デジタル人材の育成
公開日:2026年6月29日
AIモデルの巨大化に伴う電力・演算コストの増大は、持続不可能なレベルに達している。大規模モデルの学習・推論には膨大なGPUや電力が必要となり、データセンターの電力消費は急速に増加している。現在のAI開発は、巨大な計算インフラを持つ一部の組織に有利に働き、結果としてAI技術の研究や利用機会が資本力のある主体に集中しやすい構造を生んでいる。こうした状況を踏まえ、従来の行列演算中心の設計を見直し、コンピュータの演算最小単位である論理ゲートでニューラルネットワーク(NN)を構成する研究が近年進んでいる。それらの手法は推論時に要求されるハードウェア資源を大幅に削減し、GPUやTPUを凌駕する推論速度と省電力性を示す可能性が報告されている。しかし、論理ゲート型NNは設計・実装の難易度が高く、実用的な開発基盤が不足している。そこで本プロジェクトでは、次世代AI基盤となり得る論理ゲート型MLライブラリを開発する。
本ライブラリは、論理ゲート型ニューラルネットワークの設計・学習からハードウェア実装のための接続定義ファイル(HDLファイル)生成までを一気通貫でサポートする。PyTorchのような直感的なAPIを提供することで、CNNやRNN、Attentionなどの多様なモデル構築や、バックプロパゲーション(BP)以外のDirect Feedback Alignment(DFA)や新しい学習法への切り替え、さらには標準NNとのハイブリッド構成を容易にする。将来的には、ONNX等の既存の学習済みモデルの論理ゲート変換機能や企業向けSDKへの展開を見据えており、高速かつ省電力な次世代AIをあらゆるエッジデバイスへデプロイ可能にする。本プロジェクトは、AI開発をGPU依存から解放し、次世代AIチップ開発の民主化と、日本発の新たなAI基盤エコシステムの確立に貢献するものである。
論理ゲートのみで構成されるニューラルネットワークの研究を統合し、Pythonの高水準APIから直接FPGA向けのHDLを生成するライブラリを開発する提案である。論理ゲート型ニューラルネットワークそのものは新興分野であるが、ハイブリッド学習やTransformer型への展開、HDL自動生成までを射程に含めた一連のエコシステムとして提示し、消費電力と推論速度の桁違いの改善を狙うというビジョンの大きさを高く評価した。テキスト感情分類や言語モデルを題材とした試作実装と検証の蓄積も、本提案の説得力を高めている。
3名のメンバーがそれぞれ自分の分担と方針について確信を持って取り組んできており、論文の追実装を短期間で進められるエネルギーを持つチームであり、未踏事業で支援することで大きく羽ばたく可能性が感じられた。
エッジでの低消費電力推論や、論理ゲートそのものをニューラルネットワークの計算単位として再定義していく方向性は、AI計算の社会的コストが議論される現在において重要なテーマである。本ライブラリの公開を通じてコミュニティを形成し、本ライブラリで何を可能にするのかというユースケース側の言語化を進めながら、論理ゲート型MLの一つの基準となるオープンソース基盤に育てていくことを期待している。
2026年6月29日
2026年度採択プロジェクト概要(秋穗・野間口・羽田野PJ)を掲載しました。