デジタル人材の育成

キャリアインタビュー Vol.10【ビジネスアーキテクト】前 俊一郎 氏

公開日:2026年4月14日

  • 「AIと電力データ」で現場を改革し、 関西電力のDXプロジェクトを加速!、インタビュイープロフィールを含めたページトップ画像。プロフィールの詳細はプロフィール欄をご確認ください。

電気や熱、ガスの供給といったエネルギー事業を中核に、電気通信やビジネスソリューションまで幅広い事業を展開する関西電力グループ。そのDX推進をリードしているのが、2018年に関西電力株式会社とアクセンチュア株式会社が共同で立ち上げたK4 Digital(ケイフォーデジタル)株式会社です。今回取材したのは、関西電力に新卒入社後、社内公募制度を通じてK4 Digitalへ出向し、デジタルコンサルタントとしてDXプロジェクトの企画・推進を担う前 俊一郎さん。デジタルスキル標準(DSS)におけるビジネスアーキテクトの人材像を手がかりに自身の役割を再定義し、キャリアの指針としても活用しているといいます。

データで次の一手が決まり、営業現場の動きが変わる

Q 前さんが関西電力に入社を決めた理由は。

当社は、エネルギー事業を中心に、電気通信やビジネスソリューションなど幅広い事業を展開しています。事業領域が広いのでダイナミックなフィールドで仕事ができそうだと思ったことに加え、地元である関西に貢献したいという思いもあって、2016年に新卒で入社しました。大学では経営学を専攻しデジタルとの縁はあまりなく、また事務系総合職としての入社だったため、自分がDX分野の仕事に携わることになるとは考えてもいませんでした。

Q デジタル領域へ足を踏み入れたきっかけは何だったのですか。

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入社後に配属された営業部門で、法人のお客様向けに営業戦略の立案に取り組んだことがきっかけです。当時は電力の小売全面自由化を背景に営業の高度化が求められていた時期で、解約に至った顧客の傾向や競合他社の動きなどの分析に加え、販売計画や価格戦略、ガス販売戦略の立案なども手がけました。必然的にデータを扱う機会が増えていく中で、分析結果によって議論の前提が変わる点に興味を覚えました。示唆を導き出すことで次の一手が決まり、営業現場の動きが変わる。その体験が非常に面白くて、データ分析に惹かれていったのです。

DSSのビジネスアーキテクトに当たるデジタルコンサルタントへ

Q データサイエンスがDXの入口だったということですね。

そういうことになります。ただ関西電力内には優秀なデータサイエンティストが何人もいますので、その人たちと精度を競うより、営業現場のドメイン知識がある自分はビジネスとデジタルをつなぐ橋渡し役となったほうが人材価値を最大化できるのではないかと考えるようになりました。技術力をビジネス側に生かす立場の人が当時はおらず、事業により貢献できそうだと思ったのです。

Q その後はどのようなアクションを?

関西電力グループのDXを牽引しているのは2018年に当社とアクセンチュアが共同で立ち上げたK4 Digitalで、DXを担う高度人材としてDSSのビジネスアーキテクトに該当する「デジタルコンサルタント」と、「データサイエンティスト」が在籍しています。関西電力では社内公募でキャリアを自律的に選択できる「e-チャレンジ制度」があり、その一環でちょうどK4 Digitalがデジタルコンサルタントを募集していました。私が目指すべきはこれだと迷わず手を挙げ、2021年4月からK4 Digitalへ出向し、既存事業の高度化やビジネス改革に取り組んでいます。

Q 出向にあたり選抜試験などはあったのですか。

適正検査と面接がありました。私は事前にDX関係の研修を受けたわけではありませんが、好奇心でインターネットなどを通じ最新技術の動向は押さえていました。業務でもAutoML(自動機械学習)ツールを使ったり外部ベンダーと連携したりしてデータ分析を進めていたので、データを扱う基本スキルや論理的思考力は身についていたと思います。加えて、面接でデータを駆使した営業改革の必要性などを訴えたことで、志や熱量も評価されたように感じています。

