IPAについて

IPA NEWS Vol.64(2023年12月号)

公開日:2023年11月20日

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)

  • IPA NEWS Vol.64(2023年12月号)バナー

目次

夢を本気で試せる環境が、ここにある!未踏アドバンスト事業

よりよい未来を目指す同志として、一緒に汗をかきながら応援しています!

内部不正を抑止するカギは「動機」「機会」「正当化」の低減

経営に影響する重要情報が持ち出される事例や幹部が内部不正に関与する事例も!

  • IPAの最新情報をまとめてお届け! NEWS Hot & New Topics

特集

夢を本気で試せる環境が、ここにある!未踏アドバンスト事業

  • 未踏アドバンスト事業 プロジェクト マネージャー/ウルシステムズ株式会社 代表取締役会長 漆原茂さん、未踏アドバンスト事業 2021年度採択者/株式会社MizLinx 代表取締役 CEO 野城菜帆さん、デジタル基盤センター 企画部長・イノベーション部長 楠木真次さんの写真

「開発した技術で起業したい」「技術者として社会貢献したい」—そんな夢の実現を後押しするのがIPAの「未踏アドバンスト事業」です。技術面や資金面のみならず、経営に関しても手厚く支援するという異色のプログラム。採択者と指導にあたったプロジェクトマネージャーにも話を伺いながら、この事業の内容や採択者のメリットをひもときます。

PMが開発に伴走。 実績に応じた金銭的支援も

IT人材の不足が叫ばれる中、注目されているのがIPAの実施するIT人材発掘・育成プログラム「未踏事業」です。

対象や目的によって「未踏IT人材発掘・育成事業」「未踏アドバンスト事業」「未踏ターゲット事業」のラインナップがあります。いずれも毎年11月頃から翌年春にかけて公募が行われ、IT社会をリードするプロジェクトマネージャー(PM)による審査などを経て採択者を決定。7月から翌年2月までの育成期間中、採択者はさまざまな支援を受けながらプロジェクトを進めていきます(図表1・2)。

  • 図表1:未踏事業スケジュール、 図表2:未踏事業支援体制

未踏3事業のうち、起業や社会課題解決を目指す革新的なプロジェクトを支援するのが「未踏アドバンスト事業」です。

IPAデジタル基盤センターの楠木真次さんは、「PMが採択者にしっかり伴走するほか、資金調達や組織運営、法律・知財などに詳しいビジネスアドバイザーからも指導が受けられるのが、本事業の特徴。採択者がプロジェクトに取り組んだ時間に応じた金銭的支援も行います。なお開発成果の知的財産権は採択者に帰属します」と事業の概要を語ります。

採択をきっかけに、起業の覚悟が決まった

未踏峰に登ろうとしている人材にドアを開く

「未踏アドバンスト事業がなかったら、これほどスムーズな起業は難しかったかもしれません」
そう語るのは、株式会社MizLinx(ミズリンクス)代表取締役 CEOの野城菜帆さんです。

野城さんは大学院生だった2021年度、「海洋資源探査を効率化するための3次元海洋観測システムの開発」というテーマで、アドバンスト事業に採択されました。

システムを構想したのはその2年前の大学4年時。専攻していた機械工学を社会課題の解決、中でも水産業の生産性向上に役立てたいと考えたことがきっかけでした。

「大学では宇宙で使う機械に関する研究をしていたのですが、同様に過酷な環境という類似性がありつつ、身近な課題を解決できるということで海洋へと軸足を移しました。船舶や重工業など海洋に関するさまざまな業界にヒアリングして回ったところ、水産業は人手不足、デジタル化の遅れ、生態系の変化、生産性の低下といった大きな課題に直面していることがわかりました。その根幹に、海中の状況が可視化されていないことがあるのではないかと考え、モニタリングを可能にする観測システムをつくり始めたのです」と野城さん。

立ち上げは1人でしたが、友人や院生仲間など4人が加わり、開発は本格化。しかし資金的にも技術的にも限界があり、プロトタイプさえ満足につくれない状況だったといいます。そんなとき大学のプロジェクトで知ったのが、未踏アドバンスト事業でした。

「PMの指導が受けられて、支援金ももらえるうえ、国が推進する事業に参加できるという点も魅力でした」と野城さん。
早速応募したところ見事採択が決定。「うれしかったですね。これは続けなければと自分でも覚悟が決まり、翌8月に起業に踏み切りました」

