デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業:2024年度採択プロジェクト概要(宮下PJ)

公開日:2024年6月25日

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 岡 瑞起(筑波大学 システム情報系 准教授)

2.採択者氏名

  • 宮下 拓磨(北海道大学 工学部 情報エレクトロニクス学科 電気電子工学専攻)

3.採択金額

  • 2,880,000円

4.プロジェクト名

  • 認知症当事者の意思決定支援のためのエージェントシステムの開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請プロジェクト概要

本プロジェクトでは、アルツハイマー型認知症当事者(以降、「当事者」)の手段的日常生活動作(入浴準備、洗濯など)をサポートする対話型エージェントシステムを開発する。本システムの特徴は、対話エージェントによる傾聴とプロンプティング、支援者との自律的な連絡によるケアプラングラフの作成にある。

アルツハイマー型認知症の初期から中期の当事者は、身体機能が比較的保たれていることが多い。現場での支援では、傾聴と情報提供により活動のリズムを作ることが重要となるが、この手の自立支援には知識と時間・忍耐が必要であり、リソースの限られた高齢者福祉の現場や在宅環境では、生活全域に至るまでの十分な支援の提供は困難な状況にある。本システムでは、AIエージェントが過去の対話履歴をもとに、支援者と自律的に連絡をとりながら特定の場面に対応したケアマニュアルのグラフを作成する。対話時には、積極的な傾聴により、現状がどの場面のどの状態に対応するかを推論する。そして、ケアマニュアルと状況に応じてAIエージェントがプランを作成し、対話を通じて当事者にプロンプティングすることで、困惑や不安の緩和を図る。副次的効果として、支援者による定型的で繰り返しの多い介入の一部を代替し、当事者の自立性を尊重することで、依存や過干渉に陥りにくい関係バランスへのナッジが期待される。

現代においては、非タスク指向型対話エージェントが人間との対話で人間らしい応答ができるようになった。このような時代の中で本プロジェクトは、エージェントが当事者の個人情報に直接アクセスすることと、当事者がエージェントを直接活用することを同時に可能にするために、双方の橋渡しをする試みであるといえる。本プロジェクトを通じて、「認知症は個性の一部に過ぎない」という新たな認知症世界の実現を目指す。

7.採択理由

本提案は、認知症当事者の意思決定を支援するためのエージェントシステムの開発を目指すものである。認知症患者の自立と自律を尊重しつつ、その意思決定をサポートするシステムの実現は社会的に大きな価値があると考えられる。

提案者は、実際に老人ホームで認知症患者と関わった経験を持ち、現場のニーズを的確に捉えている点が評価できる。また、すでに2回のイテレーションを経てプロトタイプを開発し、実際の患者に寄り添いながらシステムを改善してきた努力も認められる。

エージェントシステムのインタフェースについては、スマートフォンに限らずタブレットなどの選択肢も検討する余地があるが、これはプロジェクト期間内で検討を進めるとのことであり、提案者には柔軟な姿勢が見られる。個人差に基づくチューニングや介護者のためのアシスト機能など、今後の発展の可能性も示唆されている。

提案者の熱意とビジョンは明確であり、認知症患者とその家族の生活の質の向上に寄与する重要なプロジェクトであると判断できる。Theory of Mindといった研究の観点からも意義深い取り組みであり、本提案を採択することが適切であると考える。

更新履歴

  • 2024年6月25日

    2024年度採択プロジェクト概要(宮下PJ)を掲載しました。