問われるのは、論理的かつ現場目線で説明する姿勢

Q K4 Digitalの体制について教えてください。

部署は5つあります。私を含むデジタルコンサルタントが所属する「コンサルティングユニット」、データサイエンティストが属する「ソリューションユニット」、データの安全な利活用を担うデータスチュワードなどを擁する「データマネジメントユニット」、クラウドサービスなどの開発や維持を担う「データプラットフォームユニット」、そしてコーポレート機能を担う「ストラテジーユニット」です。人員は計140名ほどで、関西電力とアクセンチュアで半々くらい。このうちデジタルコンサルタントは10~20名となっています。

Q 出向してから前さんはどのような仕事に携わってこられましたか。

まず着手したのが営業マーケティングの高度化です。高度なデータ分析技術を生かして、BtoCやBtoBビジネスのターゲティングを高度化する、あるいはビッグデータを可視化して営業のボトルネックを見つけるなど、営業活動を定量化して改革していくことに取り組みました。

Q ご苦労された点はありましたか。

プロジェクトはK4 Digitalだけで完結するのではなく、関西電力の当該主管部門と一緒に進めますが、デジタル技術に知見がある人ばかりではありません。そのため、現場の方たちがこちらの説明に納得し、当事者意識を持ってビジネスを刷新していけるようなマインドの醸成に注力しました。当時は機械学習モデルも十分に浸透しておらず、「本当に結果が出るのか?」「この分析結果は正しいのか?」と聞かれることも多かったのですが、幸い自分自身がそれまで法人営業に携わっていたので現場の勘どころが分かります。そこを足がかりに説明したり、難しい説明にならないよう抽象度を上げて汎用化したりと、相手の立場に立って話すことを意識しました。

Q 仕事が変わるたびに、関わる部署も変わるのですか。

はい。K4 Digitalは関西電力グループ全体のDXを支援しますので、営業だけでなく、火力・水力・原子力発電、電力取引など幅広い部署と連携する必要があります。プロジェクトごとに関係者は変わりますが、論理的かつ現場目線で説明することの重要性はどのプロジェクトにおいても同様です。

実践こそ学び。メンバーとの議論も良質なインプットに

Q デジタルコンサルタントとしての知識やスキルはどう身につけたのでしょうか。

実践に勝る学びはないと思っています。また、ネット記事やYouTubeなどさまざまな媒体を使い、AIなど技術的な事柄はもちろん、エネルギー産業や市場動向などビジネス側の課題も把握するよう努めています。そうした日々のインプットをベースに、知識もスキルもおおむね実践で身につけました。社内に優秀なデータサイエンティストやエンジニアがいるので、課題をどう解決するかをディスカッションする中でも良質なインプットができています。

Q デジタルコンサルタントとして一人前になったと感じたのはいつ頃ですか。

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出向してから3年目くらい経った頃でしょうか。それまでは課題解決を果たしても、割いた時間に見合うインパクトが得られないことがあったのですが、どこに力を入れればどれだけの価値を生み出せるかが徐々に分かってきました。また、技術を使い分けられるようになったことも大きいですね。例えば、最近では何でも生成AIに任せようとする風潮がありますが、現段階ではハルシネーションが避けられないため、再現性が必要なデータ分析やモニタリングを要する精緻な集計には従来型のデータ解析のほうが適しています。一方、分析結果から示唆を導き出すようなクリエイティブな作業では生成AIが重宝するでしょう。そんな具合に目的に合わせて技術を使い分け、より高い成果を追求できるようになったことで成長を実感しました。

職種の輪郭を明確化したDSSはキャリアの指針

Q 成長とともに任される仕事の範囲も広がっていくわけですが、その中で前さんが大切にしていることは?

我々デジタルコンサルタントが何を構想し、どのようなビジョンを掲げ、何を実践するかを決めることはDXの方向性に関わりますし、当然ながら成果を大きく左右します。AIでできることが増えていく中で、データサイエンティストやデータエンジニアなど誰をどの業務に配置するとインパクトを最大化できるかを熟考し、レバレッジを効かせることが我々の役目。そのためにビジネス課題の把握と、デジタル技術のインプットという両方を常に心がけています。

Q 全体を取りまとめて成果をあげるということで、たとえるならデジタルコンサルタントはオーケストラの指揮者のようなものでしょうか?

