デジタル人材の育成
公開日:2025年2月14日
株式会社リンクアンドモチベーションの川津さんは、子どものころからプログラミングに親しんでいたという筋金入りのソフトウェアエンジニアです。現在はマネジャーとして複数のプロジェクトを統括する立場ながら、「生涯一エンジニアとして頂点を極めたい」と語る川津さん。仕事の魅力や転機となったプロジェクト、エンジニアの成長のポイントなどを聞きました。
根がエンジニア気質なのか、小学生のときから電子工作やプログラミングに熱中していました。大学でソフト開発を学び、2008年に新卒で入社したリコーグループのIT子会社では、ハードウェアに組み込むソフトを手始めに、フロントエンド、バックエンド、クラウドインフラの開発からプロジェクトマネジメントまで経験しました。
その後、転職エージェントからスカウトされ、2021年9月にリンクアンドモチベーションへ。リンクアンドモチベーションは組織・人事コンサルティングサービスを提供するとともに、企業変革や人材育成を支援するクラウドサービスなどを内製している会社です。私自身、事業会社でプロダクトをつくってみたかったことに加え、組織改善にも興味があったので、スカウトを承諾しました。私が所属するプロダクトデザイン室はまさに開発を担う部署で、エンジニア、デザイナー、データサイエンティストなどが100名ほど在籍しています。
3つの主要なプロジェクトを統括しています。ひとつ目は3つのクラウドサービスを統合するプロジェクト、2つ目はAIを活用した生産性向上プロジェクトで、これらはグループマネジャー(一般企業の課長に相当)として取り組んでいます。3つ目はエンジニアリングマネージャーとして、全社的な技術力向上の取り組みや開発現場の課題解決に当たるというもの。マネジメント業務のボリュームが大きいですが、自分で手を動かすことも好きなので、ソフトウェアエンジニアとして設計やコーディングの作業も並行して行っています。
前職の話になりますが、ある開発が5年目に入ったころ、仕事を進めるうえで違和感を抱くようになったのです。原因を突き詰めていくと、プロジェクト立ち上げ時のアーキテクチャ(基本の仕様や設計)の詰めが甘いことが明らかになりました。
これは業界ではよくある話です。立ち上げではスピードが求められますし、最初からすべての要素が見えているわけではないので致し方ないところもあります。ただ、不完全なアーキテクチャは技術的負債となって開発に悪影響を及ぼすこともあるので、本来ならばリプレースの際などに改善策を提案できればよかった。しかし、このときは経験が浅かったこともあり力が及びませんでした。
この悔しさがバネとなって、言われたことをこなすだけのエンジニアではダメだ、改善に向けて何をすればいいかを考え、周りを巻き込みながらやり抜く、決断力や提案力も備えなければいけないと思い至り、以降は意識して仕事に取り組むようになりました。
自分が戦略を立てる立場になった今は、そうしたエンジニアの感覚をうまくすくい上げられるようなチームづくりを目指しています。同時に、自分もプレーヤーとして開発現場に半身を置くことで、改善のポイントを探るようにしています。
周りのメンバーの役に立てたときや頼られたりしたときはうれしいですね。あまり知られていないテクニックを披露したときなど、称賛のまなざしで見られると自尊心がくすぐられます(笑)。
技術や知識をしっかり理解して身に付けていれば、それがそのまま力となって成果に結びつくところがこの仕事の素晴らしさでしょう。言い換えれば、表層的な理解では歯が立たない局面が多くあるわけです。私の場合、「これはどういう構造になっているんだろう」「どうして動いているんだろう」という生来の旺盛な探求心が、エンジニアとしての強みにつながっていると思います。
エンジニアリングに特化した話でいうと、かつてはフロントエンジニア、バックエンドエンジニアなど役割を固定化することが一般的でしたが、エンジニアのキャリア形成や変化に強い開発体制の構築という観点から、最近はこれとは反対の流れが起きています。つまり、ひとつのミッションにそれぞれが柔軟に取り組むというもので、私もこの手法を取り入れています。
