デジタル人材の育成
公開日:2026年6月29日
本プロジェクトは、ユーザの認知状態に応じてWeb上のダークパターンの影響を検知・可視化し、主体的な情報行動を支援するブラウザ拡張機能を開発するものである。
近年、ユーザの認知バイアスや判断の隙を突いて特定の行動へ誘導するUI設計、いわゆるダークパターンが、電子商取引や各種オンラインサービスにおいて社会的課題となっている。消費者庁が2025年3月に公表した報告によれば、日本のインターネット利用者の86.2%がダークパターンを経験しており、30.2%が金銭的被害を受けている。ダークパターンの本質的な問題は、ユーザが自らの意思で選択したと認識したまま、設計者の意図に沿った行動をとらされる点にある。
現在のダークパターン検出技術は、主としてWebページ上の誘導的なUI要素そのものを検出対象としており、ユーザがその時点で置かれている認知状態を十分に考慮していない。しかしながら、同一のUI要素であっても、ユーザの認知的な状態(注意力等)によって受ける影響の大きさは異なり得る。こうした観点から、コンテンツ側の誘導性とユーザ側の認知状態を統合的に評価し、当該時点における影響可能性を本人に分かりやすく提示することができれば、ユーザがより主体的に選択・行動できる状態を実現しうるのではないかと考えられる。
本プロジェクトでは、ユーザの認知状態とWebコンテンツに含まれる誘導的UI要素をリアルタイムに同時分析し、その結果をユーザ本人に可視化するシステムを構築する。具体的には、ブラウザ上で観測可能なユーザの操作信号から、ユーザの認知状態(認知負荷の程度等)を推定し、推定された認知状態に応じて、検出したダークパターンが当該ユーザに及ぼしうる影響の度合いを動的に評価する仕組みを実装する。
また、ユーザ自身が、注意喚起を行う条件や影響度の閾値等を保護ポリシーとして事前に設定できるようにすることで、判断力が低下した状況においても、平常時の自らの基準に基づいて情報環境を制御できる設計とする。これにより、システムがユーザの判断を代行するのではなく、ユーザが自らの認知状態と情報環境の構造を理解したうえで、主体的に選択を行える状態を技術的に支援することを目指す。なお、処理はすべてローカル環境で完結させ、取得データを端末外へ送信しない構成とすることで、プライバシー保護にも十分配慮する。
本プロジェクトは、認知を単に外部から保護するのではなく、ユーザが自らの認知状態を把握し、自身の基準に基づいて主体的に判断・行動できる状態を、技術によって支援することを目指すものである。将来的には、ネットワークセキュリティが情報通信を守るのと同様に、人間の認知を支える新たなセキュリティレイヤーとして発展させ、デジタル社会における安全で自律的な情報行動の実現に寄与する展望を描く。
人間の認知的余裕に応じてWeb上のダークパターンを検知し、ユーザの自律的な意思決定を支援するブラウザ拡張機能を開発する提案である。同じダークパターンであっても、疲弊している人と冷静な人では受ける影響が異なるという着眼点は、従来のセキュリティの議論には乏しかった「認知の保護」の観点を取り込むものであり、Cognitive Securityというフレーミングの新規性を高く評価した。
提案者は法学部のバックグラウンドを持ち、IT企業でセキュリティ実務を担う希少な経歴の持ち主である。情報法と技術実装の両軸から認知的自律という主題に取り組める点は、本提案ならではの独自性として大きな強みとなる。提案者による過去の成果物をベースにした、認知状態推定エンジン・ダークパターン検出・動的影響度算出を統合したプロトタイプが審査の時点で既に動作している実装力に加え、AIエージェントが普及する将来像を踏まえた展開可能性まで視野に入っている射程の広さも、本提案の魅力である。
ユーザ自身が「どうありたいか」をポリシーとして設定し、無意識的な行動の癖との差分から介入を行うという設計には、認知拡張・メタ認知支援としての可能性も含まれており、未踏事業として支援する意義のあるテーマである。技術実装の磨き込みと並行して、本ツールがどのような場面で誰に最も価値を届けられるかを応募者自身が見定めながら、未踏期間中に世に問えるかたちまで仕上げていくことを期待している。
2026年6月29日
2026年度採択プロジェクト概要(首藤PJ)を掲載しました。