デジタル人材の育成

変革のススメ vol.5

組織や個人の変革を支援している実践者の方からお話を伺いました。

トラパタと併せて、ご自身の組織や個人の変革に向けた取組みのご参考になれば幸いです。

vol.5 吉田裕美子 氏

吉田裕美子 氏

1986年(株)野村総合研究所に入社。1989年より野村総研研究所ヨーロッパ(英国現地法人:NRI-E)にてシステム開発および新人教育を担当する。1992年よりシーコア・インターナショナル・コーポレーション(現コーニング・ケーブル・システムズ)に勤務し、米国本社とのシステム統合のため本社側のIT部門との共同プロジェクトで日本側のプロジェクトリーダーを勤める。1996年よりフリーランスとしてシティバンク エヌ・エイと業務委託契約。信託業務用システムの改修およびデータベース統合プロジェクトではインド人のエンジニア12名のPMを担当。これらの経験を通じて、企業の中で真に人財が活かされ、組織が繁栄するためには、ITシステムだけでは不十分であると改めて実感し、「組織と人の開発」に専門を移行。2013年教育のためのTOCのNPO法人化に伴い理事に就任。同年株式会社ジョイワークスを創業。2020年、改めて、テクノロジーの力でコラボレーションと社会変革を実現する、株式会社Hyper-collaborationを設立。

Q.組織変革に起こりがちな課題は何でしょうか?

(1)自分軸(価値観)がない

変革のメンバーに問いかけてみると、「自分は、本当は何を実現したいのか?」に対する答えがないことがあります。大枠で組織の目的が定義されると、それが私のやりたいことになり、具体的に自分が何をしたいか考えられない方に相当数出会いました。その背景には、本音を言うと叩かれた経験があるのかもしれません。また、若い時にやりたいことを言うとうまくいかない経験をたくさんしてきたのでは、と思います。また、相手が求めることに対して、成果を出して、優秀であると評価された経験が何度もある人も、同様の傾向が見られるように思います。
もう1つの大きな課題として、分析する際に、MECEなど分割して考えることは上手ですが、繋がりを意識していないためシステム思考が働かないというケースによく出会います。優秀であるかどうかに関係なく、システムとして物事を捉えることが苦手な人は多くいらっしゃいます。業務を分業して成果を出すことに慣れていることも理由の1つかもしれません。

(2)マネジメントの学習不足

日本企業の多くは、人材開発を入社10年目までとしているケースが多いです。基礎的なスキルを育成するのが人材開発で、マネジメントは一種の“芸”と思われているのかもしれません。マネジメントが組織に与える影響を考えておらず、優秀な個人が集まれば、成果が出ると考えている企業は多いです。会社から成果を求められ、プレッシャーをかけられたり、やればできるというようなマネジメントが当たり前になっていることもあり、マネジメント層がメンバーの話を聞き、チームの課題を取り除くというというシンプルなことができないケースもしばしば見受けます。

Q.選ばれる組織の要件は何でしょうか?

人は、自分で物事を決められる、そんな組織に惹かれると思います。なぜなら、人間は、自分で意思決定することが「意欲」につながっていくからです。その先に、成果を実感したり、人と働いた喜びを感じるということが生まれてきます。変化が激しい時代に組織がフラットになっていく中で、経営者も同じように、自分で意思決定することを望んではいると思います。実際、蓋を開けるとうまくいかない部分もありますが、自分たちで意思決定して、仕事を進めることは楽しくやりがいがあると思います。そういう意味で、みんなで考えて、決めて、改善できたという経験を積めるスクラムの考えは、システム開発を行っているチームでなくても、チーム運営として求められています。

  • トラパタキーワード:自律自走する組織

Q.変革を邪魔する阻害要因(人、もの)は何でしょうか?

技術的問題(既存の知識・方法で解決できる問題)より適用課題(関係性の中で生じる問題)が大きいでしょう。書籍で学んだことでもあり、実感していることでもありますが、日本では、人間関係の中で安心していられるかで信頼関係としてラベリングすることが多いです。
一種閉じられた関係の中で、関係性ができています。また、チームの中で安心な環境を築けても、組織外に信頼関係を構築していくことが苦手です。もっと外に出て行って、外にいる人の価値と自分の価値をぶつける必要があると思います。イノベーティブな発想を持つということにおいても、外に足が向かないというのが、1つのネックになっているように見えます。

Q.変革に向けたどのようなアプローチが必要でしょうか?(組織的視点)

効果的だと思うのは、なるべく上位層の人が本当の感情を言葉にすることです。自分だけではどうにもならない、助けて欲しいとか、等身大の言葉を感情の表現も含めて発言するのが効果的だと思います。
ただし、本当の意味で強くないと、このような発言は難しいとも言えます。長い間失敗することが、必要以上に減点評価されてきてしまっていると、ますます難しく感じるのかもしれません。一度等身大になってみれば、大方の人は、そのような発言に「勇気」を認めてくれるはずです。

  • トラパタキーワード:ようこそ失敗

Q.推進役に必要な素養・経験は何でしょうか?(個人的視点)

(1)共感力

相手が感じていることは何なのか、共感できるところまで理解できて、「そういうことか」ということがわかります。探求することで初めて、イノベーションが起こります。野中郁次郎さんもおっしゃっていますが、起きていることを理解するためには、そばに行って、共感できる(自分も同じように感じられるレベル)まで観察することが大切です。まずは、もっと人と知り合うというところからはじめてみると良いかもしれません。

(2)人に頼る力

日本では「人に迷惑をかけずにやり切りなさい」という教育がなされることが多く、自分一人でやろうとしてチームワークができなくなっているように見えます。周りにもっと頼ることが大切です。また、私が個人的に気をつけていることは、誰かが話した一言でも誰がクレジットを持っているか、頼っているからこそ、明確に表すようにしています。

(3)自分の価値観と向き合う

自分は何が好きで、何が嫌いか、何を良いと思い、何を美しいと思うか、音楽を聴いたり、絵を見たり、誰かの行動を見ても、好き、嫌いと感じること、それが自分の正解の根底にあります。なぜ絵を見て美しいと思うのか、そこに自分の価値観があります。それがあることで意見を言えるようになり、他者の意見も受け入れられるようになります。ビジネス上でのスキルばかり積み上げるのではなく、もっと日常的なことに目を向けて、自分の価値観のベースになっているものを知ろうとすることが大切なのではないでしょうか。

  • トラパタキーワード:共感は発信から,実現のためのあらゆる可能性,自分に問いを立てる
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