デジタル人材の育成
最終更新日:2022年6月20日
HDC(Hyper Dimensional Computing)は、人の脳から着想を得た計算手法の一つである。HDCによる計算は、従来の機械学習による手法と比べロバスト性の向上、高速化、低消費電力化が特徴として挙げられる。これらの特徴はエッジコンピューティングで用いられるエッジサーバやIoTデバイスが抱えている課題に対して有効なものである。
本プロジェクトによりHDCを活用できるエッジサーバの仕組みが実用化され、その優位性を示すことができれば、医療や街開発などの重要なインフラシステムがHDCによって改善される未来につながる。具体的には、医療分野についてはスマートホスピタルにおける患者のモニタリング精度の向上や異常検知速度の改善、街については交通整備や自動運転技術への応用など、文字通り人の命を救うものから我々の生活を快適にするものまで幅広い活躍が期待できる。また、小型な回路で高速化・低消費電力化が実現できるため、従来の機械学習の手法ではハードウェアの性能不足で推論の処理をしきれないような小型で安価なIoTデバイス上でも、音声認識などの複雑なタスクを高い水準で行える可能性がある。
そのため、本プロジェクトでHDCを活用できるエッジサーバを実用化し、その有効性を検証することは、社会的に大きな意義を持つ。仮に大きな有効性が示されなかったとしても、HDCは比較的新しい技術ではあるため、HDCの今後の改善にとって有用なデータが必ず得られるはずである。具体的には以下の開発を行う。
自作のRISC-VプロセッサのISAを拡張し、HDCのハイパーベクトルを効率的に処理できるハードウェアを新しく開発する提案である。
HDCは1990年代に高い次元性とランダム性に依存する認知モデルの概念として提唱されたが、1950年代に登場した深層学習と比べると比較的新しい技術で歴史が浅い。そのため、HDCは未だ学術界隈で研究されるに留まっており、実際に高速性と低消費電力が実現できるハードウェアの開発や、世の中の様々な分野の開発者がそれぞれの分野の認識問題の課題をHDCを活用して解くまでに至っていない。最近、別の分野ではRNNの一種であるReservoir Computing(RC)が注目されており、物性デバイスとの実現性の相性の良さから、ハードウェアの試作やエッジIoTデバイスでの応用の概念実証実験が進みつつある。
提案者がHDCを利用するための環境やツールチェーンの基盤を整備することによって、世界中でHDCアルゴリズムの検証やHDCシステムのプロトタイプが作りやすくなり、HDCの有効性が検証され、HDCの今後の普及と発展につながることを期待したい。
2022年6月20日
2022年度採択プロジェクト概要(井阪PJ)を掲載しました。