デジタル人材の育成

1.ITスキル標準とは -ITスキル標準の必要性

ITスキル標準とは

効果的なプロフェッショナル育成への貢献

 ITスキル標準(以下単に「スキル標準」という)は、各種IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体系化した指標であり、産学におけるITサービス・プロフェッショナルの教育・訓練等に有用な「ものさし」(共通枠組)を提供しようとするものです。

具体的な活用例としては、

  • ITサービス企業(情報システム部門を持つ一般企業を含む):企業戦略に沿った戦略的な人材育成・調達を行う際の指標となり、自社に必要な人材のポートフォリオを示すための共通言語となります。独自の取り組みによって既にスキルに関する何らかの基準を持つ企業においては、スキル標準との対応関係の整理を行うことにより、自社の基準の客観的な位置づけを把握することが可能となります。
  • 各種教育・研修サービス提供機関(高等教育機関を含む):教育・訓練プログラムの提供に際して、いかなるスキルの向上を図るのかを客観的に提示する際の指標となります。
  • プロフェッショナル個人:自らのキャリアパスのイメージを描き、その実現のために自らのスキル開発をどのように行うべきかを判断する指標となります。 さらにキャリアに応じて必要な経験や実績を具体的に把握するなど、キャリアアップやキャリアチェンジを図るための指標としても活用できます。ITスキル標準の指標に沿って段階的に成長することにより、エンジニアリングに基づく実務能力を習得することが可能となります。
  • 行政:効果的なIT人材育成支援策を展開する上での指標となる。また、政府調達において、自らが必要とする人材の能力を判断する指標とすることも想定されます。

スキル標準は、これらのプロフェッショナルの成長・育成に関連する様々な主体が、有機的な連携を図る上で必要な辞書的な機能を持つことを目指すものです。

政府としてITスキル標準を提示する意義

 情報サービス業の「商品」は製品ではなく「サービス」であり、これを提供する個々人のスキルを管理し、育成していくスキームが、企業の競争力に直結します。IT産業の売上げ及び利益がハードからソフト・サービスに比重を移すに伴い、戦略的・体系的なスキル管理・育成の重要性は、さらに高まってきています。

 これまでは、右肩上がりの市場の中で、総じて需要過多であったがために、ある程度のレベルの人材であれば専門知識を問わずに採用し、プログラミングだけ教育して現場に出すことが一般的であり、メインフレームの時代には、スキルの伝承もOJT( On the Job Training )が機能していました。

 しかしながら、 1990 年代以降、IT用途の多様化により、顧客の業務内容を理解することはもちろん、業務プロセスの改革そのものに踏み込んだ提案ができるスキルが必要となり、またIT技術の多様化・深化により、技術毎の専門分化が進展し、インターネットの普及によるオープン化の進展がこれに拍車をかけることとなりました。

 このように、マーケットで求められるスキルが多様化・深化し、これを担う人材も多様化する中で、戦略的な人材育成・スキル開発を行う際に利用できる客観的な指標を整備することの重要性が増大しています。これは、一義的には、顧客への情報サービスの提供を行っている各企業の課題ですが、企業に対する人材供給を行っている大学・各種学校等の教育機関及びITサービス業に従事している各個人にとっても重要な意義があります。したがって、このような指標の作成は、各企業や教育機関等が独自に行うことも可能ですが、基本的な部分については、政府がパブリック・ドメインとして整備し、提供していくことにより、ITサービス・プロフェッショナルの育成に関わる諸組織の有機的な連携が可能となり、ひいては我が国において提供されるITサービスの質の向上につながると考えられます。

 現在、プロジェクトマネージャやITアーキテクトなどの不足が叫ばれていますが、これらに必要なスキルは促成で養成できるものではなく、基礎からの体系的なスキルの修得が必要です。短期的な観点から個々の要素技術の修得のみを行うだけでは、現状職種においてのレベルアップも困難であり、これらニーズの高い職種で必要とされるスキルの充足は、さらに難しくなります。したがって、スキル標準の活用により、実務経験の評価を伴った基礎からの体系的なスキルの修得を着実に行っていく必要があるのです。

スキル標準では解決されない問題

以上述べたように、スキル標準は、IT人材育成の指標となる「ものさし」でありますが、本標準に基づいて人材育成・スキル開発を行ったとしても、その人材・スキルを効果的に活用し、統合していくビジネス戦略がなければ、企業の競争力向上には結びつきません。顧客の立場からみれば、トータルとして求める水準のサービスが提供されることが重要であり、必ずしも個々人のスキルそのものが問題となるわけではないからです。したがって、企業の内外から、戦略上必要なスキルのセットを調達した上で、これを効果的に統合し、顧客のニーズに沿ったサービスを提供していくこと、さらにソフトウェア工学の知見も活用しつつ、品質・生産性の向上に務めていくことが必要となります。