デジタル人材の育成

学びのススメ vol.6

学び続けている実践者の方からお話を伺いました。
ご自身の組織や個人としての学びのご参考になれば幸いです。

竹ノ内壮太郎 氏

「表面価値創造に貢献」できる道具を提供する製造業の工場経営のかたわら、組織内での人材開発の手法としてファシリテーションを活用する。その過程で超参加型読書会メソッドのアクティブ・ブック・ダイアローグ®(ABD)を2014年に開発、2017年にマニュアルを一般公開、累計約6,500ダウンロード達成、年間80回以上のABDをさまざまなコミュニティでファシリテートしている。さらに、英語でのABDをシンガポールとオンラインで結んで昨年より実施開始。若い時から海外の未知の場所へ行くのが好きで、特にインド・イタリア・ドイツそれぞれへは数十回以上、仕事を兼ねて渡航している。
三和研磨工業株式会社 代表取締役社長
アクティブ・ブック・ダイアローグ協会代表理事

Q:竹ノ内さんのように学び続けたいと後輩等に言われたら、何が大切だと伝えますか。

(1)好奇心

好奇心は学ぶ動機につながります。若いうちは学校があるので、ある意味苦行のような学びかもしれないですが、学ぶ機会があります。しかし、大人になると自分で学ぶ機会を作らなければいけません。その動機付けとして、企業依存の受け身な状態にならないように好奇心を持っておかないといけないと思います。何か面白そうと思ったら食いついてみて、自身の関心を高めていきます。狙い撃ちをすると好奇心の範囲が狭くなってしまいますので、あまり狭めずにちょっと面白そうという好奇心をいくつも持つことが大切です。

(2)学んだことを使う覚悟

良いことを学んでも、頭に入れただけで終わっては何にもならないです。学んだことをすぐに実践することが大事です。たとえ不十分な学びであっても、やってみたら分かることもたくさんあります。学びにはお金も時間もかかっているので、何もしないなら学ばない方がマシです。そのぐらいの覚悟を持っておかないと、人生もったいないと思います。

Q:好奇心を高めるためのコツはありますか?

(1)体験の場をつくる

好奇心を持つきっかけとして、体験の場をつくると良いと思います。私自身、何か小さなことでもいいので体験している時に、ちょっとしたコツなどが分かると学びの好奇心が着火します。体験して自分で発見したことは、身について失われません。発見は楽しく、その後の継続的な学びにもつながりやすいです。また、普段と違う体験をしてみる、もしくはさせてみると、印象に残ります。

(2)古典的な本を自分の軸とする

100年や200年といった長い時間を読み継がれている古典的な本は、普遍的なものが入っています。そういうものを自分の軸にすると、そこを出発点にしてつながりを感じるものに自然と好奇心を持てるようになります。また、古典的な本を読むことは、心の栄養にもなります。

Q:学んだことをすぐに使うというところにハードルがあると思いますが良い方法はありますか?

失敗してもよい「実践の練習場」を自分の周りに持つことです。社内外のコミュニティを自分で作ると良いと思います。そのようなコミュニティを持っておくと良い実験場になります。学びにコミュニティは必要です。今はオンライン上で簡単にコミュニティが作れ、全国にメンバーが散らばっていても開催できます。まずは小さく、3人とかでもいいのでコミュニティを始めてみることが大事です。

Q:竹ノ内さんご自身は、学ぶ対象をどのように決めていますか?

天から降ってきたものが多いです。天から降ってくるというのは、私の周りの人が学ぶ対象を持ってきて、それに巻き込まれるということです。自分が学びたいと思うものは、過去の自分のメンタルモデルがベースになっているので発展性がないです。しかし、巻き込まれてみると、自分が普段手に取らないような領域もあり、自身の枠が広がったり、面白い組み合わせに辿り着いたりします。これは「存在目的があなたを発見する」という、ティール組織の提唱者であるフレデリック・ラルーの言葉に通じるものがあります。
また、天から降ってくるものに乗っかることでネットワークが広がりやすいです。相手とGive and Giveの関係が構築できます。学びにおいてGive and Giveの関係はとても大切です。

Q:アクティブ・ブック・ダイアローグ(略称ABD)※という新しい読書法を開発されていますが、どのように開発に至ったのでしょうか?

作ろうと思ったわけではなく、作っちゃったという感じでしょうか。前述の存在目的という意味では、「ABD find me」という感じです。
開発に至った経緯としては、コミュニティの中でファシリテーショングラフィックの勉強をやってみようというところが最初の始まりです。ファシリテーショングラフィックは、対話の見える化のようなものですが、コミュニティ内で勉強する際に仲間の一人がある本を「皆で読みたい」と言い出したため、読書会を始めることになりました。しかし、いきなり始めたのでどのように読書会をすればいいのか分からない状況でした。その中で、ジグソー法やKP法(紙芝居プレゼンテーション 法)など、様々な使えそうなものを組み合わせて、ABDの原型ができました。それを元に読書会を実施していくなかで、改善できそうなところを継続的にちょっとずつ変えていったら、最終的にABDが出来上がったという感じです。
学びも同じですが、継続と少しずつ変えるということが重要です。改善しようと思ったら、新しい知識が必要になりますので、好奇心を持ったものを常にインプットするということも大切です。

Q:ABDのDはダイアローグ(対話)ですが、対話は学びにおいて重要ですか?

対話は学びにおいて重要です。自分の考えを頭の中だけに置いておくと体験になりません。対話することで口に出してみると、それが内省につながり、小さな実践になります。対話の瞬間は自分の話だけでなく、人の話を聞くことにもなるので、そこで何か新しいことが浮かびあがることもあります。対話がなければ、次の行動へのチャンスを逸してしまうこともあります。

Q:ABDなどの経験も踏まえ、どうすれば学びがより進むと思いますか?

学びの中で学び合う場をつくることです。例えば、ある学びの場において、ゴールはこちらで設定するにしても、その中で主体的に参加者が学びの場を設計して、実施することで学びがより加速すると思います。自分で何かを企画した時に、それを実施した時の周りの反応は最大の関心になります。これは学びの感度があがっている状態です。そのため、そこから得られるフィードバックもすごく取り入れることができます。これは、単にカリキュラムがあって教えるよりも、リスクが大きく、時間もかかり、最後にどこまでいくかも不透明なやり方ですが、その効果は大きいです。単なる個々の学びの総和に留まらない学びの創発というものは、このようにデザインする時に起きています。学びの創発を起こすことが、学びが身に付く最善のプロセスだと思います。
また、組織の中で人材開発する立場ですと、ロバート・キーガンの「成人発達理論」等を押さえておいた方が良いと思います。「人間は生涯成長・発達していく」ということを前提に、適応型から自己主導型、そして自己変容型へと変わっていくことを理解したうえで、組織内の人材開発をイメージしておくことが必要です。

  1. ABDとは

読書が苦手な人も、本が大好きな人も、短時間で読みたい本を読むことができる全く新しい読書手法です。1冊の本を分担して読んでまとめる、発表・共有化する、気づきを深める対話をするというプロセスを通して、著者の伝えようとすることを深く理解でき、能動的な気づきや学びが得られます。またグループでの読書と対話によって、一人一人の能動的な読書体験を掛け合わせることで学びはさらに深まり、新たな関係性が育まれてくる可能性も広がります。