デジタル人材の育成
原田 達也(東京大学 情報理工学系研究科 教授)
身動きを許さない通勤電車、ごった返す病院の待合室、3時間待ちのジェットコースター。混雑はいたるところで我々の快適な都市生活を脅かしている。
しかし混雑を予測、コントロールすることは難しい。それは「人間同士による行動の読み合いを制御する」という本質的な困難を伴うからだ。たとえリアルタイムで混雑情報を提供できても、それに対する人々の行動をコントロールしなければ混雑を回避することはできないのである。
本プロジェクトではこの課題に対してメカニズムデザインと機械学習から解決策を提案する。提案するシステムの名称は「Credible Recommender based on Agent-made Billboard (CRAB)」である。CRABは混雑が発生する市場における仲介者として働く。ユーザーはCRABに自身の選好を申告することで、混雑を緩和するよう計算された均衡に基づいた、自分にとって最適な行動を知ることができる。
未踏アドバンストでは、CRABをアプリとして実装し身近な混雑緩和に使用して効果を検証する。さらにより均衡に近い行動を誘導するメカニズムや動学的に人々の流れを最適化するメカニズムの開発、実験を行う。これらは人々が自らの意思で協力し合い社会全体を改善できることの証明であり、多くの社会問題に通底する意思決定の個人性に対して包括的な解決策を作る第一歩となる。
混雑緩和といった実課題に対して、理論的なバックグラウンドを活用した的確なアプローチで解決を試みる魅力的な提案です。
一方で、投票する人のインセンティブ担保や、投票結果にかかわらず利用せざるを得ない人の存在など、困難な課題もあり、そこをどう解決するかが腕の見せ所と思われ、提案者らのポテンシャルに期待したいところです。