デジタル人材の育成

キャリアインタビュー Vol.12【データサイエンティスト】武田 峻悟 氏

公開日:2026年5月11日

  • 現場を知るデータサイエンティストが挑む 送配電DXとデータ活用の最前線、インタビュイープロフィールを含めたページトップ画像。プロフィールの詳細はプロフィール欄をご確認ください。

首都圏エリアの電力供給を担う東京電力パワーグリッド株式会社。同社のテーマの1つは管轄する3,000万世帯の電力メーターに記録される膨大なデータの利活用であり、その数は実に3兆行を超えるといいます。そして、この課題に挑んでいるのが同社のデータサイエンティスト・武田峻悟さんです。送配電の現場業務を経て、本社でのシステム開発に参加したことがデータサイエンティストを目指す転機になったと語る武田さんは、現在データ戦略グループでデータ活用の推進に取り組んでいます。膨大なデータと向き合う業務の内容や社内認定制度を通じた成長、そしてデータ基盤整備や業務プロセス標準化など今後の展望について伺いました。

高校時代にITパスポート試験や基本情報技術者試験に合格

Q 東京電力パワーグリッドの事業について教えてください。

当社は2015年に首都圏の送配電事業を手掛ける企業として設立されました。電柱や変電所といった設備の保守も含め、託送(小売電気事業者に送配電網を提供するサービス)と呼ばれる仕事を担っています。もともとは東京電力株式会社の送配電を担う一部門でしたが電力システム改革の一環で分社化し、現在は東京電力グループの持ち株会社である東京電力ホールディングス株式会社のほか、小売を担う東京電力エナジーパートナー株式会社、発電を担う東京電力リニューアブルパワー株式会社などと連携して事業を展開しています。

Q 武田さんの所属部署はどのような役割を?

カイゼン・DX戦略室は社内のDX推進を担う部署です。その中で私が所属するデータ戦略グループでは、社内データや社外のオープンデータを分析し、そこから得られる知見をもとに業務の効率化や業務プロセスの変革を立案・実行しています。

Q 入社のいきさつと入社後の業務についてお聞かせください。

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商業高校で情報処理や簿記を学び、在学中にITパスポート試験や基本情報技術者試験に合格していました。そうした知識を社会インフラの守りに生かせたらと、2011年4月に当時はまだ東京電力だった当社に入社しました。電力流通業務の採用枠には、設備の運用や保守を手掛ける技術職と、電気の使用開始に向けたお客様対応や工事のスケジュール管理などを行う事務職があり、私は後者で採用されました。神奈川の藤沢支社や相模原支社で実務を重ね、一時は停電時の原因調査や電力メーター(電力量計)交換を行う技術サービス員も務めました。ただ、高校時代から興味のあったシステム開発の仕事に携わりたいと異動希望を出していまして、それが通って2017年に本社の業務システム開発プロジェクトへ配属されました。

未経験のシステム開発。必死でもがきながら一回り成長

Q 具体的にはどのようなプロジェクトだったのでしょうか。

メーターの検針データをもとに電気料金を算定し、請求書発行までを一括して行う「託送システム」を刷新するというものです。実際のシステムの開発や構築は外部のSIerが手掛け、私たち社内のプロジェクトメンバーは上流工程の設計、もっと言えば新システムで業務プロセスをどう変えるかを考えることが主な仕事でした。今思えば、ここでの役割はビジネスアーキテクトに近かったですね。

Qそれまでの支社の仕事とずいぶん違う印象ですが、実際に携わってみていかがでしたか。

当初は開発といえばプログラムを書くものだとイメージしていたので、仕事の再設計が中心だったことは意外でした。ただ、それがとても面白く、やりがいを感じました。新システムは支社の業務にも大きく影響するので、設計が悪ければ現場が混乱します。ITの知識やプログラムを書けるかどうか以上に、仕事の流れを理解したうえで、どのように刷新したら業務を効率化できるかを徹底的に考えました。

Q 未経験の領域に飛び込む苦労もあったのでは。

システム開発工程の基本を学ぶ研修はありましたが、実際に現場に入ると基礎知識だけでは太刀打ちできません。研修資料や参考書を読み直したり、先輩に教わったり、社内マニュアルを読んだりと自発的な学習にも力を注ぎました。特に私が担当した部分はそれまで自分が直接経験したことのない業務領域だったので、支社の人がどう仕事しているかを知るため同僚に話を聞いたりもしました。苦労はしましたが、必死でもがいたことで一回り成長できたと思います。

仮説検証しながら問題を構造化していく力が不可欠

Q システム開発から、どのようにデータサイエンティストへ進んだのですか。

3年ほどシステム開発を経験する中で、社内システムのデータ構造やデータのライフサイクル、どのテーブル(表)にどの情報が入っているかといったことに詳しくなる一方、こうしたデータの存在が知られておらず、十分に活用されていないことに気づきました。2020年頃のことで、当時は社内でもデータ分析やデータドリブン経営が注目され始めた時期。データを分析することで新たな価値につなげ、また別の形で業務を改善していきたいと自ら手を挙げ、2021年に現在の部署に異動したのです。

