デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業(ユース):2008年度下期採択プロジェクト概要(山岸PJ)

1.担当プロジェクトマネージャー

  • 竹内 郁雄(東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 教授)

2.採択者氏名

  • チーフクリエータ:山岸 純也(千葉大学 薬学部 薬品物理化学研究室)
    コクリエータ:なし

3.未踏ユースプロジェクト管理組織

  • 株式会社オープンテクノロジーズ

4.採択金額

  • 3,000,000円

5.テーマ名

  • GPGPUを用いた薬物親和性評価プログラムの開発

5.関連Webサイト

  • なし

7.申請テーマ概要

新規医薬品の開発は大きく分けて
1.疾患ターゲット(原因タンパク質)の探索、2.医薬品となりうる化合物の探索・最適化、3.臨床試験による評価の3段階に分けられる。現在、ひとつの新規医薬品の開発には十数年の歳月と数百億円の投資が必要とされるが、今後はより複雑な疾患・化合物を取り扱う必要に迫られ、経費・期間ともに増加の一途を辿ると言われている。
現在、製薬業界では 2.「医薬品となりうる化合物の探索」において、原因タンパク質と医薬品候補化合物との親和性をコンピュータ上で評価するin silico創薬を利用する動きが高まってきている。それは「数百万種に及ぶ化合物や実験器具・試薬が不要であること」と「探索時間が短縮できること」を期待してのことだが、実際には「計算時間が長い」「計算結果と実験的に求められる親和性の相関が十分でない」といった問題があり、目的が十分達成されていない。これらの問題を解決するのが本開発の目標である。
GPGPUとはGPU(グラフィックボードに搭載されたプロセッサ)を一般論理演算に用いる手法である。GPUは並列計算可能なプロセッサが千単位で搭載されており、超並列計算に優れているが、並列計算の扱い難さやメモリ関連の制約により、現在のところ十分な計算速度を出せるプログラムは限られている。
本開発におけるプログラムは、原子に対する物理化学的相互作用の寄与を計算するものであり、それらはそれぞれ独立した式から構成されているため、まさにGPGPUに適したプログラムとなっている。その計算能力を活かし、あらゆる寄与を計算することで評価関数の改善を図る。
また遺伝的アルゴリズムなど適応学習アルゴリズムを取り入れることで、候補化合物がどのような内部構造で原因タンパク質に結合するか(配座探索)を効率的に探索する。

7.採択理由

未踏ユースが年2期制になってから、捲土重来、つまり1回目に落ちても2回目の挑戦をする人が増えてきた。山岸君もその1人である。1回目と2回目の間は半年程度の開きしかないが、さすが若い人の成長は著しい。未踏ユースに応募するだけでも人材育成の効果があると言ったら言いすぎか。不採択コメントは、PMたちがそれなりの意図をもって書いていることを知ってほしい。
閑話休題。山岸君はGPGPUを使いこなす実力を、半年前に比べて格段につけてきた。竹内の持論であるが、コンピュータでいい仕事をする人の多くはコンピュータが専門でない人たちである。山岸君は、2006年度に未踏ユース・スーパークリエータになった藤秀義君の後輩にあたる薬学部の学生で、薬学が専門である。最近、薬物設計 (創薬) はナマ物を扱う (in vitro) ほかに、コンピュータの力を借りないと (in silico) 効率が上がらないということがわかってきた。つまり、いかに効率よくコンピュータで候補となる化合物を絞りこむかが鍵となる。現状では問題が山積しているが、だからこそ、どんな手段であれ、目の前の壁を乗り越える努力が必要である。グラフィックスの高速化が目的であるがゆえに、大量に出回り、かつ開発努力が継続しているGPGPUを使って、分子とタンバク質の間の物理化学的親和性の計算に転用しようというアイデアは面白い。予備実験で、すでにCPUに対して2桁程度の高速化が達成されているという。未踏ユースにはGPGPU使いの先輩も多いので、支援も受けられるだろう。
創薬はいまや世界中の企業や研究機関が競っている分野であるから、このプロジェクトによって山岸君の成長だけでなく、注目すべき成果が出ることも期待したい。