デジタル人材の育成
公開日:2025年6月25日
近年、地球温暖化の影響で、線状降水帯による豪雨が大都市で頻発している。早稲田大学の関根らが開発したリアルタイム浸水予測システムS-uiPSは、降雨予測を入力値として約20分後の浸水深の予測を可能にしており、この予測を参考に企業や自治体は道路規制や地下空間の封鎖等の対策を立てることができる。この浸水予測は、道路や下水道などの都市インフラ情報で構成されるデータベースを基に、力学計算を行っている。力学計算は半永久的に不変な計算式だが、都市インフラデータベースは都市ごとに作成する必要があり、年月経過による都市改変が起こると作り直さなければならない。S-uiPSで行われる雨水の流出入計算に利用されるデータは、大規模で複雑なインフラ網であっても交差点を1計算単位としてデータベース化しておく必要があり、従来手法では東京都心部のデータベース作成に8か月もの時間を要していた。S-uiPSを全国の都市への適用するのであれば、その際のデータベース更新の工程の自動化が望まれる。
以上を踏まえ本プロジェクトでは、浸水予測計算に必要な道路の長さ・幅・標高データ等で構成されるデータベースを、地理情報システム(Geographic Information System, GIS)を基に、機械学習によって自動作成するシステムを開発する。本プロジェクトにより、浸水予測システムの適用範囲の拡大が容易になるのみならず、予測精度の向上も可能にする。
本プロジェクトは、S-uiPSの即時性と精度の向上を目的としている。具体的には「YOLOを活用した交差点の自動検出モデル」によって即時性と精度の向上を、「オープンデータの点群データを処理することによる詳細な標高データの取得」によって精度の向上を目指す。また、「交差点の自動検出からS-uiPS用のデータベース作成までのワークフローの最適化」によって広範なユーザ獲得を目指す。
本提案を、社会的課題と最新の技術を融合させた価値ある取り組みとして高く評価する。東京都心一帯の道路網データベース化の主要部である、道路幅の取得という約3か月かかる作業を、YOLOを活用した自動検出機能により40時間に短縮したという提案者の実績は、非常に説得力がある。この成果からも、提案者の技術力と実装能力の高さは明らかである。
特に着目した点は、点群データを活用した詳細な標高データの導入や、災害発生後の迅速なデータベース更新など、実用性の高い技術開発を目指していることである。土木工学とAIという異なる分野を横断するこのアプローチは、岡がPMとして重視している技術による社会課題の解決の好例である。
技術導入が遅れがちだった土木分野にAI技術を取り入れるこの先駆的な試みは、浸水予測の精度向上にとどまらず、災害対応や都市計画へと発展していく大きな可能性を秘めている。本プロジェクトを通じて、防災技術の新たな地平が切り拓かれることを期待して、支援したいと判断した。
2025年6月25日
2025年度採択プロジェクト概要(竹内PJ)を掲載しました。