デジタル人材の育成
公開日:2026年6月29日
飲料体験において、口に含んだ瞬間の第一印象から余韻に至る味の時間変化は重要である。しかし、従来の飲用スタイルではこの時間的展開を意図的に制御することは困難であった。本プロジェクトは、異なる特性を持つ複数の液体を物理的に分離したまま時系列順に口腔内へ提示し、味覚のタイムラインを自在に編集可能にするシステムを開発する。
流体制御ハードウェアとして、ポンプ制御により液体セグメントの間に空気層を挿入し、単一のチューブ内に配列して送液する機構を構築する。これにより、物理的な混合を防ぎつつ、ひとくちの中の時間的段階の制御を実現する。
ソフトウェアは2つの機能で構成される。第一に、DAW(Digital Audio Workstation)型のタイムライン編集GUIにより、液体セグメントと空気層を時間軸上に直感的に配置・再生・調整できる環境を提供する。第二に、ユーザの嗜好を効率的に理解するための探索支援機能を実装する。計算機が提案した複数の味シーケンスをユーザが比較試飲することで、計算機がユーザの好みを推定できるようにする。手動編集と計算機による探索提案を反復させることで、ユーザは味の時間変化レベルで嗜好を理解できるようになる。最初の対象飲料としては、時間的な味覚構造の検証に適したコーヒーを用い、時間的な味覚構造の提示効果を検証するとともに、ユーザテストを通じて本システムの有用性を明らかにする。
空間的混合から時間的配列へと飲料体験の構造を転換する点が本プロジェクトの核心である。ハードウェアによる物理的制約の打破と、ソフトウェアによる編集・探索の両輪を通じて誰もが味のプログラマとなれる新たな飲料体験を創出する。
本提案は、飲料の味覚体験を時間軸上で編集可能にするという非常に独創的な発想に基づいており、Food HCI分野における新たな制御次元を提示するものとして高く評価できる。特に、DTMにおけるタイムライン編集の考え方を味覚体験に応用し、液体セグメントを時間的に配置・再生・調整するという着想は直感的かつ魅力的であり、「味のタイムラインをプログラムする」という新しい体験の可能性を感じた。
技術面においても、液体を空気層で分離しながら単一チューブ内で順次提示するという手法はシンプルでありながら本質を突いており、混合では実現できない味覚提示を可能にする点で説得力がある。既にプロトタイプの実装や予備実験による時間的味覚変化の知覚確認まで進んでいる点から、提案者の実装力と着実な検証姿勢が伺える。
さらに、提案者自身がコーヒーに対する深い関心と経験を有し、焙煎士との対話を通じて専門知見を取り込むなど、プロジェクトに対する強いモチベーションと推進力を感じた。本提案はややユニークで挑戦的な側面を持ちながらも、これまで十分に扱われてこなかった「味覚の時間構造」に真正面から取り組むものであり、未踏事業として取り組むに相応しい魅力を備えている。
本提案は、ハードウェア・ソフトウェア・身体知覚を横断しながら、味覚体験を新しいメディアとして再構成しようとする意欲的な取り組みである。プロジェクト期間を通じて、原理検証にとどまらず、体験としての完成度や社会的な見せ方まで踏み込んでいくことで、大きな広がりを持つプロジェクトへと発展していくことを期待して採択した。
2026年6月29日
2026年度採択プロジェクト概要(清水PJ)を掲載しました。