野城さんのプロジェクトのPMを務めた漆原茂さん(ウルシステムズ株式会社代表取締役会長)は、漁業者のニーズを丹念に拾う野城さんの姿勢に感銘を受けたといいます。
「水産業はIT化などの変革が難しい産業です。そんな中、電話でアポイントを取って三重や高知など各地の漁業者の懐に飛び込む野城さんの姿を見て、水産業の立て直しに本気で取り組むんだという気迫を感じました。そのための技術もあり、まさに未踏峰に登ろうとしている。私たちはそのドアを開けなければと思い、採択を決めました」と漆原さんは語ります。

漁業者から高い評価を受ける海洋観測システムを実現

図表3:固定型観測機器

育成期間中、野城さんたちは漆原さんの技術や組織運営に関するアドバイスをはじめ、支援金を推進力にして精力的に活動。クラウドサーバーへのデータ送信、太陽光発電装置やウェブアプリの開発、浮力設計、長期運用も可能な安全性の確保など、いくつもの壁を乗り越えてシステムを改善していきました。

そして最終的には、魚や海藻、貝などの生育状況や水温データをスマートフォンやパソコンで手軽に確認できるシステムが完成(図表3)。餌の食いつき具合が把握できるほか、魚の病気や酸欠の兆候も察知できると、漁業者から高く評価されています。

「頑固で無愛想な漁師さんに『すごいものをつくってくれてありがとう』と声をかけられたときは胸が熱くなりました。また、『これがあと1ヶ月早く導入できていれば、ワカメの斃死を防いで数千万円の売上を逃すこともなかった』という言葉もいただきました。

私たちの技術が経済的にも大きな効果を生み出し得るという手応えをつかめましたし、漁師さんの経験と勘にデータを掛け合わせることで、水産業のさらなる可能性を引き出せるのではないかとも感じています」と野城さんは語ります。

アドバンスト事業で完成にこぎつけたシステムは、さらにバージョンアップして2022年に水産業向け海洋観測システム「MizLinxMonitor」として受注販売を開始。現在は事業メンバーも15名に拡大し、海外にも販路を広げるべく、野城さんたちは奔走しています。

育成の要諦は、失敗も含めて本人に経験させること

これほど惜しみない支援を 無償で受けられる場はない

漆原さんは野城さんについて、「難易度の高いプロジェクトをしっかり乗り切りました。顧客対応力もついたし、お金の管理も万全。チームをまとめるリーダーシップも備わった。生来の素質がさらに磨かれ、目を見張る成長を見せてくれました」と目を細めます。

野城さんは、「未踏アドバンスト事業ではPM陣やIPAの職員が総出で応援してくださって力になりましたが、中でも漆原さんの励ましが大きかった」と振り返ります。

「誠実にがんばり抜くことの大切さ、メンバーに気持ちよく動いてもらうための自らの言動、清廉潔白な経営が事業継続の要であることなど、起業家としての芯を鍛えられました。ここで得たものが血肉となり、その後の事業推進力にもなっています。超一流のプロフェッショナルからこれほど惜しみない支援を、しかも無償で受けられる場はほかにないと思います」

一方、PMの漆原さんは育成で心掛けていることについて「余計な手を出さず、失敗も含めて本人たちに経験させることです。山頂アタックは過酷なこともあるし、時には失敗もするでしょう。でも背負われて山を登るのでは何も身につきません。採択者はみんな突き抜けた人材。だからこそ、振り切れるまで思った通りにやってごらんというのが私のスタンスです」と語ります。

開発成果以上に大事なのはチームの成長。採択者たちの実力に添いつつ、なるべくストレッチして成長を促すことに力点を置いているそうです。「ただ、開発はそう簡単にいかないものなので、くじけそうになったら支えることが大事。壁に直面しているときや、メンバーの関係がギクシャクしているときは、飲みに行ったり、夜中にオンラインミーティングで話し込んだりすることもありますね」

さらに、製品のクオリティコントロールも促すとのこと。社会実装に向けて越えなければならないハードルをしっかりクリアすることが、採択者の次への展開にもつながっていくわけです。

政府の評価も高い未踏事業。今後、受け入れ人数を拡充

未踏アドバンスト事業のもうひとつの魅力は、同期生や修了生との交流です。

毎年3月10日に開かれる「未踏会議」には、指導陣も含めた大勢が集まって盛り上がります。「みんな個性的で、しかも社会への貢献意識が高い。世代を超えて、志を同じくする仲間ですね」と漆原さん。野城さんも「未踏のプロジェクトはどれも刺激的。知り合った仲間は何でも相談し合える貴重な存在です」と明かします。

