社会・産業のデジタル変革

3.「データの民主化」従業員によるデータ利活用の拡大

公開日:2022年5月12日

最終更新日:2023年7月20日

独立行政法人情報処理推進機構
総務企画部 調査分析室
執筆:安田 央奈 2022年3月31日

データマネジメントの一連のプロセスのうち、データの準備に費やされている時間は分析に費やされている時間より多く、データ準備工程の効率化は重要な課題となっている。データプリパレーションツールはデータの整形や統合といった準備処理を簡単な操作、あるいはAI・機械学習で自動実行できる機能を備えており、データ準備を効率化するにとどまらず、非技術者がデータ準備を実行することを可能にする。
本稿では、データ準備工程の効率化におけるデータ準備処理を行うツールの簡易化・自動化の潮流と、それによる「データの民主化」について詳述する。

3.「AIの民主化」から「データの民主化」

データ分析に基づいた意思決定がビジネスにおいて必要不可欠となっている昨今、非技術者がユーザとして使えるツールはデータプリパレーションツールだけではない。企業に存在するデータを活用して、特定の技能の有無によらずあらゆる従業員が意思決定し問題解決する手段に加え、効率化と生産性向上により企業全体の活動を大きく底上する「AIの民主化」には、もっと早くから様々な企業が対応している。例えば米国のFord社は2018年時点でマーケティング部門や生産部門などの事業部門にAIなどの予測分析ツールを使いこなす市民データサイエンティストを全世界で3,200人以上擁している(脚注8)。
データが発生してから分析できるようになるまでに「転送・収集、保管、整形、蓄積、活用」の各段階を経るが、その中で最もビジネスの現場に近い活用の段階は早くから非技術者向けの支援ツールが導入され「AIの民主化」が進んでいた。
現時点ではまだデータマネジメントの一連のプロセスのうち、非技術系事業部の従業員が処理を行える領域は限られているが、データプリパレーションツールの簡易化・自動化の潮流を受けて、非技術者が自身で処理できる領域は「活用」だけに留まらず「整形」へと広がり、「AIの民主化」から「データの民主化」へと拡大している(図表2)。分析ツールやデータプリパレーションツールの提供会社は導入しやすく使いやすいソリューションを開発し、データサイエンティスト以外にビジネスユーザや非技術者を彼らのツールのユーザとして視野に入れはじめているのである。

  • 図表2データマネジメントプロセスにおける「データの民主化」の拡大
    図表2 データマネジメントプロセスにおける「データの民主化」の拡大 (脚注9)

「データの民主化」は次第に企業全体に影響を及ぼしていく。そうなると、ビジネスとデータを今まで以上に密接に結びつけることができる。データの利活用に加わる従業員を広く増やし、あらゆる事業においてデータに基づいた意思決定を行って効率化や生産性向上を促進するデータドリブンな組織へと変革していくことができる。
例えば、英国の文房具グッズのeコマース企業Papier社はFacebookやGoogleなど様々な媒体に広告を掲載しており、広告閲覧やクリックストリーム、トランザクションなど様々なデータを収集して顧客の360度分析を行っていた。Papier社(脚注10)はデータの抽出・変換・ロードを行うETL処理を自動化するFivetranやBIツールのLookerの導入により、CTOが一週間のうち丸一日にあたる時間をかけていたETLの修正やデータベースの更新を効率化し、あらゆる従業員が常に最新のデータを使えるよう環境を整えた。その結果、今までは専門チームからの回答を待たなくてはならなかった分析を、従業員のうちの三分の二が自らツールを使って分析を行うようになり、データドリブンな組織へと変わっていった。

  1. (脚注8)
    The AI Summit New York 2018でのフォード講演より
  2. (脚注9)
    「DX白書2021」図表42-6「データ活用基盤の全体像」をもとに作成
  3. (脚注10)

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  • 2023年7月20日

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