最終更新日:2019年6月28日
近年注目されるVRやテレイグジスタンス、IoTなどの分野に共通する課題として、「測定」がある。これら分野ではすべからく、人・環境の状態を測定することが基本とされる。測定情報の問題は、サービス品質の劣化に直結する重大な問題となる。人・環境の測定に際しては、ハードウェアインタフェースと電子回路を作成することが必須であり、ソフトウェア人材だけではなくハードウェア人材の育成も必要不可欠である。
昨今ではSTEM教育などに代表される、IT技術を応用した多くの教材が開発・導入されており、一見するとソフトウェア・ハードウェアの教育環境は充実しているように見える。しかしながら特にハードウェアに関しては、モジュールの利用に関する教育であり、モジュールの設計・創造にまで踏み込んだものはほとんど存在しない。また、小学校の中学年・高学年ころより、電気の振る舞いについて教育が行われているが、抽象概念の把握の難しさから、十分な効果があるとは言い難い。結果、中学校・高等学校で行われるように物理現象を数式として解くことができても、実際に回路を組み立てることができない状態を招いてしまう。別の言い方をすれば、数式を解くことができても、数式の意味するところを、現実の回路に重ね合わせつつ、肌感覚で理解するまでには至らないのである。すなわち、電子回路を作成するにあたって、真に必要となる基礎的な「電気の振る舞い」に対する理解を促進するものは少なく、既存ツールではこれを利用していく中で学習者自身が身につけることを暗黙的に期待しているに過ぎない。
そこで、本プロジェクトでは電子回路を作成するにあたって必要な素養のうち、より根源的な原理原則に対する「感覚」を身につけることを目標とする。具体的には、回路中の電圧や電流、RLCなどのパラメータを直接手で触れて感じ、手で操作可能なプラットフォームやインタフェースを製作する。本装置を利用することで、ユーザに対して電子のイメージや受動部品の振る舞いの直感的理解を促す。これにより、電気や回路に対するより正確なイメージの定着や、後の学習過程における数式での理解を促すだけでなく、他の不可視な情報や状態の「触れるようにすることで理解を促す」技術への応用を狙う。
早期のプログラミング教育の重要性が叫ばれる昨今、さまざまな学びのツールが提案されているが、ハードウェアを学ぶためのツールはまだまだ少ない。本提案では、部品の抜き差しや配線の挿入だけでなく、握ることや物理的な高低差で回路の動きに変化を付けたり、光や振動によって電流をフィードバックしたりすることで、触りながら電子回路を学ぶことができる。
提案時にプロトタイプは完成しているものの、電子回路の表現方法や部品の多様化など検討すべき課題もあり、その上でそれらを解決し、実際に教育現場で活用され、ハードウェアに対する肌感覚がさまざまな人に広がる事を期待している。
2019年6月28日
2019年度採択プロジェクト概要(岸田PJ)を掲載しました。