漆原さんは、「社会課題を解決しようと技術者が立ち上がるのが、この国の素晴らしさ。日本の資源ともいえる人材を育てる未踏アドバンスト事業には、日本や世界の未来がある。ぜひ存分に力を発揮してほしいし、私たちはそれを心から応援します」とPMとしての意気込みを熱く語ります。

楠木さんによれば、未踏事業は政府の「スタートアップ育成5か年計画」にも位置付けられていて、今後さらに拡大していく方針とのこと。「未踏アドバンスト事業への応募に年齢制限はありませんので、チャレンジする気持ちを大切に、思い切って飛び込んでみてください」と締めくくってくれました。

特集 【ウェブ限定記事】

よりよい未来を目指す同志として、一緒に汗をかきながら応援しています!

  • 未踏アドバンスト事業プロジェクトマネージャー漆原茂さん写真

未踏アドバンスト事業のプロジェクトマネージャーを務める漆原茂さん(ウルシステムズ株式会社 代表取締役会長)が、事業の手応えや人材育成にかける意気込みを語ります。

「技術者の起業を支援できる体制をつくりたい」という気持ちが具現化

私は未踏アドバンスト事業がスタートした2017年当初からプロジェクトマネージャー(PM)として参画しています。

未踏アドバンスト事業の持ち味は、技術による起業支援の色合いが濃いこと。技術者だからこそ見通せる、素敵な未来社会がたくさんあるんです。自分のユニークな技術で世の中を良くしたい。しかし会社を興すとなると二の足を踏む技術者が多いのも事実。

私自身技術者として起業している経験から、「本気で未来を目指す技術者の起業」を支援できる体制をつくりたいと思っていました。未踏アドバンスト事業はまさに私がやりたいことそのものであり、喜んでPMをお引き受けしました。

プロジェクト開始以来、私が採択したプロジェクトは計10件。どれも尖った技術で特徴があって印象深いです。応募してきたプロジェクトのどれを採択するかはPMに任されています。

私の採択基準は「ネタもチームもイケているかどうか」。テーマの面白さや技術力の高さ、実現したときの社会貢献の度合いもさることながら、「この人を育てたい」「このチームは未来に挑戦させなければならない」と確信できるかどうかが大きいですね。審査には面接があり、提案内容以上に応募チームの「人となり」を重視しています。

PMとしてのやりがいは、力のある人材が世の中にデビューすること

育成期間中はチームが壁にぶつかって苦しむことも多いですが、それを自分たちの力で乗り越えることで大きく成長します。

こちらが手を出せばすぐ解決するかもしれないけれども、それでは本人の成長になりません。チーム自らで解決できるよう後ろから導いていきます。素早く市場で試すことに加え、製品サービスのデザインや品質などは厳しく指導しています。

一方で、あまりにハードルを高くするとお手上げになってしまう。育成期間中に十分な学びが得られるよう、着地点を誘導することが大事です。無理に100点を求めても、結果が出せなければ無力感が残るだけです。しっかり60点を取って、次はもっといい点を取ろうとモチベーションを高く保つ方がはるかに得るものが多いです。

そもそもスタートアップって、そういうものですよね。思い通りにいかなくて、試行錯誤して方向転換して、お客さまに鍛えられて、チームができ上がって、ようやく製品やサービスが形になっていく——。紆余曲折を味わいながらも実践を通じて育った人材は、その後、相当な困難も軽々と乗り越えていけると確信しています。

育成期間の終盤ともなると、みんなたくましくなりますね。巣立つときは嬉しいですし、プロジェクト終了後も頻繁に交流しています。活躍を後日メディアで見聞きしたりすると「がんばっているな」と拍手したくなります。

PMとしてのやりがいは、力のある人材が大きく育って世の中にデビューすること。よりよい未来を目指す技術者の仲間、もっと言えば同志として、一緒に汗をかきながらチャレンジを応援しています。

セキュリティのすゝめ

内部不正による情報漏えい防止策

  • 「自社に重要情報はない」という油断がリスクに!内部不正を抑止するカギは 「動機」「機会」「正当化」の低減

まずは情報の棚卸し。 重要度で格付けする

組織内部者が不正に機密情報を漏えいする「内部不正」。被害事例の報道が相次ぎ、IPAが発表している「情報セキュリティ10大脅威」でも例年上位にランクインしています。

