デジタル人材の育成
後藤 真孝(産業技術総合研究所 情報技術研究部門 上席研究員 兼 メディアインタラクション研究グループ長)
チーフクリエータ
古見 元気(東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 (五十嵐研究室))
昨今、動画配信の敷居は格段に下がっており、個人がビデオやライブ映像配信を行えるようになっている。しかし、その質はテレビ局等の専門家達の手によって作られたものには及んでいない場合が多い。個人のライブ映像配信を行うときの敷居の一つとして、現状のソフトウェアでは出演している人は出演者と演出家などを一人ですべて行う必要があることが挙げられる。それを分散できることは個人レベルのライブ映像配信の敷居を下げると共に、例えば出演者は演技に、演出家は演出に集中的に注力できるのでコンテンツの質を高める可能性を秘めている。また、スマートフォンで簡単に撮影しているものをコンピュータで編集しながら公開するという使い方なども考えられる。しかし、現状ではそういった ライブ映像配信時の作業をインターネット越しに分散するようなプラットフォームは存在しない。
本プロジェクトでは、ライブ映像配信の全体のフローを分散できるプラットフォームを構築し、そのプラットフォームを用いることで、インターネットを通じて、ライブ映像をコラボレーションして配信できることを目指す。具体的には、ライブ配信の映像に対して、実際にそれを撮影している場所とは異なる場所にいるユーザが、リアルタイムに演出を加えられるようにすることを目指す。
近年個人が日常的に利用するようになったライブストリーミング動画配信(インターネット生放送)において、その放送時にリアルタイムに映像上の演出を可能にするシステムの提案である。事前に試行錯誤をしながら時間をかけて動画の作成ができる動画共有サイトへの投稿とは異なり、いかにリアルタイムにその場で容易に魅力的な演出を可能にするかという問題に対する挑戦であり、通常の動画編集ソフトウェアとは違う新たな発想や、使いやすいユーザインタフェースが不可欠となって面白い。
古見君の、ライブ動画配信ソフトウェアを新しいユーザインタフェースによっていかに直感的で使いやすくできるかに拘っていきたいという意気込みは素晴らしい。是非、テロップの表示やカメラワークの変更に限らず、柔軟な発想で、ライブストリーミング動画配信で潜在的に求められている機能や演出は何か、という本質的な問題を考察し続けて欲しい。そうして提案内容だけに限定せずに挑戦して、大きな飛躍を遂げてくれることを期待したい。例えば、リアルタイムなエフェクトを誰でも自由に定義して演出機能を拡張・共有したり、話しながらライブ動画配信をする人とは別の遠隔の人が演出制御のみに協力できるようにしたりと、様々な工夫が考えられる。そうした工夫をしながら完成度を上げて、広く使われるようなソフトウェアを実現してくれるのが楽しみである。