デジタル人材の育成

学びのススメ vol.2

学び続けている実践者の方からお話を伺いました。
ご自身の組織や個人としての学びのご参考になれば幸いです。

vol.2 黒田悠介 氏

黒田悠介 氏

2004年東京大学理科一類で入学するも、心理学に関心を持ち文学部に転籍。2008年東京大学文学部卒業。その後2社のベンチャー企業を経て2011年に起業、2年弱で代表を交代し2012年にスローガン株式会社にジョイン。キャリアカウンセラーとして2年間で数百人の就活生とキャリアについて対話するなかで、思考を言語化する面白さや課題解決への効果を実感。2015年8月にフリーランスとして独立し、ディスカッションパートナーという職業を名乗り支援した企業は約100社。2017年には行き過ぎた「個の時代」の反動として「コミュニティの時代」を直感し、2月にフリーランスコミュニティのFreelanceNowを、11月には議論でつながるコミュニティの議論メシを立ち上げる。議論メシのメンバー数は200人。様々なテーマと参加者で、毎月20回ほどの議論イベントを開催している。これまで開催されたイベントは300回以上で延べ参加者数は6000人以上。コラボレーションの相手はスタートアップ、大手企業、行政、コミュニティなど多岐にわたり、約120団体に及ぶ。また、2000人以上のキャリア相談に乗った経験を詰め込んだ、自分らしいキャリアパスを描くための指南書『ライフピボット』著者。

Q.黒田さんのようにうまく学び続けたいと後輩等に言われたら、何が大切だと伝えますか。

自己理解が一番大切です。自分は何が好きで何が嫌いか、何に関心があるのか、自分の特性を理解して学ぶことを決めていく方が、結果としてアウトプットも良くなります。
また、自己理解を深めるためには、自分の感情の動きを大切にすることが必要です。例えば、イライラした場合、その怒りの感情をメタ認知することで、自分が価値を感じていることを否定された、というような自身の価値観を再認識することにつながり、自己理解が深まります。

Q.学びにおいて、ご自身の特性で大切にしていることはありますか?

私自身、座学で何かを学んだということが多くありません。やはり実践を通して腹落ちさせることが多いです。前段階として座学で学ぶことはありますが、文字で読んでも私は腹落ちしません。実践したことしか自分の言葉で語れないと思っています。そのため、知識を知恵にアップデートするために、実践して腹落ちさせることを大切にしています。
現在、ファシリテーションとか場づくりを仕事としていますが、ファシリテーションについて本を読んでこうすると良いというのがわかった時より、実際にやってみて、そこでフィードバックを得られた時の方が学びにつながりました。そこで学びが深まったという経験が大きいです。

Q.「学び方」について教えてください。

(1)1つの学びを深めすぎない

1つのものの部分最適に陥るとかえって時間が無駄になることがあります。そのため、少しずらして近接領域の学びに手を出すということを良くやります。色んなことを掘り下げながら、常に学習曲線が上向きになっているようにしています。

(2)大量に情報を流す

私の場合、あまりメモを取りません。大量の情報を自分の中に流していきます。イメージとしては、海流で少しずつ海苔が網についていくことに近いです。そうすることで、海苔が育った時に穴が開いているところなどが明確になり、そこを重点的に学ぶことができます。本でいうと、初学者向けの本を10冊ほど流し読みして、共通して何度も出てくる概念などを掴んでいきます。

(3)興味がないが学ばなければいけない場合は、学び方で自分に最適化する

学ぶ対象そのものではなく、自分に合った学び方でモチベーションを確保します。何かを達成することに喜びを感じるならば、マイルストーンを置いて達成する。人に教えることに喜びを感じるならば、教えたり、ブログを書いたりする。そのように、自分なりの学びのモチベーションの保ち方を見つけておくと学びやすいと思います。

(4)深めると広げる

目的によって学びのレイヤーを考えないといけません。レイヤーは大きく分けて、深める学び(実践的学習:短期的)と広げる学び(知的探求:長期的)があります。深める学びは、すぐに使えるものであり、その効果は高いです。逆に、すぐには役に立たないけれども自分の中の興味を増やすような、現在の自分から距離があるのが広げる学びです。両サイドやっておいたほうが良いので意識的にやっています。
ただし、深めることも大事ですが、1つの専門性で食べていけるような社会の変化が少ない時期なら良いですが、現在のように世の中が激しく変化していく中で、さらに人生100年時代ともなると広げ続けることが大事になります。そのため、興味・関心を枯らさないようにアンテナを磨いておくことを重視しています。学びに未来の視点は大切であり、将来、種を蒔いた時にすぐ発芽するように頭の中に畑を耕していくイメージです。

Q.広げる学び(知的探求)はどのように行えばいいですか?

