デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業:2016年度採択プロジェクト概要(中野PJ)

1.担当プロジェクトマネージャー

藤井 彰人(KDDI株式会社 ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部 副本部長 兼 クラウドサービス企画部長)

2.採択者氏名

  • 中野 哲平(慶應義塾大学)

3.採択金額

  • 2,304,000円

4.テーマ名

  • 日本の医療を救う電子カルテ検索システムの開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請テーマ概要

近年病院では電子カルテシステムの導入が進んでおり、医療従事者は電子カルテを使って情報の読み書きや保存をしている。しかし、その大量に蓄積された医療情報は検索・解析されていない。なぜなら医療従事者にとってそれは技術的に難しく、また検索の可能性に気づいていないからだ。医療データは欠損値が多く、不定期の時系列データであり、更に非構造化されたテキストである。また医療従事者によってカルテの記載表現が異なり曖昧な文章が多い。よって容易に検索できない。
現在、医療ビッグデータで解析されているのは、すべてDPC(Diagnosis Procedure Combination, 診断群包括分類)という診療情報であり、カルテの内容が解析されるケースはない。DPCは入退院記録や診断名という明確なデータであるが、患者の一部の側面しか捉えていない。患者の情報の殆どはカルテに記載されている。それにも関わらず、カルテの情報処理については未開拓となっている。
電子カルテの検索を医療従事者が行えば、現在の医療を大幅に効率化できる。例えば「緊急を要する患者が来た時、治療のため患者の既往を調べたい。致死的な持病やアレルギーがないかだけでも今すぐに知りたい。しかしこの患者は高齢者であるため通院期間が長く、多くの合併症を有している。カルテの内容が大量で複雑だ」というケースでカルテを瞬時に検索できれば、時間短縮になり患者の命を救う確率を高める。その他にも「担当患者と類似する患者」を検索することで、その患者の予後を大まかに把握できる。また検索によって「特定の患者群を抽出する」ことができれば、治験や臨床研究が更に効率よく促進される。
本プロジェクトでは既存の電子カルテシステムと競合することなく、検索のみに絞ったシステムを開発する。技術的な課題を機械学習や自然言語処理の技術を用いて解決し、医療従事者に使いやすいGUIを持った高速なソフトウェアを開発する。その結果、電子カルテの情報は効率的に用いられ、今以上に正確で無駄のない安全な医療が行なえる。本ソフトウェアが、毎年増加している国の医療費を削減し、医療費の増加に歯止めをかける一助になることを期待する。

7.採択理由

IT活用による生産性の向上は、さまざまな業種業態において実現されているが、医療費高騰や医師不足が深刻な医療現場においては、電子カルテの適用を始め様々な試みがなされてきているものの、他の業種と比較し十分にその活用が進んでいるとは言いがたい。本提案は医学部生による診療情報検索システムの提案であり、様々な医療現場の制約や知識を元に類似患者検索や薬剤応答検索などを実装する。提案者は医療現場を変えようとする情熱に加えて、検索AI分野ITスタートアップ企業でのインターン経験から高いITスキルも有しており、医療分野での現場感覚を活かして実用性の高いサービスを開発してくれることを期待している。