社会・産業のデジタル変革

4.「データの民主化」従業員によるデータ利活用の拡大

公開日:2022年5月12日

最終更新日:2023年7月20日

独立行政法人情報処理推進機構
総務企画部 調査分析室
執筆:安田 央奈 2022年3月31日

データマネジメントの一連のプロセスのうち、データの準備に費やされている時間は分析に費やされている時間より多く、データ準備工程の効率化は重要な課題となっている。データプリパレーションツールはデータの整形や統合といった準備処理を簡単な操作、あるいはAI・機械学習で自動実行できる機能を備えており、データ準備を効率化するにとどまらず、非技術者がデータ準備を実行することを可能にする。
本稿では、データ準備工程の効率化におけるデータ準備処理を行うツールの簡易化・自動化の潮流と、それによる「データの民主化」について詳述する。

4.「データの民主化」に日本企業はどのように対応していくべきか

データプリパレーションツールを筆頭に、データマネジメントにおけるツールの潮流は多様化・大容量化から、簡易化・自動化へと発展していっている。各種ツールにおいては非技術者をユーザと想定した設計が進んでいる。「データの民主化」はデータ利活用を推進していく企業が注視しておくべき潮流である。
「データの民主化」は新しい技術の導入や、それを使いこなす人材の育成だけでなく、データドリブンな文化や組織風土の醸成が重要となってくる。「データの民主化」はあらゆる従業員を対象にして企業全体に影響が及んでいくが、ボトムアップによるものではなく、企業全体を見通し組織的に作り上げるものである。最高データ責任者を任命したり、企業におけるデータ利活用の知見や技術を集約してCoE(Center of Excellence)などの推進チームを構成したりして、組織的に「データの民主化」を推進していく必要がある。

データ利活用のますますの効率化や、データドリブンな組織への変革を目指し「データの民主化」を推進する日本企業への推奨事項を以下のとおり三点にまとめる。

<1>データ利活用の技術や知見を集約するCoEを構築する

CoEは特定の領域やテーマに関する知見や技術を集約し、卓越(エクセレンス)した専門家によるチームの構成である。CoEはその高い専門性をもって、企業の課題解決における中心的役割を果たす。課題解決に取り組む各事業部にそのノウハウでもって支援したり、事業部同士の協調を調整したり、あるいは課題解決の実行部隊となる場合もある。

「データの民主化」という組織変革的な状態を目指していくうえで、CoEのような専門性の集約組織の構成は重要である。データのCoEを構成することで、全社におけるデータとそのユースケースを把握し、各事業部における課題や要望を吸い上げ、どのように解決していくべきか組織横断的な方法を策定していくことができる。

<2>事業部側の非技術者でも利用できるデータプリパレーションツールやAI・機械学習ツールを取り入れていく

「データの民主化」は、従来中核を担ってきたデータサイエンティストやデータエンジニア以外でもデータ利活用に積極的に関与していける点が新しい。貴重なデータに関する専門人材を創造的で変革的な価値創造に集中させ、データの整形や分析は各事業部がセルフサービスで実施できるように、非技術者でも利用できる処理が簡単で自動化されたデータプリパレーションツールやAI・機械学習ツールの導入が求められる。Pythonなど整形に関するプログラミング技術を習得している人材でも、データプリパレーションツールを活用することで作業効率を上げることが期待できる。

データプリパレーションツールは製品によって簡易化・自動化できる機能は異なるため、自社のデータ利活用に合ったものを検討し、ツールの機能以上の複雑な整形や分析が必要となるときのためデータサイエンティストやデータエンジニアとの連携は継続しておくことが望ましい。

<3>データサイエンスに基づいた洞察ができる人材を増やすこと

データの利活用においてはプログラミングのスキルと、データサイエンスのスキルの両方が重要である。プログラミングのスキルが必要な作業をデータプリパレーションツールで支援するだけでなく、多くの従業員が統計学や数学モデリングの基礎を理解してデータサイエンスに基づいた洞察ができるようになると、データ利活用の効果を飛躍させることができる。

そのためには、統計学や数学モデリングに関して学べる研修などの機会を設けたり、そのようなスキルを既に身につけている専門性の高い人材と交流したり、スキル向上の施策が必要である。少なくとも、非技術者である従業員が、データ利活用でどのようなことができるのか、なぜ自分たちのビジネスにとってそれが重要であるのか理解と納得できる状態となれば、データドリブンな組織風土を全社的に醸成していけるだろう。

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