今のところはそうかもしれません。ただ、AIの進化でスキルがない人でも技術側に踏み込める環境が整いつつあるので、いずれはデジタルコンサルタントも自ら演奏できるようになるでしょう。とはいえ、1人ですべてこなすことはできないので「選択と集中」が重要です。非エンジニアができる領域、中でも自分のビジネス領域はマストで押さえつつ、それ以外の領域は薄く広くカバーするというのが私のスタンスです。

Q 身に付けるスキルに重要度を設定する考え方はDSSにも通じます。

おっしゃる通りです。AI時代に求められるDX人材のスキルを模索する中で、マネジメント領域が増えていくのではないかと仮説を立てていたのですが、それについてもDSSで同じようなことが書かれていて、自分の考えの正しさを確認することができました。特に、自分の中で曖昧だったデジタルコンサルタントという職種の輪郭がDSSによって明確化され、自身の役割を再定義できたことは大きな助けになりました。DSSでは役割によって何が重要か整理されていますので、キャリアの指針のように参考にしています。

コミュニケーションのポイントは「手法」と「回数」

Q 現在力を入れている仕事について教えてください。

大きく2つあります。1つが電源取引の高度化です。エネルギー業界は不確実性との闘いで、天候不順などで燃料が高騰しかねません。そこで気温や日射量などから電力需要を分析したり、AIも活用して市場価格を予測したりしながら、価格が高ぶれしたときに購入せずに済むよう仕入れタイミングの精度を高めていくことが目標です。もう1つのテーマは、「お客様から選ばれる関西電力」であり続けるための取り組みです。具体的にはAI活用を前提とした法人営業スタイルの改革や、AIエージェントによる顧客体験価値の向上を視野に入れています。いずれも現場のメンバーはもちろん、データサイエンティストとの連携も欠かせません。

Q データサイエンティストとの連携で重視していることは何ですか。

ビジネス寄りの企画や創出できる価値の見立て、現場へ向けた具体的な手法・施策への落とし込みはデジタルコンサルタントが担い、分析やコーディングなどはデータサイエンティストが担うため、目指す方向性などに食い違いが起きないよう積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

Q デジタルコンサルタントを目指す人はどんな力を備えておくとよいでしょうか。

まずは論理的思考力だと思います。これがないと何をするか決められませんし、プロジェクトメンバーに納得してもらえる説明もできません。また、ステークホルダーを巻き込むためのコミュニケーション力や好奇心などの人間的な力も問われます。コミュニケーションのポイントは「手法」と「回数」でしょうか。オンラインでのコミュニケーションが増えましたが、やはり現地に足を運んで直に会って話すことが信頼関係の構築に役立ちますし、会う回数を重ねることで関係をいっそう深めることができます。

Q デジタルコンサルタントやビジネスアーキテクトを目指す方へメッセージをお願いします。

DXというと理系の独壇場とみなす人がいるかもしれませんが、私のように文系出身でも活躍できます。むしろDXの旗振り役には、技術力よりも論理的に説明できる力が問われます。AIの進化で技術が身近になった今はキャリアチェンジもしやすくなっています。実践こそ成長の一番の近道なので、興味があればぜひ思い切って飛び込んでみてください。

まえ しゅんいちろう

前 俊一郎

プロフィール

関西電力株式会社
(出向中)K4 Digital株式会社 コンサルティングユニット
デジタルコンサルタント

経歴

1993年生まれ。2016年、大阪府立大学(現・大阪公立大学)現代システム科学域マネジメント学類卒業後、関西電力へ入社。営業部門を経て、2021年よりK4 Digitalへ出向し、デジタルコンサルタントとして関西電力グループのDX戦略の企画・推進に携わる。

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取材時情報

  1. 掲載内容は2026年2月取材時のものです。