社会・産業のデジタル変革

3.ブロックチェーンによる自己主権型アイデンティティの実現 個人起点のデータ流通促進

執筆:安田 央奈 2021年3月31日

デジタルビジネスを推進する上で、データ分析を活用した業務改善や新しいサービスの実現が必要不可欠となっている。こうした中、顧客行動へのより深い洞察を実現するために、企業間でデータを流通させる仕組みの重要性が高まっている。一方、各国は情報漏洩などの問題に対し規制を強めており従来型の中央集権的な個人情報管理に代わる新たな仕組みへの模索がされている。
本レポートでは、中央集権型の個人情報管理の課題を解決する手法として、ブロックチェーンを活用した自己主権型アイデンティティに注目し、萌芽的事例などを通じて、個人起点の新しい個人情報管理の仕組みがデータ流通促進などに寄与することを示す。

3. 個人起点のデータ流通促進

自己主権型アイデンティティの機能を実装するデータ流通プラットフォームは、よりスムーズに市民や消費者といった個人をデータ流通の当事者として巻き込んでいけると考えられる。個人を顧客とするデータ流通プラットフォームは自己主権型アイデンティティが創出する価値を十分検討すべきである。
例えば新幹線や飛行機のチケットがどれくらい購入されて、何日の何時頃に何人がやってくるのかが旅行先のタクシー会社や飲食店に伝われば、過不足のない車や食事の手配の予測に活かせられる。趣味嗜好等のデータが開示されていれば、初めての訪問客にもパーソナライズしたサービスを提供して満足度を高める可能性がある。

モビリティサービスは、顧客と未知の事業者の出会いとデータの生成という点で相性が良く、今後サービスを拡大していく中で自己主権型アイデンティティのような個人起点のデータ流通に設計されるか否かが、プラットフォーム利用企業の競争優位性を大きく左右していくと考えられる。例えばスマートカーに搭載されたタイヤセンサーが走行しているアスファルトが濡れていることや凸凹に荒れているなど路面状況のデータを収集したとして、自治体がそれらのデータを集めることができれば新たな検査コストをかけることもなく、いつ頃に道路の舗装工事を行うべきか予測を立てられる。この価値は、車とデータの持ち主である個人が自治体等へのデータ開示を管理できる仕組みがなければ創出できない。
MONET Technologiesが創設した「MONETコンソーシアム(脚注8)」のような、異業種混合のデータ流通コンソーシアムが消費者個人をデータ流通の当事者として巻き込んでいくことができれば、より高い価値創出が期待できる。MONETコンソーシアムには出資元のトヨタ自動車やソフトバンクといった自動車や通信メディア分野以外にも建設業、製造業、電気・ガス・水道のインフラ、教育や医療・福祉など、多種多様な産業分野651社が加盟し、モビリティイノベーションを目指している。自動車産業はCASE(Connected / Autonomous / Shared&Services / Electrification)の技術革新とMaaS(Mobility as a Service)の潮流によりデジタル変革の直中にあり、市場がIT産業に侵食されつつある。デジタル市場拡大への対抗策として、モビリティデータを流通させて様々な産業分野が協調するエコシステムの構築は、非常に有効な戦略である。
コンソーシアムに今後どのような企業やサービスが参加しても、今の常識では測れないデータ活用方法が考案されても、エンドユーザの顧客が安心して利用を継続できるようにするためにもデータ流通において個人起点という要素は重要となってくるだろう。 既にグローバルでは自己主権型アイデンティティの要素をデータ流通基盤に組み込んでいる「MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)」の事例がある。MOBIでもモビリティデータマーケットプレイスCMDM(Connected Mobility & Data Marketplace)のワーキンググループが自動車産業の他に保険会社、広告会社、AI開発企業等を加え、データの利活用に向けて活動を進めている。

  1. (脚注8)

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