社会・産業のデジタル変革

4.ブロックチェーンの特性から理解する社会実装の展望 競争領域での協調による得難い価値

公開日:2022年2月20日

最終更新日:2023年7月20日

独立行政法人情報処理推進機構
総務企画部 調査分析室
執筆:安田 央奈 2020年2月20日

効率化・コスト削減から高付加価値創出へ

ブロックチェーンはビジネスにおいて戦略的に重要な技術として選ばれ始めている。ブロックチェーンは中央管理者無しに信頼性の高い記録によって取引を成立させることができる特性を持っており、これによって契約やワークフローの効率化・コスト削減効果が期待できる。そして、普及の段階を経て、例えば競争領域での競合他社間の協調のような新たなデータ共有の形といった高付加価値を創出していく。

4. 競争領域での協調による得難い価値

ブロックチェーンの普及は段階を経て社会実装に繋がっていくと考えられる。最初の段階がBitcoinなどの暗号資産の取引に始まり、次にinB(企業内)、BtoB(企業間)において効率化・コスト削減などの短期間のうちに出る成果による普及の段階があり、その先には高付加価値のブロックチェーンが普及する段階を迎えるだろう。高付加価値のブロックチェーンとは、ブロックチェーンにデータを記録すること以上の価値を新たなサービスやソリューションに付与するものといえる。例えば、機密情報である競争領域のデータを競合他社間でもブロックチェーンで共有し活用できるような新たなデータ共有の形を実現するシステムなどである。創薬においてこの事例はすでに出現している。
製薬会社は各社で化合物ライブラリーを所持しており、機械学習をライブラリーへ活用することで新たな薬の研究・開発が進められているが、一組織だけのライブラリーでは分析結果の正確性に欠けると考えられている。だが、化合物ライブラリーのデータは機密情報であり製薬企業の競争力でもあるため、競合他社に対し秘匿を解くことはできないデータである。
「MELLODDY(Machine Learning Ledger Orchestration for Drug Discovery)」は、化合物ライブラリーのデータを各社で秘匿状態を維持しながら、コンソーシアム間で機械学習に利用することができるプロジェクトである。本プロジェクトはEUにおける医薬品研究のイニシアチブ「IMI(Innovative Medicines Initiative)」において遂行されており、コンソーシアムにはアステラス製薬、アムジェン、メルクなどの製薬大手が参加している。技術提供パートナーであるOwkinが提供する「Substra」にはHyperledger Fabricをベースとしたブロックチェーン機能が適用されている。
「MELLODDY」はブロックチェーンとフェデレーションラーニング(脚注5)を採用することで、秘匿された他社のライブラリーからも学習結果を集めることができるため、膨大なデータが相互に作用して創薬の大きな進歩が期待されている。さらには、利用が進むにつれて類を見ない量の情報が取引され、コンソーシアムブロックチェーンの台帳へ蓄積されていくことになる。この蓄積されたトランザクション情報も見逃せない高付加価値の一つとなる。
 ブロックチェーンに蓄積されたデータが機械学習分野の手法によって解析されるケースのように、データを中心とした複数の技術の融合は、競争領域での協調といった得難い価値を社会にもたらすと考えられる。

  1. 脚注5
    学習データを集約することなく各エッジに分散させたまま各エッジにおいて学習を行い、学習の結果のみを集約し最終結果を返す機械学習方法。

【推奨事項】

  • ブロックチェーンの高付加価値創出のステージを見据える
  • 競争領域のデータを活用すべく、競合他社とのコンソーシアムを組織する
  • コンソーシアムに蓄積されるデータを活用すべく、フェデレーションラーニング等の他の技術とブロックチェーンを融合させる

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  • 2023年7月20日

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