デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業:2026年度採択プロジェクト概要(廣瀬PJ)

公開日:2026年6月29日

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 曾川 景介(newmo株式会社 CTO)

2.採択者氏名

  • 廣瀬 貞雄(東京大学 工学部 機械情報工学科)

3.採択金額

  • 3,024,000円

4.プロジェクト名

  • Spiking Neural Networkのためのアクセラレータと実行基盤

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請プロジェクト概要

Spiking Neural Network(SNN)とは、スパイクと呼ばれる離散的なイベントによって情報を伝達する、現在のAIよりもさらに脳に近い人工ニューラルネットワークである。その中でも局所学習を用いたSNNは省電力で表現力も高いため、現在のAIによる電力需要の急増という問題を解決するだけでなく、より人間に近い知能を作れるのではないかと期待されている。しかし、現在のAIはGPU–CUDA–PyTorchという計算基盤とエコシステムがあるのに対して、SNNについてはそのような汎用的な計算基盤が開発されていない。そのため、本プロジェクトでは局所学習SNNを高速実行できる専用計算基盤を開発する。具体的には、FPGAを使ったSNNアクセラレータ、コンパイラ、Pythonの高水準フレームワークという3つのセットを作成する。
既にプロトタイプとして、Python記述からFPGA上で学習・推論を実行するまでの基本的な計算基盤を実現している。一方でこのプロトタイプは、対象とするモデルを固定した構成となっており、汎用性の拡張や性能最適化が課題となっている。本プロジェクトはそれらの課題の解決に取り組む。
本プロジェクトの成果によって、SNN特有の計算構造に適した形で大規模ネットワークのシミュレーションや学習実験を高速に行うことが可能となり、局所学習SNNのアルゴリズム研究が大きく加速することが期待される。

7.採択理由

本提案は、Spiking Neural Network(SNN)のためのFPGAアクセラレータ・コンパイラ・Pythonフレームワークの三層エコシステムを構築し、Deep LearningがGPU・CUDA・PyTorchの上に成立しているのと対をなす形で、SNNが研究・実装・評価される際の「足回り」を整えるものである。提案者はニューロサイエンス・計算機科学・ロボティクスを横断する研究経験を積んでおり、SNNという学際領域に正面から切り込める希少な人材であることを高く評価した。
SNNはエネルギー効率や生体的妥当性の観点でDeep Learningとは異なる地平を切り拓く可能性を持つが、その実装エコシステムは未成熟で、研究者ごとに毎回足回りを書き直しているのが現状である。先行研究・商用ハードウェアが存在するなかで、局所学習SNNを軸にハード・コンパイラ・フレームワークを一気通貫で設計しようとする本提案には、SNN研究のコミュニティインフラを日本から提示するという未踏性がある。提案者はFPGAを使ったプロトタイプの開発にも審査段階で既に着手しており、構想だけではなく実装に踏み込んでいる点も良い。
三層エコシステムを一人でプロジェクト期間内に完成させることや、STDPのFPGA実装の技術的難度は非常に高い。それでも、AIアーキテクチャの多様化が議論される時代に、SNNに取り組む意義は大きく、提案者の学際的な専門性と長期にわたって研究基盤を育てる胆力に期待して採択した。

更新履歴

  • 2026年6月29日

    2026年度採択プロジェクト概要(廣瀬PJ)を掲載しました。