デジタル人材の育成
公開日:2026年2月20日
もともとIT分野を中心に業務へ取り組み、システムや情報セキュリティに関わる契約・交渉・訴訟案件に長年携わってきました。複雑化する案件に向き合う中で、法務の枠を超えて技術的背景への理解が不可欠であると感じ、情報セキュリティ技術の学習を継続的に深めてきました。その過程で、日本において唯一の情報セキュリティ分野の国家資格の存在を知り、専門家としての知識基盤をより確かなものとするために、登録セキスペ資格を取得しました。
試験に合格して登録したのが 7年以上前(2018年10月)になりますが、当時、事務所内でこの資格を持っていたのは私一人だけで、とても珍しい存在でした。世の中全体を見ても同じような状況で極少数、弁護士にとって今よりずっと稀少な資格だったと思います。その当初は、持っていないことが普通でしたので、「弁護士にこの資格は本当に必要なのか?」と、どこか懐疑的な視線を向けられているように感じることもありました。
しかし、今は、時代の流れもあり、同じ事務所内だけでも複数の弁護士が同じ資格を持つようになり仲間も増え、心強いです。サイバー案件の需要は、日に日に増えてきており、事務所の中で一人で対応できるボリュームをはるかに超えて溢れかえっています。
IT・情報システム部門と法務部門は、本来密接に連携すべき場面が多くあります。しかし実際には、連携の仕組みが十分に整っていなかったり、仕組みがあっても互いに使う言葉や前提が異なるため、うまく理解し合えないケースをよく目にします。
そのような状況で、登録セキスペとして情報セキュリティの専門知識を持つ弁護士は、技術的背景を含めて事案を正確に把握し、専門用語も踏まえて適切な助言を行うことができます。
この点からも、ITと法務の橋渡し役として重要な役割を果たせると考えています。
現在、サイバー案件が増え、かつ迅速な対応が求められるようになったことで、技術者に内容を細かく説明してもらい、その後に弁護士が法的観点で整理するといった2段階のプロセスを踏む余裕がなくなっています。また、弁護士側に情報セキュリティの専門知識が備わっていなければ、スムーズで的確なクライアント対応を行うことが難しくなります。
資格を取得したことで、情報セキュリティに関する技術的な知識を有していることが可視化され、クライアントに対して安心感を与えられるようになったと実感しています。実際に、情報セキュリティ関連の法務課題について多くのご依頼をいただくようになりました。
サイバー犯罪に関する相談案件や調査案件を多数担当していますが、その際、資格で得た知識があることで、サイバー攻撃の技術的手法の理解がスムーズに進み、これを前提とした法的助言も適切に行うことができています。
近年では、ビジネスメール詐欺やランサムウェア攻撃が特に増加しています。こうした攻撃は手口が特殊な場合も多く、フォレンジック調査はセキュリティベンダーが対応しますが、提出されるレポートには専門用語が多く含まれています。特に、フォレンジックレポートには高度な技術用語が多く含まれますが、登録セキスペの試験勉強で身につけた知識のおかげで、内容をスムーズに読み解けています。試験勉強で培った理解が、実務でも大きく活きていると実感しています。
特に、セキュリティインシデント対応における個人情報保護法やプライバシー対応では、原因となった事象(ランサムウェア攻撃など)に関する詳細な事実関係を正確に理解することが不可欠であり、そのためにはセキュリティの専門知識が必須となります。
また、インシデント対応に限らず、平時の個人情報保護法やプライバシーに関するガバナンス整備の場面においても、情報セキュリティの知識があることで、適切な体制構築や運用方法に関する助言をより的確に行うことが可能になります。
現状すでに、セキュリティインシデント対応やセキュリティガバナンス体制の構築など、法的対応と密接に関わる領域では情報セキュリティの専門性が強く求められており、今後もこの分野はさらに拡大していくと考えています。
一方で、案件数に対して情報セキュリティの専門知識を持つ弁護士は未だ十分とは言えず、私自身、現場でその不足を実感しています。
そのため、多くの弁護士の方々に情報処理安全確保支援士の資格取得を目指していただきたいと思っています。
また、資格を活かした新しい領域としては、今後、M&Aにおけるサイバーデューデリジェンスのニーズが一層高まると見込まれるため、この分野に注力していきたいと考えています。