デジタル人材の育成
公開日:2024年9月20日
世界的に大きな注目を浴び、DX推進でも威力を発揮する生成AI。そうしたAIを活用して革新的なソリューションの開発に取り組んでいるのが、株式会社リンクアンドモチベーションの白田さんです。ソフトウェアエンジニアとしてのやりがいやチームワークの重要性、今後身につけたいスキルなどについてうかがいました。
当社は、モチベーションにフォーカスした組織・人事コンサルティングを事業ドメインとしています。企業向けには組織力や人材力の強化を目的としたコンサルティングや研修サービスのほか、クラウドサービスを通じた企業変革支援事業などを展開しており、個人向けには人材育成サービスなどを提供しています。私が主に関わっているのは、企業向けの人材コンサルティングとそのクラウド化の部分です。
大学院で光通信を研究していまして、プログラミングもかじっていました。コードを書くのが嫌いではなかったことに加え、私が就職活動を行った2020年当時、当社はエンジニア組織がまだそれほど大きくなく、キャリア形成のうえでさまざまなチャンスがあると感じ入社を決めました。
エンジニアの部署(現・プロダクトデザイン室)に配属され、研修を受けてデータサイエンティストとしてスタートを切りました。コンサルタントと協力して顧客企業向けにデータ分析をしたり、そのレポートを作成したりといった仕事です。その後、自社が提供するサブスクリプション型のITプロダクトについて、機械学習を活用してユーザーの継続(再契約)見通しを予測し、継続率を改善するための仕組みづくりを行う業務にも携わりました。
そうこうするうち、2022年11月に生成AIのChatGPTがウェブで公開されました。ちょっと触ってみたところ、テキストや画像を自動で生成できて驚きました。学生時代からAIには大きな可能性を感じていましたが、その一端に触れた気がしました。そのころサッカーの日本代表がスペイン代表を下して、職場はその話題で持ち切りでしたが、私は「ChatGPTのほうが断然やばいです!」と上司に熱弁を振るったほどです(笑)。それが功を奏したのか、生成AIを活用した新規機能開発プロジェクトが社内で立ち上がった際、上司がメンバーとしてCTOに私を推薦してくれました。こうしてソフトウェアエンジニアとしてプロジェクトに参加することになりました。
顧客企業の管理職や人事担当者向けに、組織改善や人材マネジメントに関する相談に生成AIが回答するチャットボット機能を、Webアプリケーションに実装しました。相談に対し、生成AIが当社に蓄積されている膨大なナレッジを用いて回答できるようにしています。
その後、生成AIを活用して社内の業務効率化を図るツールの開発を経て、現在は再び生成AIを実装したWebアプリケーションの開発に取り組んでいます。生成AIを活用した過去2件の案件が機能開発だったのに対し、今回はプロダクトを新規につくるということでスケールが拡大しています。詳細は開発中なので申し上げられませんが、ゆくゆくはコンサルタントに代わってAIがお客様のお悩みに対応したり、アクションプランを助言したりできるものをつくりたいと思っています。疑似コンサルタントを増やすようなものなので、そうなればより多くのお客様、例えば現場担当者といった方々の支援もできるようになります。
上述のプロダクト開発に際して仕事の幅も拡大しています。コンサルタントや営業担当者と一緒に顧客ニーズを聞く、そこから生まれたアイデアと社内の技術をすり合わせて企画をブラッシュアップする、さらにユーザーの使いやすさを追求するため画面デザインを考えるなど、デザイナーとソフトウェアエンジニアを兼ねた役割を担っています。
Webアプリケーションの開発に取り組む際は、ネットワーク構成や開発の基本事項といった知識が必要でしたので、先輩に教えてもらいながらマスターしていきました。生成AIを使った開発に関しては、社内はもちろん世界的にも前例がないものですから、インターネットで検索したり、エンジニア向けのチャット空間で勇気を出して英語で質問するなどして知識を蓄えていきました。新たなスキルの獲得は大変といえば大変ですが、「もっと知りたい、学びたい」という知的好奇心のほうが上回ります。
本人の意欲と周りのサポート環境があれば、1人が複数の類型をカバーすることは十分可能だと思います。むしろ当社の場合、役割を固定化するというより、自分が関わるビジネスで幅広く価値を提供するため、できることは何でもやろうというマインドが浸透しています。自分の役割や立場において必要なことを、その都度身につけていくわけです。一直線に頂上を目指す“山登り的なキャリア”と、その場その場で必要なものを取り入れる“川下り的なキャリア”があるとすれば、私は後者。そういうタイプの場合、やりたいことがあれば飛び込んで、実践を通じて試行錯誤することが成長につながると感じます。
