デジタル人材の育成

未踏修了生インタビュー:野崎 智弘さん、三橋 優希さん(2021年度未踏IT人材発掘・育成事業修了生)

公開日:2023年1月20日

未踏は予想以上に自分自身の成長につながった

野崎 智弘さん、三橋 優希さん
2021年度未踏IT人材発掘・育成事業修了生、スーパークリエータ
プロジェクト名「チャット型インタフェースを用いた集団発想法支援ツールの開発」

  • 野崎智弘さん(写真左)と三橋優希さん(写真右)

未踏に応募して採択されると、どんな世界が待っているのか? 応募するにあたっては、どのような思いがあったのか。実際に未踏を修了した方々に聞いてみました。
今回は、2021年度に「チャット型インタフェースを用いた集団発想法支援ツールの開発」で採択され、オンラインブレインストーミングツール「hidane(ヒダネ)」を開発・発表して話題となった、野崎智弘さんと三橋優希さんにお話をうかがいました。

未踏なら作りたいものに長期間、集中できる

複数人が自由にアイデアを出し合うことで発想の誘発が期待できる手法として広く用いられるブレインストーミング。野崎智弘さんと三橋優希さんはプロジェクト「チャット型インタフェースを用いた集団発想法支援ツールの開発」で、チャット感覚でアイデアを入力できるインタフェースを備えた、ブレインストーミングを支援するWeb アプリケーション「hidane(ヒダネ)」を開発した。アイデア出しからクロージング(まとめ)に至る5つのステップで円滑に進行できるように工夫した他、AI(人工知能)が発想のヒントになりそうなワードを生成して思考を促す機能を実装した。

 オンラインブレインストーミングツール「hidane(https://hidane.app/)」。アイデア出しやグルーピング、リアクションなどと提示されるステップに従って、複数人でチャットのようにアイデアを記入していく

── 2021年度の未踏IT人材発掘・育成事業に応募された経緯を教えてください。

野崎智弘さん(以下敬称略) 高校2年生のとき、子どもたちにプログラミングを教えるボランティア活動を通じて、当時、高校1年生だった三橋と知り合って意気投合しました。そして2020年4月に一緒にサービスを制作したことをきっかけに、チームとして本格的に活動を始めました。それまでに参加したのは、限られた時間内にテーマに沿ったソフトを作るといったコンテストが多かったのですが、未踏の場合、作りたいものに長期間集中できて、しかも第一線で活躍されている専門家の方々に支援してもらえるという環境に魅力を感じました。

三橋優希さん(以下敬称略) 私は小中高生向けのクリエータ支援プログラムの未踏ジュニアを修了したので、未踏にメンタリングなどの支援があることは知っていて、それが魅力的でした。とはいえ、採択される人は本気で情報工学を学ばれた方々で、情報系の大学院生だったり、社会人だったりで、私とはステージが違うのではないか、という不安もありました。私はまだ高校生だし、バリバリの理系というわけでもないのに大丈夫なのかな、という迷いがあり、自分が未踏に入ったらどんな出来事があるのかイメージできず、ハードルが高いと当初は少し感じていました。ですが野崎と話して、2人だけで作っていくのではなく、もっと成長していきたいよね、とにかく出してみよう、ということになりました。

── ブレインストーミングツールはどのようなきっかけから発想されたのですか。

  • 野崎智弘さん

野崎 僕は兵庫県、三橋は東京都在住なので、やりとりはリモートが基本です。チャットアプリケーションを使ってオンラインでやりとりすると、何か思いついたとき、すぐに記録でき、発想が広がり、アイデアがどんどん膨らんでいくというシーンがけっこうあって、こういう体験をブレインストーミングツールに落とし込めないのか、と考え、思いついたのが、みんなでアイデアを書き込むと、チャットのようにリアルタイムで次々と表示されるというインタフェースでした。未踏では、これに加えてAIによる支援でブレインストーミングを効率的に行うというアイデアを採択していただきました。

── 応募するにあたって課題と感じていたことはありましたか。

野崎 チャット感覚でアイデアを出せるツールというコンセプトを思いつき、ここまでは自分たちでかたちにできる、と思ったのですが、AIを使ってブレインストーミングを支援するという提案を盛り込んだものの、2人ともAIには触れたことがありませんでした。そこで、“未踏的なチャレンジ”といいますか、専門家の皆さんの力を借りつつ完成させられないか、という期待も含めて応募しました。

人間の思考をより広げる機能を付加

── 採択を知ったときはどのように感じましたか。

野崎 尊敬している著名な方々の前でプレゼンすることになったので、すごく緊張しました。自信はなかったので、採択の通知のメールが来たときは驚きましたね。

三橋 採択後の資金面やメンタリングなどはやはりありがたかったです。さらに、ブレインストーミングをファシリテーションする仕事をされているコンサルタントの方を紹介いただいてお話をうかがえるなど、とても手厚く支援いただきました。

野崎 これまで採択された実力のある方々に追いつけるのか、と不安がありましたが、お会いすると、皆さん、すごく優しくて、色々教えてくださいました。

三橋 未踏ではPМ(プロジェクトマネジャー)が付いて指導してくださいます。私たちのPМは岡瑞起先生(筑波大学システム情報系准教授)でした。月に1度くらい、プロジェクトの進捗状況などの情報を共有するオンラインミーティングがあり、このときなどに自分たちでは考えていなかったような視点からのアドバイスをいただけました。

