デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業:2026年度採択プロジェクト概要(苅山PJ)

公開日:2026年6月29日

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 竹迫 良範(神山まるごと高専 デザイン・エンジニアリング学科 教授)

2.採択者氏名

  • 苅山 湊(東京大学 工学部 システム創成学科 知能社会システムコース)

3.採択金額

  • 3,024,000円

4.プロジェクト名

  • デバイスフリー・カメラレスで人物・動作を認識するWi-Fiセンシング基盤の開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請プロジェクト概要

本プロジェクトは、既存のWi-Fiインフラから取得可能なWi-Fi Channel State Information(CSI)を活用し、人物の存在検知、個人識別、動作分類、転倒等の異常検知をリアルタイムに行う、デバイスフリーかつカメラレスな行動理解システムを開発するものである。
現在、人物認識や行動把握の手段としてはカメラやウェアラブル機器の活用が一般的であるが、カメラはプライバシー侵害への懸念、死角や遮蔽物の影響、暗所での認識精度低下といった課題を抱えている。また、ウェアラブル機器は、利用者に装着を求めることによる負担や、装着忘れ・継続利用の難しさが普及上の制約となっている。これに対し、Wi-Fiセンシングは、既存の通信インフラを活用しながら、壁越しや暗所を含む環境でも計測可能であり、利用者に追加的な負担を生じさせないことから、見守り、介護、防犯、施設管理等の分野において高い社会的意義と応用可能性を有する。
一方で、Wi-Fi CSI信号は、マルチパス干渉、環境変動によるドリフト、位相ノイズ等の影響を強く受けるため、高精度な認識を実現するには高度な信号処理及び機械学習技術が必要となる。従来用いられてきたCNNやTransformerを中心とする手法では、環境変化に対する頑健性や長時系列データに含まれる依存関係を十分に捉えきれず、安定した認識性能の確保に課題が残されている。
本プロジェクトでは、こうした課題に対応するため、Selective State Space Model(Mamba)をCSI時系列信号処理の中核モデルとして採用する。CSI信号は時間方向に連続して取得される長時系列データであり、その中には人物の移動、姿勢変化、各種動作、転倒等の異常に対応する微細な変動が含まれている。本プロジェクトでは、これらの変動の中から行動理解に有用な特徴を選択的に抽出し、線形時間で効率的に処理可能なモデルを構築することで、高精度かつ実用的なセンシング基盤の実現を目指す。
さらに、公開データセット及び実機計測により取得したデータを用いた検証を通じて、複数人物の識別及び多クラス動作分類における有効性を評価し、実環境への展開可能性を備えたWi-Fiセンシング基盤として確立することを目指す。

7.採択理由

本提案は、既存のWi-Fiインフラから取得可能なChannel State Information(CSI)を活用し、人物の存在検知、個人識別、動作分類、転倒等の異常検知をリアルタイムに実現するものである。カメラを用いず、壁越しや暗所でも人物やその動作を認識できる可能性を持つため、介護、見守り、防犯、スマートホーム、工場安全管理などのニーズに直結しており、実現できれば社会的意義の大きいテーマである。
CSIを用いた行動認識は、近年関連研究が急速に増えている分野であり、競争が激しい。その中でも本提案は、CNNやTransformerでは扱いにくい長期時系列信号に対して、Selective State Space ModelであるMambaを中核に据え、長時間のCSI変化から人物や動作に関わる有意な変化を抽出しようとしている。環境ドリフト、家具配置の変化、マルチパス干渉、位相ノイズといったWi-Fiセンシング固有の難しさに対して、基盤モデル化、エッジ推論、実環境での継続的な検証まで見据えている点も評価できる。提案者は、学部生でありながら国際会議への採択実績、スタートアップCTOとしての開発経験を有しており、研究力と実装力の双方を備えている。
ラボ環境での精度向上から社会実装への発展を考えた場合、既存Wi-Fi設備に対してESP32等の安価なデバイスを揃えるだけで再現性のあるセンシング基盤を構築できれば、導入コストの低さとプライバシー配慮を兼ね備えた未踏性の高い成果となる。既存研究との差別化、実環境における再現性、環境変化へのロバスト性、人物識別に伴うプライバシー・倫理面の整理を明確にしながら、社会実装可能なセンシング基盤へ発展することを期待し、採択した。

更新履歴

  • 2026年6月29日

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