デジタル人材の育成

変革のススメ vol.4

組織や個人の変革を支援している実践者の方からお話を伺いました。

トラパタと併せて、ご自身の組織や個人の変革に向けた取組みのご参考になれば幸いです。

石山恒貴 氏

法政大学大学院 政策創造研究科教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、日本電気(NEC)、GE(ゼネラルエレクトリック)、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社執行役員人事総務部長を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本労務学会理事。

Q.組織変革に起こりがちな課題と阻害要因は何でしょうか?

目指すべき正しい組織文化が実現していないことが、組織変革の課題とされることが多いようですが、そこはもう少し深く考えてみてもいいと思います。組織文化の研究者としてはエドガー・シャインが有名ですが、シャインは組織文化の解読は困難だとしています。組織文化は、目に見えにくい、背後にある価値観や基本的な前提も含めて構成されているからです。こうした背後の価値観や基本的な前提は、その組織のメンバーにとっては無意識の当たり前の信念、感情であるため、それをうまく認識できないのです。組織文化は解読しにくいため、正しい、間違っているという概念はなく、その組織が何をしたいかによって組織文化のあり方を考えていくべきだとシャインは考えました。
くわえて、組織文化は客観的に存在するものではない、という考え方すらあります。組織文化とは、その組織のメンバーが解釈した意味であり、瞬間瞬間で、流動的に形を変えてしまうという考え方です。このように考えてくると組織文化が、「客観的に実在していて、マネージメントできる」という考え方には、落とし穴があるでしょう。たとえば、組織文化を改善するために、経営者とマネージャーからの一方的な経営理念の浸透だけが重要だ、ということになりかねません。逆に、客観的に正しい組織文化があって、そこに向かってマネージメント可能であるにも関わらず、現状の組織文化がそうなっていないのは経営者やマネージャーの能力に問題があるからだ、という安易な考えに陥ってしまう危険性もあります。

Q.選ばれる組織の要件は何でしょうか?

人に選ばれる組織の単一的な成功例というのは本当にあるのでしょうか?単一の何かを目指したわけでなく、やりたいことをやっていく過程で、その組織に合う文化になると考えます。一方で、選ばれる組織の共通項もあります。たとえば、その共通項の1つと考えられるのが、オープンブックマネージメント。個人情報とか開示していけないもの以外は、徹底的に社員に開示することで、自律的に考えてもらうようにします。ただし、このような他社での成功例をそのまま真似するのは良くありません。自分の会社ではどのように適用できるか、を語りあうことが大切です。

  • トラパタキーワード:実現のためのあらゆる可能性,自律自走する組織

Q.変革に向けてどのようなアプローチが必要でしょうか?(組織的視点)

近い世代で集まる組織といろんな世代で集まる組織、どちらもうまくいくケースがありますが、個人的には多様性がある方を好みます。多世代の組織では、違う考えの方に触れ、新たな気づきを得ることができるからです。ただ、そうしたいろいろな考えを受け入れるには、ベースとなる土壌をじわじわと変えていく必要があります。そのためには、ナラティブな対話や心理的安全性が大事になります。心理的安全な場づくりとして、職場でも家庭でもない地域で安心できるなじみのある場所という意味のサードプレイスを社内につくることも効果的です。
また、企業経営には知の深化と知の探索という両方が必要ですが、日本企業では知の探索をする人を迫害(軽視)してしまいがちです。知の探索を得意とする異質な人達(早稲田大学の入山章栄教授が指摘するチャラ男とチャラ娘)を尊重できる風土があるとオープンイノベーションにつながります。

  • トラパタキーワード:ようこそ失敗,多様性が育む

Q.推進役に必要な素養・経験は何でしょうか?(個人的視点)

越境学習を例に話をすると、越境者は2度死に(ショックを受けます)、2度再生します。まず、越境するとベンチャーや違う国という今までと異なる環境に身を置くことで、固定概念を揺さぶられるようなショックを受けます。新しい考え方を吸収して視野が広がります。そして、やる気が高まった状態で自社に戻った時に、もう一度ショックを受けます。越境から現場に戻って活躍する人の共通点は、2度のショックから学び、「越境する人だけが会社を変えたいわけではない」と仲間を見つけたり、増やしたりします。そうして、社内でいろんな人を巻き込みつつ、越境先とも連携と続けて、変革を起こしていきます。
このように、組織変革を推進していく人には、自分だけで進めようとするのではなく、同じ志の仲間を見つけて、巻き込んでいく力が必要です。

  • トラパタキーワード:多文化の架け橋,人の輪、知恵の輪、ビジネスの輪
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