績(36.7%)の差+4.7ptは業種構成変化を除いた純粋な整備進展。サプライチェーンセキュリティ・SBOM整備議論の高まりが背景にあると考えられる。

OSS化への意識変化

補正後2024年度値(12.0%)から2025年度実績(15.2%)の+3.2ptは実質的な加速。

課題の高度化

「わからない」の激減と、「人材不足」「文化醸成」「セキュリティ」を課題として挙げている企業の絶対数が多いことは、OSS活用が認識段階から実践段階へ移行していることを示す重要な変化である。

OSPO普及の停滞感

OSPO設置率は4%台に留まり、組織的なOSS管理体制の整備は依然多くの企業で未着手。欧州・米国との差を縮めるためにはさらなる政策支援が必要と示唆される。

2.6.3 結論

複合ウェイトバック補正を適用した分析により、2024年度から2025年度にかけての国内企業のOSS活用環境の変化を業種・企業種別ミックス効果を排除した上で評価することができた。主要結論は以下の通りである。

  • OSSポリシー整備率は補正後2024年度値32.0%から2025年度実績36.7%へと実質+4.7ptの進展が確認され、補正を施した上でも有意な上昇が残る。

  • OSS化実施率は補正後2024年度値12.0%から2025年度実績15.2%へ+3.2ptの実質進展。OSS活用の裾野拡大が実態として進んでいる。

  • OSPO設置率は補正後2024年度値と2025年度実績がほぼ同水準(どちらも4%台)であり、実質的な変化は軽微。組織的OSS管理体制の整備は引き続き課題。

  • OSS活用に関する課題として「わからない」の大幅減少(補正後2024年度値26.0%→2025年度実績14.1%)は、OSS認識の成熟化を示す最も明確なシグナルの一つである。

  • 2025年度最大の課題は「セキュリティ懸念」(25.7%)と「技術ノウハウ・人材不足」(21.5%)。OSS実践拡大に伴う人材育成・セキュリティ管理への取り組みが急務となっている。