人から学ぶ

広げる学びでは、人から学ぶことが多いです。自分が信頼している人や参加しているコミュニティ内の人を対象にして、その人が学んだことを学んでみるというように、人を介して学びを掴みに行きます。

つながりが弱い人を大事にする

人から学ぶという観点では、自分とつながりが弱い人を大事にしています。例えば、家族や同僚など、自分とつながりの強い人たちは、自分と同じような情報を持っていて、自分と近い考えを持っていることが多いです。一方、あまり会ったことがないつながりの弱い人たちは、自分が学んだことのないことを学んでいることが多いです。そのため、意図的にお会いしたことがない人に毎日会うということを習慣にしています。そうすることで、自分との相違点が学びになり、モノの見方のバリエーションが増え、解釈の幅が広がります。

他人の視点をインプット

他の人の視点をインプットしていないと学びのスピードは落ちます。色んな視点というのは、学びの質に関わります。ある情報や経験に向き合った時に、引き出すことができる考えの量が変わってくるのです。感覚としては、他の人の視点をインプットすることで、自分の肩にその人を憑依させるようなイメージです。ただし、視点をインプットすると言っても歩み寄るわけではなく、自身と違う部分を明確化するのに近いです。

Q.学びの楽しさとは?

新結合です。紐づけられていなかったものが紐づいた時に知的興奮を覚えます。身近な例でいうと、若者の無力感という言葉があった時に、それを社会学的に論じることはできますが、一見つながりのなさそうな現在流行しているアニメにつなげて論じたりしていると面白いと感じます。遠くに見えるけれどつながると面白い、そんな自分の想像では足りない「意味のイノベーション」があるとモノの見方がアップデートします。
過去の知識と現在見ている目の前の事象を紐づけられないと、具体しか見られなくなってしまうので、そこから抽象化していかないと深まらないと感じます。抽象化して紐づけするという、システム思考に近いことは日頃からしていくことで上達します。そのため、目の前のことをどう過去の知識と紐づけられるかを常に考えています。そういう考え方であれば、すべての人が先生になります。
紐づけようとしなければ、具体的なことを聞いて終わりになってしまいます。一方で、過去の知識を自然と引き出すためには、脳の中をネットワーク化して、何かに向き合った時には、それが自然と引き出されるように日頃から頭の中の引き出しを開け閉めしておくとよいと思います。

Q.学びを促進させるためには?

学ぶことにハマる

学びを自己目的化することが有効です。端的にいうと学ぶことにハマるということです。次から次に疑問が出てきたり、好奇心が泉のように湧いてきて知りたいと思ったりしている時がハマっている状態です。

ハマるためには、一定ラインまでの上達と想像力がセットで必要

ハマれるまでには時間がかかります。スポーツと一緒で、やり始めというよりも、上手くなってきてから、もっとできるかもという瞬間があります。そのようなハマりかけの瞬間は、全体像が分かってきて、自分では計り知れないものがその先にありそうというワクワク感があります。なので、ハマるためには、ある一定ラインまでの上達とその先にどれだけのものがあるかという想像力がセットで必要です。

ハマる経験

ちゃんとハマる経験をするということも大事です。私は幼い頃に、パズルを5時間ずっとしていた、というようなこともありました。そのことを、私の親は止めないで見守ってくれました。そのようなハマる経験をさせてもらったことはとても良かったと思います。ハマった経験があれば、別のことにもハマることができます。

学べば学ぶほど謙虚になる

ハマって学べば学ぶほど謙虚になっていきます。初学者ほど、最初は全体像が見えないので知っていると思いがちで、自分の能力を過信しやすいです。逆に、学べば学ぶほど、その深遠さを理解するため、謙虚になっていきます。

Q.学びとは?

「人生」だと思います。あらゆるものを過去と紐づけて、全存在やすべての経験を使って学んでいるので、長く生きることで、学びはよりやり易くなります。