デジタル人材の育成

2.ITスキル標準とは -ものさしとしてのスキル標準

スキル標準は、「ものさし」としての機能を想定し、パブリックドメインとして取りまとめて提示する前提から、構成や内容にいくつかの特徴を持ちます。

(1) スキルとは

ITサービスのビジネス上は、「スキル」は、特定の製品・サービスの適用ノウハウや特定のプログラミング言語などの要素スキルで語られることが多くあります。しかし、本スキル標準では、スキルをそのような要素スキル単位で捉えるのではなく、自らの業務課題を満足に実現できるかどうかの「実務能力」として捉えており、単に個別の要素スキルを束ねたものではなく、要素スキルを課題解決のためにいかに最適に選択し、統合し、適用するかを実現する総合的な能力を主眼としています。

高いレベルのスキルを持つということは、顧客やプロジェクトメンバ、パートナ及び所属する企業等に対して、プロフェッショナルとしての高い価値を提供するということと同義となります。そのためには、単に技術的なスキルが高いというだけでなく、コミュニケーションやリーダーシップなど人間系のスキルの高さも重要であり、後進育成においても高い貢献が求めらます。

(2) 構成のアプローチ

スキル標準においては、各種ITサービスの提供に必要なスキルを要素分解し、客観的な観察可能性や、教育・訓練での活用可能性の観点から整理するとのアプローチを行っている。具体的には、

  • ITサービスを「職種/専門分野」として区分
  • 職種/専門分野毎に、スキルを客観的に観察する指標として、経験・実績を記述した「達成度指標」を設定
  • 職種/専門分野に必要なスキルを教育・訓練に活用する観点から要素分解した「スキル項目」を整理し、スキル項目毎に修熟の度合いを示す「スキル熟達度」と必要な「知識項目」を展開
  • 以上に加えて、これらの全体像を一覧性をもって提示するものとして「スキル・フレームワーク」を作成

職種/専門分野は、実際のITサービスの種別を反映する形で区分しています。また、「ものさし」として機能しやすくするために、それぞれの区分において必要なスキルを独立して参照可能なように規定しています。

職種/専門分野はいわゆる人材像ではありません。このようなスキル標準を作成する際の考え方としては、人材像として一定の役割や職務をモデル化し、それぞれのモデルに求められるスキルを導き出すアプローチもあり得えます。しかしながら、本スキル標準は、辞書としての活用性を高める観点から、固定的な役割や職務のモデル化をまず行うのではなく、市場において顧客が必要とするスキルをまず浮き彫りにしてそのスキルの標準化を行い、市場のめまぐるしい変化に応じて企業や関係者の対応が柔軟かつ大胆に行われることを確保しようとしたものです。

もっとも、本スキル標準では、人材像として複数の職種/専門分野をまたがる役割を持つモデルを否定するものではありません。人材像については、企業の事業戦略や教育機関の教育方針に従って、柔軟に形作られるべきものと整理したものです。

(3) スキルの記述範囲

本スキル標準においては、ITサービスにおけるプロフェッショナルとして、エントリレベルからハイレベルにいたるキャリアパスを実現していくために共通に必要となるスキルを主体に記述しています。

一方で、「ものさし」としての一覧性や利便性、メンテナンスの容易性を確保する等の観点から、プロジェクトの局面に応じて短期的に必要となる個別の製品・サービス及び適用業務知識に関する要素スキルや、個人の適性や資質にかかわるような人間系のスキルについては、詳細な記述を行っていません。

個別の製品・サービスや適用業務知識に関する要素スキルは、項目として記述すれば膨大な量となりますが、実際には一個人としてその全てを修得することはありません。どの要素スキルを必要とするかは、担当するプロジェクトや所属する会社の事業戦略、個人のキャリアパスイメージの持ち様などによって選択されるものです。また、直面する業務において不可欠となる要素スキルの修得は、プロフェッショナルとして、当然、自発的に行われるべきものと言えます。

人間系のスキルは、一般的にプロジェクトで成果をあげることや、高いスキルを実現していくための動機や行動の拠り所としても重要なものです。本スキル標準においては、人間系のスキルに関して、要素分解によって漏れなく記述することの困難性と、研修などの共通的な教育・訓練で十分に育成することの困難性から、詳細な記述は行っていません。しかし、キャリアパスの実現にあたって、実際に経験・実績を積むには人間系のスキルも不可欠であるとの観点から、達成度指標による経験・実績の記述によって、必要な人間系のスキルを包含した観察を行い得るものと整理しています。

なお、コミュニケーション、ネゴシエーション及びリーダーシップについては、研修などの教育・訓練である程度十分な育成が行えることに加えて、近年、サービスビジネスとしてその重要性が叫ばれていることから、全ての職種にわたってスキル項目として盛り込んでいます。

(4) レベルの概念

レベルは、当該職種/専門分野においてプロフェッショナルとして価値を創出するために必要なスキルの度合いを表現しています。また、キャリアパスを明確にするために、7段階のレベルを設けています。

レベルを職種/専門分野横断的に捉える参考的な視点としては、次のように考えています。

レベル7

プロフェッショナルとし てスキルの専門分野が確立し、社内外において、テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。市場全体から見ても、先進的なサービスの開拓や市場化をリードした経験と実績を有しており、世界で通用するプレーヤとして認められます。

レベル6

プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内外において、テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。社内だけでなく市場においても、プロフェッショナルとして経験と実績を有しており、国内のハイエンドプレーヤとして認められます。

レベル5

プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内においてテクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。社内において、プロフェッショナルとして自他共に経験と実績を有しており、企業内のハイエンドプレーヤとして認められます。

レベル4

プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードするレベル。社内において、プロフェッショナルとして求められる経験の知識化とその応用(後進育成)に貢献しており、ハイレベルのプレーヤとして認められます。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められます。

レベル3

要求された作業を全て独力で遂行します。スキルの専門分野確立を目指し、プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有します。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められます。

レベル2

上位者の指導の下に、要求された作業を担当します。プロフェッショナルとなるために必要な基本的知識・技能を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められます。

レベル1

情報技術に携わる者に最低限必要な基礎知識を有します。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められます。

(5)継続的な見直し

IT市場の急激な変化や進展に対して、ITサービスのビジネスのあり方や価値も一定でなく、刻々と変化し続けていくことが想定されます。本スキル標準においても、スキルの辞書として継続的かつ適切に内容の妥当性を検証し、柔軟な改訂を行っていきます。