デジタル人材の育成
公開日:2025年6月25日
本プロジェクトは、MySQLのトランザクション処理エンジンであるInnoDBを先進技術に基づく高性能なLineairDBへ置換することで、既存のMySQLに対し大幅な性能向上と高い耐故障性を同時に実現することを目的とする。
LineairDBはSilo法やNWR法に基づく並列性制御とCPR法に基づく高速ログ処理を取り入れており、マルチコアやSSDといったモダンなアーキテクチャの性能を十分に活用可能な、高い並列性制御と効率的なリカバリを可能にしている。本プロジェクトでは、耐故障性の向上のためのRaftプロトコルをLineairDBに組み合わせる。耐故障化は性能を大幅に犠牲にするが、本プロジェクトではバルク転送技術によってこの性能低下を防ぐ。開発するシステムはLineairDB拡張、MySQL/LineairDBラッパ、複製器の3モジュールから構成され、範囲検索やGROUP BY、ORDER BYといった重要なSQL機能、およびTPC-Cベンチマークの要件も満たす設計とする。
本プロダクトの開発により、MySQLを利用するシステムは応答速度が大幅に向上し、大規模なトランザクション処理やデータ解析が迅速かつ安定して実施することが可能になる。その結果、金融システムやWebサービスなど、ミッションクリティカルな環境において、システムダウンタイムの低減と運用コストの削減が期待できる。
本提案は、MySQLのトランザクション処理系を抜本的に再構築することにより、世界中で広く利用されている既存ソフトウェアの根本的な課題に挑むものである。性能と耐故障性を同時に追求する設計は、従来の延長線上にはない困難な実装課題を多数含み、まさに未踏性が感じられる。
提案者らは、MySQLストレージエンジンの開発、PostgreSQLへのパッチ採用、トランザクション制御アルゴリズムの国際会議発表、さらに複数の受賞歴を通じて、基盤ソフトウェアレベルの実装力と専門性を実証している。単なる研究提案にとどまらず、OSS公開、企業連携、学術発信といった出口戦略も具体的に構想されており、成果の社会的波及性も高く評価できる。
一方で、MySQLという大規模OSSに対する実装は複雑で、互換性維持や保守性の観点から、すべての工程が計画通りに進むとは限らない。しかしながら、こうした制約を理解したうえで、独自の手法と分担体制によって挑戦しようとする姿勢は、未踏事業という場においてこそ支援すべきものであると判断し、採択した。
2025年6月25日
2025年度採択プロジェクト概要(宮﨑・中森・李PJ)を掲載しました。