Q 当時、社内にデータサイエンティストという職能はあったのですか。

データ分析に従事する人はいましたが、まだデータサイエンティストという呼称や制度は整っていませんでした。私が着任したすぐ後に、スキルレベル別に4段階から成るデータサイエンティストの認定制度が整備され、私を含めた約10名のメンバーが第1期生として一番基礎レベルである「ベーシックデータサイエンティスト」の認定を受けました。2022年にはシニアデータサイエンティストの認定試験も始まり、そこでも5名の同僚とともに、第1期生として認定を受けています。

Q 社内認定制度では、どのような力が重視されているのですか。

ロジカルシンキングで仮説検証しながら、問題を構造化していく力です。データ分析は目的がぶれると意味がなくなってしまうので、何をしたいのかをまず明確にし、仮説を立てて検証する力が欠かせません。ベーシックレベルではその思考プロセスが重視され、加えて回帰、判別、クラスタリングといった技術的なスキルも評価されます。シニアになると問題の構造化をより高度なレベルで行うことに加え、時系列予測や最適化、テキストマイニングなどに関する技術的なスキルも求められます。

Q 勉強はどのように進めたのでしょうか。

書籍やネットを通じた独学が中心です。社外資格は実力の証明になるという思いから、統計検定の3級とデータサイエンス基礎で合格を果たしましたが、通勤時間にアプリで過去問題を解いたり動画教材を視聴したりしたことも役立ちました。

3兆2,000億行のデータを生かし、新たな価値を創出する

Q 現在取り組んでいる業務をお聞かせください。

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当社は関東一円に電気を供給していて、電柱は約600万本、お客様は約3,000万軒に上り、電力の使用量を計るためには各戸に電力メーターを設置し計量をする必要があります。特に現在普及しているスマートメーターは、電力使用量を30分ごとに自動で検針してデータ送信するもので、2020年のシステム刷新からの累積データは約3兆2,000億行と極めて膨大な量があり、Excelなど一般的な汎用ツールでは到底扱えない量です。

例えば、電力設備の更新計画を考えるにあたっては、電力需要の量を都道府県別、月別、曜日別、時間別といったようにより細かな切り口で評価できるのが理想です。スマートメーターからは30分単位の詳細なデータが取得できているものの、データ量が極めて膨大であることや、分析に適した形への整理・加工に手間がかかることから、現時点では主に既存の集計データなど、比較的荒い粒度の情報を用いて全体感を把握せざるを得ないというのが実情です。そこをデータサイエンスの力で精緻化・効率化し、価値として返していくことを目指しています。

Q 具体的にはどのような作業を行っているのですか。

SQLを書いて取り出したデータを加工・集計してグラフ化することが多いですね。大量のデータを適切な形に整理し、事業部門が意思決定や業務改善に使えるようにするわけです。機械学習を使った需要予測など高度な分析を行うこともあり、こうしたテーマでは今後AIも活用できると見込んでいます。ただ、社内では分析する人だけでなく、分析の基盤となるデータそのものを整備したり、データを使いやすい状態に加工したりする人材も必要とされています。いわゆるデータマネジメントやデータエンジニアリングに近い仕事です。こうした状況を踏まえ、現在はデータ分析環境や分析基盤の企画・開発、データ活用業務の標準化などにも力を入れています。

Q 仕事の手応えはどんなところで感じますか。

設備の故障確率を判別するモデルをつくり対応の優先順位付けをするなど、保守業務を支援したときは現場からとても喜ばれました。業務効率化の効果は金額換算して「創出価値」としても評価されています。同時に、安全なインフラの維持に貢献できることも大きなやりがいを感じます。

ネットワークを広げながら学ぶことも意識してほしい

Q 今後の展望を教えてください。

最終的に目指したいのは、データサイエンティストやデータエンジニアのような高度な人材だけでなく、専門職でない人もデータを活用できる世界——いわゆる「データ活用の民主化」です。そのためには使いやすいツールも必要ですし、きれいに整ったデータも必要ということで、今取り組んでいる基盤整備や標準化はその土台づくりと考えています。

Q データサイエンティストを目指す人にメッセージをお願いします。

ひと口にデータサイエンティストといっても、求められることは多岐にわたります。機械学習モデルを開発したいのならその技術を深めることが必要ですが、会社の課題を解決するデータサイエンティストを目指すのであれば、問題を構造化してDXのアプローチで解決していくビジネス寄りの力が問われます。また、社内データのことを深く知っている人は意外と少ないので、誰も知らない領域に踏み込めると強みになるでしょう。一般的な知識は独学でも身につきますが、社内の実務は人に聞かないとわからないことが多いので、ネットワークを広げながら学ぶことも意識するとよいと思います。

たけだ しゅんご

武田 峻悟

プロフィール

東京電力パワーグリッド株式会社
カイゼン・DX戦略室
データ戦略グループ
シニアデータサイエンティスト

経歴

1992年生まれ。2011年、長野県穂高商業高等学校卒業後、東京電力株式会社へ入社。
2016年、同社の分社化に伴い東京電力パワーグリッド株式会社へ。
データの分析・基盤整備などに取り組んでいる

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取材時情報

  1. 掲載内容は2026年3月取材時のものです。