── 具体的にはどのようなアドバイスをもらったのですか。

野崎 応募時点の実施計画書での提案は、ブレインストーミングで出たアイデアをAIによって自動的に分類する、という内容でしたが、岡先生から「まとめる軸を固定化すると思考が偏ってしまったり、AIに思考が促されたりするのではないか」とのご指摘をいただきました。その後、自動分類機能について議論したり、試行錯誤する中で、アイデアを分類するとき、振り返りがあったり、分け方をめぐってコミュニケーションが生まれたりする。この時間を奪うのはいかがなものか、ということになり、試行錯誤を経て、ブレインストーミングを誰でも、楽しく、カジュアルに行えるツールという方向に転換し、これが「hidane」につながりました。また多くのアイデアを生むためにAIに支援させられないか、人間の思考をより拡張する機能を付加できないか、ということについても検討することにしました。技術的な課題とともに、ユーザーインタフェイス、デザインの部分で、いかに使ってもらえるようなツールにするか、という部分にもかなり力を入れています。

未踏を通じて、自分自身の扱い方が分かった

── 未踏期間はお2人にとってどのような経験でしたか。

野崎 毎月、プレゼンがあって当初はなかなか大変でしたが、繰り返すうちに、自分が作りたいものを伝える能力が養われていくのが分かりました。こうした能力は期間を終えた後にも、いろいろな場面でとても役に立っているので、良かったなと思います。

  • 三橋優希さん

三橋 予想していた以上に自分自身の成長につながったと思います。全力でプロジェクトに打ち込む機会となりましたし、我ながらよくがんばった、と言えるだけのものを作れたことが自信につながりました。また9か月間、1つのプロジェクトに打ち込む中で、必然的に自分の取り組み方、進め方を見つめることになって、私はこういう仕事の進め方が得意なんだとか、こういうところは苦手なんだ、といった気づきがありました。いわば、自分自身の扱いが分かった、という感じです。

野崎 2人ともソフトウエア系ですが、未踏にはハードを製作している人など様々な分野のクリエータがいます。困った時や悩んだ時に相談できる素晴らしい仲間がたくさんできました。そうした人たちの意見を聞いたり、他のプロジェクトを見たりしながら進められたのは自分たちのプロダクトにとっても、自分たちにとっても良かったですね。

三橋 分野は違っても、何かを作りたい、誰かに使ってもらいたい、という気持ちは同じです。未踏では、情熱を燃やし続けながら、より良いものを作っていこうと全力で取り組んでいる多くのクリエータたちに出会えます。皆さん、キラキラと輝いていて、接するだけで刺激を受けます。

野崎 未踏を修了した後も、未踏アドバンスト事業に採択されたり、会社を立ち上げて活躍したりしている同期のクリエータを見ると、自分たちもがんばろう! とエネルギーをもらえます。

作り続けること自体がこれからの目標

── リリースされた「hidane」の反応はいかがだったでしょうか。

野崎 2022年2月にパブリックβ版を公開しましたが、幸い、多くの方々に興味を持っていただけました。新商品の企画や学校のプロジェクト学習型授業、ワークショップ、イベントなどで活用されていて、ユーザーは2万人を超えています。イベントに参加したときに「使っています」と直接、声をかけていただいたこともあります。

── 今後の目標を教えてください。

野崎 歩みを止めず、チャレンジを続けていくつもりです。「hidane」はユーザーからのフィードバックを参考に改善を続けていきます。また、今の2人だから作れるものとか、「hidane」を乗り越えた後だからこそ作れるものを手がけていきたいですね。

三橋 私としては作り続けること自体を目標にしています。ものすごくイノベーティブで、これで世の中をひっくり返します! というものを目指すより、こんなものが生活の中にあったら笑顔になれるよね、とか、楽しくなるよね、というようなデジタルプロダクトを作り続けられたらいいな、と。

野崎 自分たちが作ったものを、より多くの人に届けることで、少しでも世界を良い方向に変えられたらと思っています。

未踏を目指す人へのメッセージ

三橋 応募するには提案書を作る必要があります。まずは、それからチャレンジしてみてはどうでしょうか。自分はどういう人間か、どういうものを作ろうとしているのか、こうしたことを改めて言語化することで考えがまとまり、再認識の良い機会にもなるはずです。

野崎 熱意を持ってプロジェクトに懸命に取り組める期間を持てるのはクリエータにとってすごく幸せな体験になるはずです。やってみたいアイデアがあるのであれば、ぜひ応募してみてください。

野崎智弘さん

2002年生まれ。兵庫県在住。2020年4月に三橋とクリエイターユニットを立ち上げ、デジタルプロダクトの制作活動を行っている。高校卒業後は、事業会社にデザイナーとして入社し、サービス設計や体験設計、フロントエンドなどのプロダクト開発業務を担当。その他、フリーランスとしても活動している。2021年度未踏IT人材発掘・育成事業スーパークリエータ。

三橋優希さん

2003年生まれ。東京都在住。高校在学中から、複数の事業会社にてエンジニア兼デザイナーとして勤める。2022年4月に多摩美術大学情報デザイン学科に入学。学業の傍ら、野崎と共にデジタルプロダクトの開発やデザインを手掛けている。2021年度未踏IT人材発掘・育成事業スーパークリエータ。