デジタル人材の育成

学びのススメ vol.9

学び続けている実践者の方からお話を伺いました。
ご自身の組織や個人としての学びのご参考になれば幸いです。

西村創一朗 氏

複業研究家/HRマーケター。『複業の教科書』の著者。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。LinkedIn認定インフルエンサー。Anker公式アンバサダー。

2017年9月~2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。プライベートでは中1長男、小4次男、年長長女の3児の父、NPO法人ファザーリングジャパンにて最年少理事を務める。

Q:西村さんのように学び続けたいと後輩等に言われたら、何が大切だと伝えますか。

越境し続けることが大切です。日本は多くの大人が学ばない国だと思います。なぜ学ばないのか、それは学ばなくても生きていける国だからです。解雇されるリスクが少なく、失業率の低さは世界トップクラスの素晴らしい国ですが、裏を返せばある種のぬるま湯になっています。そのため、学ばざるを得ない環境にいかに自分を置くかが重要になります。これまで越境というと、転職のようにハードルが高いものとして扱われがちでしたが、会社を辞めずに会社の外に越境し、会社の中の常識が世間では通用しない、自分が知らないことが世界にはたくさんあるということを学ぶ、「複業」というアプローチもあります。
また、良くも悪くも数十年前と違い、多くの若手は一生一企業で働き続けられないという漠然とした危機感や、このままでいいのかという疑問を感じていますが、そういった違和感に対して具体的にどうすればいいのかというアクションが思い浮かばず、それを放置してしまいがちです。自分の感じている違和感から逃げずに向き合うことが必要です。そのために、まずは社外のイベントに参加してみる、といった小さなことでも良いので、世の中(会社の外)を知るために一歩を踏み出すことです。何を目標にしていいかわからなくても、選択肢を知るための行動を起こしてみることが重要です。

Q:複業というアプローチに関して、学びにおける効果はどのようなものでしょうか?

一つの仕事だけに従事していたのでは得られない知識や人脈、経験です。お金だけではありません。読書やセミナーなど、新たな知識をインプットすることは重要ですが、インプットだけにとどめずにアウトプットした方が学習効率はより高まります。複業は絶好のアウトプットの場です。インプットした内容が本業でやっている仕事と直接関連している場合は、学んだことを実務で活かすことができます。しかし、インプットした内容が本業の仕事には直接関連していない非連続な学びの場合、実務ですぐには活かしづらいです。非連続な学びほど越境学習につながり、思いも寄らない成長機会を得ることにつながるものの、本業の職場では実践しづらいということがあります。そういった場合でも、複業であれば自ら実践の機会を作ることが可能になります。
複業というと、いきなり「毎月◯万円稼ごう」など、目標を高く設定してしまいがちなところがあります。ゲームに置き換えて考えてみてください。ゲームは上手くできており、徐々に難易度が上がります。例えば、初心者がいきなり強敵のボスに挑むのではなく、初級ステージから徐々にクリアしていくのが普通です。初級ステージを何回やってもクリアできない人はほとんどいません。複業も同じで、ゼロから複業をはじめる場合は、「まずは、自分の得意なこと/好きなことを誰かに話してみよう」など、ハードルを可能な限り下げてスタートすることをオススメしています。

Q:行動することが大事ということですが、なかなか行動を起こせない人はどうしたら良いですか?

小さくてもいいので、行動して成功体験を積むことが必要です。例えば、本の場合は面白そうと思って購入してから実際に読むまでのリードタイムを極力短くすることが大事です。一番良くないのは、オンラインで紙の本を買うということです。クリックして購入する時がモチベーションのピークで、手元に届く時には冷めていることが多いので、結果として積読になってしまい、読まないまま終わってしまいがちです。読みたいと思ったら、購入してからすぐに読み始めることができる電子書籍か書店で買うことをオススメします。本を買ったら5分でもいいのですぐに読む。0から1は結構なエネルギーが必要ですが、5分でも読むとモチベーションが維持しやすいです。
また、企業として従業員の学習を促進したいという観点では、学びのWhyから始める必要があります。なぜ学ぶ必要があるのか、学ぶことによって何が得られるのかを、上司や人事が言語化して伝えるのではなく、当事者である従業員自身の言葉で言語化するところからはじめましょう。一番やってはいけないことは、親が学んでいないのに子に学べということです。それは企業も同じで、学ばせたいなら上司自身が学ぶことが大事です。

Q:学ぶ意欲はあるが、続かない人はどうすれば良いですか?

そのような人は時間の使い方の優先順位を考える必要があります。時間の優先順位を間違えると、せっかく始めた学びも頓挫する可能性があります。例えば、自分を会社として見立てた時に、じぶん株式会社の中長期経営計画として、3~5年先といった将来のために必要な学びを重要視する必要があります。いずれは海外で仕事をしたい場合、英語が必要となりますが、それは緊急かというとそうではないです。よく緊急度と重要度のマトリクスで表したりしますが、つい重要だが緊急でないことは後回しにしてしまいます。そうならないために、重要なことに使う未来の自分の時間を予約しておく必要があります。
また、日本人には勉強はやらなければいけないものという印象が強いと思います。やらなければいけないという意識に変わってしまうぐらいなら、他のテーマに学びをピボットすることを恐れずにやった方が良いです。次の学びにテーマをピボットすることをネガティブに捉えないことが重要です。やってみて初めてわかる好き嫌いや向き不向きはたくさんあります。大事なのは、自己否定はせず、きちんと振り返る機会にするということです。

Q:何を学んだら良いかわからない場合はどうすれば良いですか?

