デジタル人材の育成
公開日:2026年6月29日
本プロジェクトは、物理実験の計測・解析・条件最適化を自律的に実行するAIエージェント基盤の開発を目的とする。現在の物性物理実験では、研究者自身が測定条件の設定、顕微鏡画像の取得、磁区状態の判定、次回実験パラメータの決定といった一連の作業を繰り返し行っており、多くの時間と労力を要している。このような反復的作業は、研究の生産性向上を阻む共通課題であり、国内外の実験物理研究室に広く存在している。
本プロジェクトでは、LLM(大規模言語モデル)を中核とし、物理実験装置をAPI経由で自律制御するサイバーフィジカル・ミドルウェアを開発する。これにより、データ取得、解析、物理的解釈、次回実験条件の決定までの一連のプロセスをAIエージェントが自律的に実行できる環境を構築する。さらに、解析手法そのものについても、実験の進行に応じて動的に生成・改善できる仕組みを実装し、実験効率と解析精度の継続的な向上を図る。研究者は、AIが生成するレポートや提案をもとに判断を行うことで、反復作業から解放され、物理現象の本質的な考察や研究戦略の立案に注力できるようになる。
システムは、主に以下の機能群で構成する。第一に、実験データを解析するコードを動的に生成・改善するエージェント、第二に、大量データに対してバッチ解析を実行するエージェント、第三に、実験装置を自律制御するエージェントである。さらに、これら複数のエージェントを統括するエージェントと、現実の実験機器との接続を担うモジュール群を整備することで、異なる実験装置をPythonベースで汎用的に制御可能な基盤を実現する。
本プロジェクトにより、日本が世界トップクラスの研究基盤を有する物質科学分野において、実験プロセスそのものをソフトウェアとAIにより高度化・自動化する日本発の新たな研究基盤を構築し、オープンな形での展開を目指す。
本提案は、物性物理実験において研究者が手動で繰り返している測定条件の設定、画像取得、解析、結果解釈、次の実験パラメータ決定のループを、LLMエージェントによって自律化するものである。提案者は、深夜まで顕微鏡の前に座り続けて数千枚の画像を手動で撮影した経験があり、提案者自身が現場で感じた実体験から出発している点を高く評価した。
AI for Scienceの文脈において、実験科学の律速要因となっている人間の時間的・身体的負担を単なる自動化による省力化ではなく、より高速な仮説検証と探索の仕組みに転換しようとする点に未踏性がある。既にプロトタイプを作成しており、SDL FrameworkのLabVIEW制御モジュール、ハードウェア制御テスト、Dev Agentによる解析コード自動生成のフルループ、9ステップの自動測定ループテストまで進んでおり、構想だけでなく実装と検証に着手している点も強い。本提案は単に実験装置を自動制御するだけではなく、Dev Agent、Analyst Agent、Experiment Agentを組み合わせ、解析コードを動的に生成・改善しながら実験ループを回す設計としている。
本提案は、AIが実験を代替するのではなく、研究者が物理学的な本質の考察に集中できる環境を整えるものである。実験科学の現場において、人間が深夜まで実験装置の前に座り続ける状況を変え、AIが高速に試行錯誤を回すことで新しい発見を再現性高く短期間で生み出せる可能性を持つ。AI for Science、フィジカルAI、研究プロセスのIT化が交差する今まさに取り組むべきテーマであり、提案者の実装力と専門性、そして現場に根ざした強い問題意識と行動力に期待して採択した。
2026年6月29日
2026年度採択プロジェクト概要(苫米地PJ)を掲載しました。