デジタル人材の育成
近年のものづくりの現場はIT化が進み、コンピュータ上で設計を行うCADや解析つまりシミュレーションを行うCAEなどのソフトウェアが必要不可欠となっている。このようなツールは製造業を基幹産業とする日本にとって最も重要なソフトウェアの一つとして位置づけられる。
しかしながら、これらのソフトのほとんどは欧米製で非常に高価である上、使用するためには高度な習熟が必要である。また大抵の場合において設計と解析は異なるソフトウェア上で実行され、入力データの移動や作成に多大な時間と労力がかかってしまう。僅かな数の形状しか試すことができず、解析結果に基づいた設計が十分行われていなかった。
そこで本プロジェクトでは設計と解析機能を高度に統合したソフトウェアをオープンソースで開発する。高度な統合とは単に同じソフト上で設計と解析機能を実現しただけではない。例えば設計変更の情報を活用することで従来の解析の大きなボトルネックであったメッシュ生成の手続きを大幅に高速化する。これにより、設計変更を解析結果にインタラクティブに反映させることが可能になる。
このインタラクティブ化により形を変えながら結果を見ることができ、形状の最適化に有効となる。また形状と応力などの物理量の相関が理解できるため設計に関する直感を養う効果も期待できる。このような革新的なソフトを使うことで日本の製造業を活性化させ世界にインパクトを与えられると考えている。
具体的な開発項目は以下のとおりである。
1.モデルの変形に追従してメッシュを変形させるアルゴリズムの開発。
2.動くメッシュ上のALE座標系における各種偏微分方程式の定式化、離散化、実装
3.様々な偏微分方程式を扱うことができる柔軟な解析のためのアーキテクチャの開発
現在私が開発しているオープンソースの有限要素法ライブラリDelFEMに統合する形で提供される。
梅谷君の話を聞いて、CAD(設計)とCAE(解析)を統合したものが世の中にあまりないということにまず驚いた。これはそこを突いた提案である。梅谷君はまず5000~10000個程度のメッシュ規模の設計と解析が一体化して、インタラクティブに実行できるものをオープンソースで開発する。彼のつくった有限要素法のオープンソースDelFEM(公開済み)を拡張する形にするが、ソフトオープンソースとすることの戦略がしっかりしている。設計と解析が一体化したオープンソースソフトは世界で初めてとのこと。
この規模でも中小企業とか、彼のいう貧乏なもの作りサークルとかには十分使えると思う。未踏期間中には教育に使えるレベルまで完成させることを目標にしているが、それでも役立つだろう。実際に彼はこれまで「貧乏な」人力飛行機サークルでの機体設計でさんざん苦労しただけあって、このようなシステムに必要なものがなんであるかをよく知っている。そこが強味である。有限要素法の数学的基礎を学ぶためにわざわざ海外の大学の数学科に留学したというのも梅谷君のガッツの現われだ。大学院終了後、CAD系の会社に就職するとのことだが、ここで開発したソフトをオープンソースソフトとして十分に成長させるための礎を築いてほしい。