学生と社会人では学びの起点が違います。社会人は自ら旗を掲げて、必要な学習コンテンツを自分で探してセルフマネジメントしていかないといけません。そのため、目指すべき具体的なものがあるのは重要だと思います。例えば、営業の仕事をしていて、本当はマーケティングの仕事がしたいという気持ちがある場合、同じように営業からマーケターになった人の本や情報発信に出会いやすい時代になっています。そういう人の発信やコンテンツを見て学ぶのも手段としてあると思います。例えば、私がファウンダーとして運営している「U-29ドットコム」は、20代でユニークな人生を歩んでいる人の記事を掲載していますが、こういうメディアを見ると、学生時代にこんな人生を歩んできた人はこんなキャリアなのか、この人の働き方は自分の理想と近い、というような自分の目指したいものを仮決めでいいので決めることができます。そうすると、そこに向けてアクションしていけますし、目指す途中でちょっと違うかもしれないというルートの分岐が見えてきて、選択肢を知ることにつながります。そのため、目指す目標がない状態で何を学んでいいのかわからない場合、目標の仮決めをすることも大切です。

Q:学びの面白さとは?

一つの学びから派生してまた別の学びへとつながる、学びの連続性です。例えば、ある本を読んでいて、そこで出てきた未知の分野の入門書を読むであったり、著者の他の本や参考文献を見てみるであったり、学びの連鎖が起こることがあります。そのような学びのセレンディピティは、自分のキャリアを思わぬカタチで変化させてくれることがあります。
また、学びの連続性には大切なことが2つあります。1つ目が、自分の興味関心をタグとして言語化することです。そうしなければ、脳に情報がひっかからず、ただ文章として処理されてしまいます。タグを持つことでシナプスがつながります。このタグは静的なものではなく、動的なものでどんどん追加していきます。
2つ目が人とのつながりです。一冊の本を読んでも何を感じるかは人によって違います。人と対話することで、学びの派生が起きやすくなります。そのため、SNSを活用して発信することはとても重要で、本を読んで得た学びをアウトプットするだけで、周囲から思わぬフィードバックや反応が得られるようになるため、発信するかしないかによって、学びのセレンディピティの発生確率は100倍ぐらい違うと思います。SNSを活用したアウトプットは現代の学びを加速させるためには必須と言えます。

Q:学び方について教えてください。

学び方は人生を歩んでいく中で変わっていきます。それは自分自身の変化もありますが、世の中の変化が激しいからです。10年前は、学びといえば本やセミナーからのインプットが主だったと思います。YouTubeも今ほど盛り上がっていませんでしたし、エンタメコンテンツはあっても学習コンテンツはあまりない状況でした。しかし、現在は動画で学習するコンテンツも増え、最近だとVR学習も出てきています。学習方法はどんどん新しいものが出てくるので、ある時点では本による学びが一番だと思っていたのに、いつの間にかVR学習による学びが一番だということもあり得ます。そのため、新しい学習方法が出てきた時に食わず嫌いせずにやってみることが大事です。どんどん活用していくことが学び続けるためには重要な要素です。
また、コミュニティでの学びはとてもコストパフォーマンスが良いと思っています。例えば、MBAや社会人大学などにおいて、学習の内容より人との繋がりというコミュニティ的なことに価値を見出している人の方が多いです。普通の社会人がMBAに行くのはハードルが高いですが、人との繋がりというものをライトに満たすものとしてコミュニティは非常に良いと思っています。ただし、コミュニティのような共に学ぶということと、自学自習は車の両輪です。自学自習をせずにコミュニティに行くだけだと、学びの速度は遅くなります。また、コミュニティにおいて、インプット過多になってしまうともったいないので、アウトプットを増やすことを意識するのも重要です。インプットはアウトプットを最大化するために行っているというアウトプットドリブンな考え方が大事です。

Q:今まで聞いた西村さんの学びに対する姿勢は先天的・後天的どちらですか?

後天的だと思います。いくつかの原体験から学びに対する姿勢が形成されました。具体的なエピソードとして、中学生の時に元々高校に行くつもりがなく、中学3年の12月から受験勉強を開始しました。時間がなく、手あたり次第に勉強しても間に合わないので、どう効率的に勉強するか学び方を学びました。そこから1ヶ月ちょっとで猛勉強してなんとか公立高校に合格しましたが、それが学べばできるという成功体験になりました。
また、高校に入学して最初の中間テストにおいて、たまたまクラスでトップになることができ、周囲から「勉強ができるキャラ」と認識されたことで色々と聞かれるようになりました。そうなると、“知っている”と“教えられる”ということには乖離があるので、聞かれたことに答えるために整理などする必要があり、そこでただ勉強するよりも教える方が効率的だと気づきました。ある種、人に話す機会を得ると、自分の理解が追いついていないと認識でき、さらに学ぶという原体験でした。
そこからインプットを深めるためにアウトプットが重要と考えるようになりました。

Q:西村さんにとって学びとは?

自分の人生をアップデートし続けるための燃料です。知らず知らずにガス欠になって、いくらアクセルを踏んでも前に進まなくなっている人はたくさんいます。物理的な車ならガス欠に気づけますが、学び不足というガス欠では、前に進めないことに気づけていない人もたくさんいます。半年後、1年後にどれだけ前に進めているか、立ち止まって考えてみることが必要です。