デジタル人材の育成
学び続けている実践者の方からお話を伺いました。
ご自身の組織や個人としての学びのご参考になれば幸いです。
岩切晃子 氏
岩手県釜石市出身。株式会社翔泳社 取締役。日本最大級のITエンジニアイベント「Developers Summit (通称:デブサミ)」を、2003年の第一回より10年以上コーディネートし、異種の技術領域に携わるエンジニアが一堂に会することのできる、中立かつオープンで多様なイベントの開催を支えたことにより、楽天テクノロジーアワード2012 ルビー賞を、自宅の倉庫に置いた箱庭ライブラリの運営に対し、本を通じた人と人とのつながりを生み出し、地域にも貢献する活動として、大阪府立大からマイクロ・ライブラリーアワード2018を受賞。コンピュータ出版販売研究機構会長を2016年4月~2020年9月まで務め、コンピュータ書の棚分類コードの整備やこどもプログラミング書籍の棚作り、小学校への推進を行った。その他、アジャイルやスクラムの書籍を段ボール2箱約60冊貸し出す、旅するAgile本箱プロジェクトをプロボノとして2019年1月から開始するなど、本、IT、コミュニティで社会をブーストする人を増やすために、日夜行脚中。
万物はいつでも変化していると認識することです。いま、天下を取っているものでも、それが長続きするかというとそうでもないです。例えば、1989年の世界の時価総額トップ10に日本企業が7社入っていましたが、2019年のトップ10は、ゼロ社のように、物事は常に変化します。変化している中で、ベストではないかもしれないですが、ベターな解を導き出すためには、学ぶことが大切だと思っています。
現在、あるテーマを決めて、学ぶことはお休みしていますが、基本的には本を毎月5冊は少なくとも読みます。本は課題の解を探すために読んでいます。また、本を読むということは、自分の言葉を作ることにもつながります。語彙を増やしたり、相手の話を聞くときの理解の幅が広がったりします。あとは、若い人の話を聞く機会がなくなってきているので、若い人が関心を持っていることにアンテナをはるためにイベントに参加するようにしています。いつかは彼らにバトンを渡すことになります。その彼ら自身がどんなことに関心を持って生きていくのか気になります。
ツールの特性の違いを活かして学び方を変えています。例えば、学びの取っ掛かりを探すのは動画でよいのですが、より専門的なものを学ぼうという時には本を活用します。動画を含むインターネットが湧き上がるメディアだとすると、本は作るのに最低でも6ヵ月かかり、その間に何人もの目を通るので正確性があり、より静的で固まったメディアと言えます。そのため、いま何が起こっているかについてはインターネットなどで探して、それを深めるために本屋に行くという感じです。
本は、基本的に人間です。著者の言葉が書いてあります。自分都合で会いたい時に著者に直接会えるわけではないですし、自分の興味のおもむくままに好きな時に読めるのが本の強みです。動画も同じような役割を持っていますが、本の方が情報量は多いです。学びはじめはわからない言葉ばかりなので、自分の頭に定着させるためには、どんな角度なら入ってくるか考えます。私の場合は、はじめに漫画や子ども向けの本でわかりやすく解説されている本を読むことが多いです。そこで概 要を掴み、その後は詳しい本を読んでいき、大体3冊ほど読むとその領域のことが頭に入ってきます。そうすると、自然とその領域のニュースの内容がわかるようになります。
私の場合は、スクラムコミュニティと仲良くさせて頂いていますが、スクラムは、学び続ける、ウォッチし続けるには広い世界です。そのため、一人ではできないことを、コミュニティを通して、仲間の人たちと意見交換したり、情報を教えてもらったりすることで、自分をアップデートしていきます。新しいネタ(概念)を得ることに関して、コミュニティの力は大きいと思います。人はメディアです。どんな人にもその人にしか話せないネタがあります。また、コミュニティで頑張っている人を見ると応援したくなりますし、自分も頑張らないといけないという気持ちになれます。
自分を計測するというわけではないですが、日記を書くことで見えてくることがあります。頭の中の整理や、気になったことを書きとめたり、本の切り抜きをしたりすることで見返しています。何度も見返すことで定着して、悩んでいる時にそこに戻ってこられます。私の場合、日記に書くというのは、頭の中に定着できたかどうかのテストなのかもしれません。
初めから自分と関係ないところに関心を持つことは難しいですよね。そこで、まずは会社の中や外を知ってみよう、というところから始めてみるのはどうでしょうか。会社というのは、英語だとカンパニーで、その語源は「パンを一緒に食べる」という意味。今で言えば、共に働き得た利益を分配する仲間という意味です。利益を共有する仲間の仕事を知る意味で、他部署の例えば、経理やマーケティングの仕事はどんなものなのか、取引先はどんなところがあるのか、自分が見えている範囲を広げて、会社の仲間やお取引先が取り組んでいることや、利益の源泉に関心を持つのはいかがでしょうか?私自身、取引先の業態によって経営の仕方が違うということを、身をもって知れて面白さに気づいた経験があります。また、ライバルとのサービスの違いを考えるきっかけにもなりました。
向き合わなければいけないことは、時間を決めて優先順位を上げて向き合うことです。例えば、私がDevelopers Summit(デブサミ)をやっていた時、ITテクノロジーの全てからコンテンツを考えないといけないので、様々なテクノロジーの動向を見続けなければいけませんでした。時間を決めて優先順位を上げなければ、他の割り込み仕事が入ってくるので、その頃は時間を決めてネットを見たり、イベントに行ったり、エンジニアに話を聞いたりすることでテクノロジーを徘徊するという ことを意識的にやっていました。
組織に属せば、その中での上下関係があり、組織の空気感に支配されることも多いと思いますが、何事も最終的には、自分のことは自分が決めている意識を持つことが、学びを継続するモチベーションになっています。たとえ無茶振りされたことでも、引き受けたのは自分であり、結果を出すためには、調査・勉強する必要があります。誰でもない、自分が決めているということに対して、自分がリーダーと言いたいですね。自分の心の中の会議の結果、学ぶことから逃げることもできますが、最終的には自分が決めていると思っています。
現状を改善するためのネタ探しと、なにか面白いことがないか?現状に飽きているから学んでいるという部分があります。自分にも世間にも飽きないために新しいネタが必要だなと。現状維持になると、人間は固まってしまうと思います。止まるとそこから負の連鎖が始まっていきます。少しずつでも動いていると腐敗の芽は止まります。変化することは恐ろしいことですが、自分を少しずつズラしていくように揺れ続けることで、変化し続ける方が最終的に人生は楽しいのではないかと私 は感じます。