パターンとして多いのが、「従業員による報酬などを目的とした外部への機密情報の提供」「退職者による転職先への機密情報の持ち出し」の2つです。

他にもさまざまなパターンがありますが、いずれも顧客情報や製品の技術情報、営業情報などが外部に漏れることで、金銭被害や逸失利益が発生するだけでなく、企業の信用失墜も招きます。内部不正は組織の根幹を揺るがす脅威であることを経営層は認識しましょう。

対策としてまず行いたいのが、自社が持つ情報の棚卸しです。重要度に応じて情報を格付けして取り扱いルールを定め、定期的に見直しましょう。また、重要情報は従業員にそれとわかるよう明示することも欠かせません。

そのうえで、内部不正を誘発する要因を排除していきます。「不正のトライアングル」理論によれば、人が不正を働くのは「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」という3つの要素が揃ったときとされています(下図を参照)。内部不正を防ぐには、この3つの条件を低減させることが大切なのです。

  • 「不正のトライアングル」イメージ

中小企業の対策は道半ば。 ガイドラインを参考に着手

基本の対策は次の5つです。

(1) アクセス権管理:

犯行をやりにくくする、難しくする。

(2) コピーやメール・ウェブの制限など情 報持ち出しの困難化:

犯行の見返りを減らす、割に合わないようにする。

(3) ログの記録:

犯行が見つかるようにする、捕まる可能性を高める。

(4) ルール化と周知徹底:

犯行の言い訳をさせない、正当化させない。

(5) 職場環境の整備:

犯行の誘因を減らし、その気にさせない。

(1)~(4)は一般的な情報セキュリティ対策とも重なりますが、(5)は内部不正に特有のもの。職場のコミュニケーションを基軸とした信頼関係の維持・向上、罰則規程の整備など、適正な労働環境の構築を両輪として促進することが内部不正の抑止になります。

内部不正の対策を講じている企業は大手が中心で、中小企業ではまだ道半ばなのが実情です。内部不正が起こると想定外の悪影響をもたらすこともあります。「自社に重要な情報はないから大丈夫」などと油断せず、リスクアセスメントをしたうえで、できるところから対策に着手しましょう。

IPAでは内部不正を防ぐための対策をまとめた「組織における内部不正防止ガイドライン」や、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」などの調査報告書も公開しています。ぜひ参考にしてください。

対策のポイント

  1. 内部不正のリスクを経営層が認識すること。
  2. 自社情報を棚卸し。重要度によって格付けする。
  3. 5つの対策で「動機」「機会」「正当化」を低減。
  4. 信頼関係の向上や適正な労働環境の構築を図る。

セキュリティのすゝめ 【ウェブ限定記事】

経営に影響する重要情報が持ち出される事例や幹部が内部不正に関与する事例も!

内部不正のインシデントが報道される機会が増えていますが、それらは氷山の一角であり、実際は業界や業種、企業規模にかかわらず、さまざまな企業で発生しているとみられます。ここでは2つの事例を紹介します。

内部不正がひとたび発生すると、企業の経営に悪影響をもたらすことも。「うちは大丈夫」と油断せず、「ひょっとしたら、うちでも起こるかも」という危機感を持って対策に取り組みましょう。

【事例1】携帯電話事業者

転職者による営業秘密情報漏えい

S社の元従業員が競合のR社に転職した際、高速通信規格5G関連技術情報などの営業秘密情報を持ち出しました。R社では持ち込まれた営業秘密情報を業務に利用。元従業員は懲役2年(執行猶予4年)、罰金100万円の有罪判決を受けたほか、S社はR社に対して不正競争防止法に基づいて10億円の損害賠償請求を行い、現在も係争中です。

  • 転職者による営業秘密情報漏えいイメージ

【事例2】飲食業

幹部による営業秘密情報漏えい

H社の経営幹部が営業秘密情報を不正に持ち出し、転職先で競合のK社に提供。後にこの幹部はK社の社長に就任しますが、入手したH社の情報をK社内で共有し、商品原価の比較表を作成させるなどしました。K社元社長は不正競争防止法違反罪で逮捕され、裁判で懲役3年(執行猶予4年)と罰金200万円が言い渡されています。

  • 幹部による営業秘密情報漏えいイメージ