個々のメンバーには得意領域があるものの、私の経験上、1~2年取り組むとその領域はほぼできるようになると思っています。そのため、フロントをマスターしたら次はバックエンドもやってみようといった具合に、いろいろな領域に挑戦してもらうようにしています。ひとつのことができるようになったらそこに停滞せず、新しいことに飛び込んでみる——そのほうがエンジニアとしても強くなると思います。
AIがどんなに進化しても、プログラマーが不要になることはないと思います。それは過去の技術革新からもいえることです。プログラミングの世界は新陳代謝が激しく、習得した言語が使われなくなることがままあります。しかし、だからといってエンジニアとして力量が落ちるわけではありません。むしろ古い技術を含めて知識が豊富にあれば、技術の本質をつかみやすくなり、それがアドバンテージとなるのです。現にAI開発や、少し前ではDockerなどコンテナ技術が流行っていますが、それは以前からある技術(Linux や機械学習など)をベースにして動いています。新しい技術は古い技術の上に成り立つので、昔の知識があることで新しい技術が出てきたときに「これの応用だな」とわかるわけです。
AIが出てきたからといって今までの知識が無駄になることはないですし、裏を返せば今までの知識がある人ほど AI もうまく使いこなせるということ。ですので、AIの使い方を学ぶだけでなく、それがどういう仕組みで動いているのか、生成AIツールのソースコードを調べてみるなど、深層まで理解するように努めることが大事だと思います。
その通りです。深層までしっかり学んだものは決して無駄になりません。新しい技術が登場したときも、その知識を応用して即座に対応できます。技術を深く理解して土台を頑丈にすることで大木のように育つことができれば、そのエンジニアは何年経っても活躍できるでしょう。強いエンジニアというのはそういうことなのかなと思います。
世の中で活躍されている人は、一つひとつの疑問に対してかなり深くまで理解しようと人一倍努力している、そんな印象があります。ちょっとした引っ掛かりを放置せず、そこから根本的な理解や学びを得る。そういう反復処理を粘り強く繰り返すことが成功につながるのではないでしょうか。
ひとつは、マネジャーとしてみんなの力を集約しやすくなったので、一人ではできない大きな事業に取り組んで形にしていきたいですね。もうひとつは「すごいエンジニア」になること。技術者として頂点に立ちたい思いがあるので、マネジャーでありながらも生涯一プレーヤーとして技術を極めていきたいと思っています。
それともうひとつ、エンジニアとしてより確度高く成長できるメソッドを確立できたらと考えています。部下のキャリア相談に乗ることがよくあるのですが、努力がなかなか成果に表れづらい人もいます。私なりの方法論を伝えることで、周りのメンバーやこの仕事を目指す後進の方々が、強くたくましく育つ手伝いができたら嬉しいですね。
学び続けること、それも深く学ぶこと、つまり技術の表面的な理解だけでなく、その仕組みや原理まで深く理解することを意識してほしいと思います。部下にもいつも「疑問を一片たりとも残すな。真の理解をしろ」と言っています。
学ぶ方法は記事を読む、コードを読むなどさまざまありますが、やはり代表的なのは本を読むことでしょう。それも、できることならベストセラー本や人から勧められた本でなく、自分が興味のある本を選ぶこと。エンジニアに限らず、本を読みたいけれども何がいいか選べないという人が増えているようで、それは知識欲や探求心の乏しさの表れであるような気がします。「この分野をもっと深く知りたい」「この道を極めてみたい」という内なる欲求に従って本を選んで読み込むことが、技術を追い求める姿勢につながるのではないでしょうか。
そんなふうに日々の学びは深く切り込む一方で、キャリア形成の観点では2年くらいで領域を変えていく——。そんな意気込みで、できることを積極的に広げていくといいと思います。
かわつ ゆうすけ
川津 雄介
プロフィール
株式会社リンクアンドモチベーション
プロダクトデザイン室
Developer Productivityユニット
グループマネジャー
経歴
1985年生まれ。会津大学コンピュータ理工学部卒業。リコーITソリューションズ株式会社を経て、2021年9月に株式会社リンクアンドモチベーション入社。グループマネジャーとして、複数のプロジェクトを統括するかたわら、ソフトウェアエンジニアとして設計やコーディングにも取り組む。