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4.新しい「学び」を実践しよう

自己変革を促すパターン・ランゲージ

慶應義塾大学総合政策学部教授/株式会社クリエイティブシフト代表取締役 井庭崇 氏

  • 「学ぶ」ことは、変わること・変身することの図

「つくる」ことで「学ぶ」 「学ぶ」ことは、変わること・変身すること

世の中は「情報社会」から「創造社会」へと移り変わりつつあります。山積みの問題に対して一人一人が工夫し、提案し、解決へと導くためにそれぞれの創造性を発揮することが重要になっています。そのために学びが必要ですが、創造性を高める学びだけでなく、創造による学びも重要です。かつて、川喜田二郎は、創造的行為について「その創造を行なうことによって自らをも脱皮変容させる。つまり「主体」も創造される」と言いました。これは僕の実感からいっても、本当にそうだと思います。何かをつくると自らも成長し、変化するのです。また、何かをつくり成長することで、つくるもののクオリティが変わり、またそこで学びが生まれるという理想的な循環が生まれます。

もっと「冒険」しよう!

作家のミヒャエル・エンデは、「書く行為は冒険のようなもの」と言っています。本を書くなかで、自分も知らなかった自分の底力に出会い、その力を発揮して困難を乗り越え成長することができるということです。
学びは一般的に、知らなかったことを知ること、つまり、知識のギャップを埋めるものだと思われています。しかし、戦後のキャッチアップ型経済が終わったのと同様に、学びについてもキャッチアップ型ではなく、ゼロからプラスに何かを構築していくような学びの捉え方が必要となっています。もっとワクワクするような、チャレンジングな、冒険と言える学びです。学びの概念をアップデートしなければ、この先立ち行かなくなるでしょう。

  • 「コツ」=「パターン」(型)の図

パターン・ランゲージ

新しい冒険の実践において、役に立つのが「パターン・ランゲージ」です。それは、よい実践の本質、平たく言えば「コツ」を言語化したものです。何かを実践するときにそれをうまく行うコツをつかむことは大切です。しかも、ある実践にはいろいろな側面があるので、いくつものコツを組み合わせて、実践していくことになります。そのようなコツを一つひとつ言葉にして言語化し、とりまとめたものが、パターン・ランゲージです。
これまで、僕たち、慶應義塾大学SFC井庭研究室と株式会社クリエイティブシフトでは、プレゼン、対話、探究、アクティブ・ラーニング支援など、様々な実践領域のパターン・ランゲージを制作してきました。IPAでも、「変革(トラパタ)」「学び(まなパタ)」の2つのパターン・ランゲージを制作しています。

パターン・ランゲージの3つの活かし方

ここからはパターン・ランゲージの3つの活かし方を紹介します。

1.パターンの記述を読むことで、コツ・やり方を学ぶ
パターンの記述を読むことで、コツ・やり方を学ぶ画像

一つ目は、パターンの記述を読み、発想やヒントを知って実践をすることです。単に書かれたものを読んだだけで「身につく」わけではないので、どんどんトライして、実践し、その経験を通じて身につけていくことが大切になります。

2.パターンの経験チャートによる全体的な成長の促進
  • パターンの経験チャートによる全体的な成長の促進

二つ目は、パターンの体系を活かして、自らの実践の経験について振り返り、よりよくしていくことです。ある分野のパターン・ランゲージは、その分野での実践の様々な側面についてまとめているので、その体系を踏まえて、自分の経験を可視化し、把握することができます。そうすると、自分がよく行っている領域と、そうでない領域が一目瞭然になるので、あまりできていない領域の実践を意識的に行っていくことで、できることの範囲がどんどん広がっていきます。

3.パターンを用いて経験談を語り合う対話による学び
  • パターンを用いて経験談を語り合う対話による学び画像

三つ目は、対話を通じた学び合いです。人はそれぞれ異なる経験を持っているので、その経験談について語り合うと、新たな発見があったり、深い理解に至ったりすることがあります。パターン・ランゲージは、実践について語るための語彙(ボキャブラリー)となり、そのような対話を支援します。
パターン・ランゲージのようなものを用いず、ただ単に相手の経験談を聴くだけでは、具体的な話のなかで、どこをどう自分に活かせばよいかはつかみにくいものです。しかし、実践の本質が抽象化してまとめられている「パターン」を媒介にすると、相手の話のどこが本質的な部分で、何を自分に取り入れればよいのかが明確になるので、学びが得やすくなります。また、語る方も、何を中心に伝えればよいかがわかり、話しやすくなります。パターン・ランゲージは、このようなピア・ラーニング、つまり、実践者同士の学び合いにも役立ちます。

これからの時代は創造的な時代になります。そのような創造社会では、「つくることで学ぶ」「つくるなかで学ぶ」というスタイルの学びが行われるようになります。そして、もっと「冒険」をすることが大切になり、そのためにはそれを可能にする道具立てが必要になります。そのような道具立ての有力なものの一つに、パターン・ランゲージがあるのです。こういうツールをフルに活かして、自己変革を目指していただければと思います。