案件や状況によりますが、おおむね5~10人ですね。プロジェクトで目指すものを定義してプロセスを管理しつつ、でき上がったものをコンサルタントや営業担当者と一緒にユーザーに展開していくビジネスアーキテクト、ユーザーの視点でインターフェースやデザインを練るデザイナー、実際に機能をつくり込んでいくソフトウェアエンジニアという3つの役割でチームを組むことが多いです。当社ではデータサイエンティストやサイバーセキュリティ担当者は、組織図上は事業横断の横軸で存在し、プロジェクトごとにアサインされる形を取っています。
自分が企画したプロダクトや機能を多くの方に使っていただける、そして喜んでいただけることです。あるツールのベータ版(試用版)をユーザー限定で公開した際には、それを聞いた対象外のお客様が「うちの会社でも使いたい」と申し出てくださいました。自分がつくったものが求められていると実感し、うれしくなりました。AIの進化で、今後はプログラミングの知識がなくてもアプリケーションをつくれるようになるでしょう。しかし、それが実際に使われるものになるかどうかは別問題です。せっかくつくっても、使われなければ価値はゼロだと私は思っています。
ユーザーに喜ばれるもの、価値あるものをつくるには、他のメンバーとの連携が欠かせません。1人ではできないことも、それぞれの専門性でカバーして強みを掛け合わせることで大きな力になります。言い換えれば、それができなければいいものはつくれないということです。「ここは自分がやる、そちらは君に任せた」と背中を預け合った状態でひとつのプロダクトをつくるわけです。そのことにより責任感が生まれますし、やる気にもつながっていきます。
気になることは受け流さず、すぐ確認するようにしています。構想や企画の段階では会話の抽象度が高いので、内容が一致しているように聞こえても、それぞれが頭の中で考えているアプリケーションの完成図が実は違っていることもあります。行き違いが判明してから「実は心配だった」なんて言われたら、自分としてはすごく嫌ですし、チームの士気も下がるでしょう。後から言うのではなく、違和感を持ったらその場で表明することが、メンバーとの信頼関係を築くうえでも、よいアウトプットをつくるうえでも大切だと思っています。
それに、自分としても納得のいくモノづくりをしたいですしね。つくったものが本当に価値につながるか、お客様が期待した効果を発揮するかは、そのときになるまでわかりません。しかし、言われたものをただつくるだけでは成果につながらない可能性が高まるので、その意味でも自分の視点で懸念や改善策が見えているなら、率直にチームメンバーに伝えるべきだというのが私の考えです。
幸い当社は風通しがよく、ざっくばらんに議論ができます。どんな開発も一筋縄ではいかないものですが、価値あるものをつくりたいという思いを共有していれば、みんなが同じ方向を向くことができると思います。
まずは現在つくっているプロダクトを完成させてリリースし、お客様に満足していただくことです。生成AIを用いて顧客の課題を解決できるものをつくることは当社にとっても意義があると思いますし、自分自身のキャリアにもよい影響をもたらすと思います。社内外に誇れる成果をしっかりつくっていきたいですね。
デザイナーのスキル向上に加えて、ビジネスアーキテクトの能力も養っていきたいです。ビジネスアーキテクトとしてより広い視野でプロジェクトを見渡すことで、プロダクトの価値を高める、売上につなげるなど、できることがさらに広がると思います。もちろんソフトウェアエンジニアのスキルは無駄になるわけではありません。例えば自分でプロトタイプをつくれば、アイデアをスムーズにメンバーと共有できるでしょう。蓄えたスキルや経験をフル活用しながら、デジタルで提供できる価値をさらに探求していきたいです。
まずは自分がつくりたいもの、納得のいくものをつくってほしいと思います。そのために必要なのが背中を預け合える仲間であり、その仲間に対して自分の意思を明確に示すことが大事です。これを実践できるのが自律的な個であって、その集まりが強いチームをつくります。そんなチームの一員であることは、自分のキャリアに大きなプラスとなるのではないでしょうか。
しらた もとき
白田 幹
株式会社リンクアンドモチベーション
プロダクトデザイン室
データサイエンティスト
1994年生まれ。北海道大学大学院情報科学研究院修了。2020年4月、リンクアンドモチベーション入社。ソフトウェアエンジニアとしてAIを活用した複数の機能開発プロジェクトに従事。現在は仕事の幅を広げつつ、AIを実装した新規プロダクトの開発に取り組んでいる。