デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業:2026年度採択プロジェクト概要(小藪PJ)

公開日:2026年6月29日

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 曾川 景介(newmo株式会社 CTO)

2.採択者氏名

  • 小藪 夏陽(京都大学 工学部 情報学科 数理工学コース/株式会社演算工房/株式会社Archnex)

3.採択金額

  • 3,024,000円

4.プロジェクト名

  • 分散エッジ環境で物理モデルを連携実行するためのツールチェーンの開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請プロジェクト概要

自動運転やロボティクスなどの現場において、周囲の物理空間の状態をリアルタイムに予測・制御する物理AIのニーズが高まっている。しかし、従来のクラウド依存型システムでは通信遅延や障害リスクが高く、また既存のKubernetes等の分散基盤は「ITリソースの配置」には優れていても、「物理空間(メッシュ)を分割してエッジ群に協調計算させる」という要件は満たせない。
本プロジェクトではこの課題を解決するため、物理モデルを分散エッジ環境で連携実行させるインフラ基盤を開発する。本基盤はPyTorch等で構築されたPINNs(物理情報を組み込んだニューラルネット)や数値計算ソルバのロジックを抽出し、極小のWASM(WebAssembly)アクターへと変換する。これにより、ブラウザから数ドルのマイコン(ESP32等)に至るまで、あらゆるデバイスでの物理推論を可能にする。
技術的な斬新さは以下の3点である。第一に、偏微分方程式の依存関係を解析し、物理的な整合性を損なわずにモデル領域を自動分割する「PDE-aware Partitioning」。第二に、ネットワーク遅延下でも系全体のエネルギー保存則等を維持しながら隣接デバイスと境界データを同期する「Boundary Sync Protocol」。第三に、重厚な環境を排除したWASM化による極限の軽量性である。
本プロジェクトではこの基盤開発に加え、ネットワーク遅延と物理モデル構造を突き合わせて動的に再計算領域を割り振る「物理空間オーケストレータ」や、OSのタスクスケジューラ自体を改造して物理シミュレーションと同期させる「予測駆動OS」の概念実証にも挑む。安価なエッジ群を一つの巨大な物理演算器へと変貌させ、次世代のサイバーフィジカルシステムの礎を創り上げる。

7.採択理由

本提案は、分散エッジ環境で複数の物理モデルを連携実行するためのツールチェーンを開発するものであり、PDE-aware Partitioningなど偏微分方程式が持つ構造を意識した分割・配置手法を取り込みながら、シミュレーションをHPCではなく現場のエッジで協調的に走らせる基盤を提供しようとするものである。提案者は複数社でのインターンシップ経験と開発実績を持ち、本ツールチェーン自体も審査時点で既にOSSとして開発を進めており、構想と実装が並行して動いている点を高く評価した。
物理シミュレーションがクラウド/HPCの中に閉じている時代から、現場のエッジで物理モデルが連携してリアルタイムに動く時代への過渡期にあたり、その足回りとなるツールチェーンに踏み込む取り組みは未踏性が高い。「ものづくり×IT」の融合という明確な事業化ビジョンを掲げ、研究プロトタイプにとどまらず現場で動く基盤を残そうという姿勢も、未踏事業に求められるアウトプットの方向性によく合致している。PDE-aware Partitioningのように物理モデル固有の構造を活かす設計は、汎用の分散実行基盤との差別化軸として機能する見込みがあり、本提案は分散システムと数値シミュレーション双方への素地を持つ提案者だからこそ描けるものである。
大規模かつ複雑な技術スタックをプロジェクト期間内に単独で完成させるというチャレンジがある上に、物理モデルを完成させるための一定のデータ収集も必要になる。しかし提案者は、既に動くOSS基盤を持ち、コミュニティ活動を通じて継続的に発信してきた実績もあることから、本ツールチェーンがものづくりの現場に届く分散物理シミュレーション基盤として育つ可能性に期待して採択した。

更新履歴

  • 2026年6月29日

    2026年度採択プロジェクト概要(小藪PJ)を掲載しました。