デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業:2025年度採択プロジェクト概要(松野PJ)

公開日:2025年6月25日

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 落合 陽一(メディアアーティスト/筑波大学 デジタルネイチャー開発研究センター センター長)

2.採択者氏名

  • 松野 仁志(東京都立大学 大学院システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域)

3.採択金額

  • 2,880,000円

4.プロジェクト名

  • 芸術文化文脈の直感的編集・共有プラットフォーム

5.関連Webサイト

6.申請プロジェクト概要

本プロジェクトでは、芸術文化の研究者やキュレーターが展示や文章を通じて特定の文脈を伝える際に、文脈情報の直感的編集や共有をサポートするプラットフォームを開発する。本プラットフォームによって、ユーザが調査した文献から作家や作品、概念(コンセプトや場所など)の関係性を抽出し、半構造化されたデータを直感的に編集・共有できる仕組みを提供する。これにより、芸術文化領域における関係性の整理や新たな言及を促進し、文脈のアーカイブ化と新たな芸術や文化の動向が創出される環境づくりを行う。
芸術文化領域では、文脈的な価値づけが重要な要素となっている。研究者やキュレーターは文脈に基づく論を作成し、読者や鑑賞者に分かりやすく伝えながら情報をアーカイブすることで、特定の作家や動向に価値を見出してきた。しかし、このプロセスを遂行する上では、大量の文献から関係性を整理する労力や、それを分かりやすく視覚化して伝えるための可視化技術の習得など、複数の課題が存在する。
この複合的課題を解決するため、下記4点の実現を目指す。

  1. ユーザが保有する文献の内容を、大規模言語モデル(LLM)を用いて知識グラフとして半構造化し可視化することで、調査における関係性の整理を支援する。
  2. 半構造化された知識をLinked Open Data(LOD)として共有して、GitHubのようにコミュニティによる管理を可能にすることで、構造化データの不足を解消し他のユーザによる再利用を促進する。
  3. 知識グラフにユーザ自身の知識や主張を直感的に付加でき、そのデータから文章のアウトラインを生成することができる、知識グラフベースのエディタによって、論の作成を支援する。
  4. 可視化物の見た目を直感的にカスタマイズできる機能により、展示や記事での視覚的伝達を支援する。

本プラットフォームによって芸術文化領域での調査から発表までの人手の負担を軽減しつつ、文脈がアーカイブされることで、文脈が活発に編集され、作家や芸術動向に新たな価値が見出されていく環境の創出を目指す。

7.採択理由

芸術の文脈化は、専門分野の細分化とその多角的・学際的拡張によって、近年ますます困難さを増している。個々のキュレーターが備える専門性は、同時に複数分野を俯瞰しつつ文脈を紡ぐことを困難にし、作家自身が結晶化させてきた芸術概念も、今後ますます乖離と断片化を繰り返すだろう。そのような時代的限界に対し、本プロジェクトは言語モデルという現代的手法で果敢に立ち向かおうとしている。提案者の持つ芸術に対する視座、すなわち表象と文脈形成の構造的変化を見据えつつも、芸術そのものと真摯に対話を続ける姿勢に惹かれた。芸術をライフワークとして向き合う彼の挑戦は、今後の文化的文脈の新たな形成に大きく寄与する可能性を秘めており、本提案を採択とした。

更新履歴

  • 2025年6月25日

    2025年度採択プロジェクト概要(松野PJ)を掲載しました。