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2.スキル変革調査結果から見る、学びに対する「企業/個人のギャップ」「意識/行動のギャップ」

2. スキル変革調査結果から見る、学びに対する「企業/個人のギャップ」、「意識/行動のギャップ」

IPA 社会基盤センター 人材プラットフォーム部 東澤永悦

IPAでは、IT人材の学び直しや組織・人材マネジメントに関する実態調査を実施しました。 ここでは、調査から浮かび上がった「意識と行動のギャップ」および「企業と個人のギャップ」についてご紹介します。

下記表内の(1)から(4)の4つのうち、ピンク色の(1)と(2)が「意識と行動のギャップ」で、黄色の(3)と(4)は「企業と個人のギャップ」になります。この4つの項目それぞれを解説していきます。
注:表内の表記は丸数字の1から4となっています。

  • 本日ご紹介する「ギャップ」の図

(1)IT人材の充足度

まず(1)のIT人材の充足度についてです。
これは企業における「意識と行動のギャップ」に関する事項で、下図のグラフは企業に対して、IT人材の量および質の充足度を聞いたものです。

  • IT人材の充足度の図

大幅不足/やや不足を含め、全体で8割弱の企業が量・質ともに不足と回答しています。それがIT企業だけではなく、事業会社においてもほぼ同じ認識というのは、興味深い結果だと言えるでしょう。

その一方で「人材を獲得するための準備はできているのか」については、下図のグラフをみていきます。ここでは、

  • 必要なスキルやそのレベル定義
  • 採用したい人材のスペックの明確化
  • そういった人材が魅力に感じる仕事や処遇の用意

などが阻害要因だという回答がかなりあります。ここに、人材不足認識とそのための行動に大きなギャップがあることが見えてきます。企業としてこの準備をどう進めるかは、今後の大きな課題と言えるでしょう。

  • 人材獲得のための準備が出来ていないの図

次の図は「転職した」と回答した人のパスを示したものです。IT人材の中で転職をした人の動向を見てみると、IT企業から事業会社へと業界を跨いで転職した人が多かったことがわかります。

  • IT企業から事業会社という業界を跨ぐ人材流動が増えてきているの図

事業会社でのデジタルビジネスへの取り組みが増えると、必要な人材要件がIT企業と共通化していきます。今後はさらに優秀人材の獲得競争が激しくなることも予想されています。

(2)先端領域への転換に対する姿勢

続いて(2)の、先端領域への転換についても解説していきます。下図は、個人に関する意識・行動のギャップ項目です。個人へのアンケート結果から、現在従事している仕事が先端か非先端か、先端領域への転換経験や意向などについて5つのタイプに分けたものです。

  • 先端領域への転換に対する姿勢

表の各割合を見てみると、先端領域の3タイプでおよそ15%、非先端の2タイプでおよそ85%と、大多数は非先端領域の仕事をしています。一方で、先端領域に移っても良いという「転換志向」が4割弱存在しており、今後のデジタル人材不足を補完してくれる大きな希望と言えるでしょう。

このような「転換思考」の人たちですが、次のグラフのようにスキル向上や新たなスキルの獲得意識は、自発転換や受動転換といった先端領域への転換経験者とほぼ同等に高くなっています。しかもこの割合は、20年度と比べて21年度でグッと増えています。

  • 転換志向者に、スキル習得の必要性認識はあるものの・・・図

では、実際にスキル向上や新たなスキルを獲得できているかと言うと、残念ながら転換志向の人たちの半数近くは「できていない」状況となっています。

  • スキル向上や新たなスキル獲得は出来ていない

スキル獲得の必要性認識はあるものの、具体的な行動には至っていないか、成果が得られていないということがわかります。

(3)スキル獲得に有効な方法

(3)では、個人がスキルを獲得するために何が有効であったか、企業としてどんな学び方を支援しているのかを、行動面のギャップとして取り上げています。

下図、左側の表は個人に聞いた結果を示しています。赤枠で囲ったように、所属する組織以外での業務経験(越境学習)や、コミュニティ・勉強会への参加などが効果的であったという回答が、タイプを問わず3位以上に現れています。

  • スキル獲得に有効な方法の図

一方、右側のグラフは「企業」が支援している学びの方法について示しています。ここでは研修やセミナー、書籍での学習といったコンテンツ学習がメインとなっており、越境学習などについての支援はあまり行われていないことがわかります。個人と企業で、学習方法についてのギャップがあると言えるでしょう。

(4)選ばれる企業の要件

冒頭のIT人材の充足度の中でも少し触れましたが、今後は人材の獲得競争がますます激しくなっていくことが予想されます。また、人生100年時代を迎え、雇用形態の変化やそれに伴った個人と企業の関係の見直しも見込まれています。これからは企業が一方的に個人を選ぶのではなく、相互に選び選ばれる「対等な」関係になっていくでしょう。

そのような中で、企業もいかに自社を選んでもらうかが重要な課題です。この前提を踏まえ、下のグラフを解説していきます。これは個人が企業に求めること(一番右)と、企業が個人に求められていると考えていることを対比したグラフです。

  • 選ばれる企業の要件の図

全体的な凸凹傾向には共通性が認められるものの、矢印の『自身が携わる仕事を選べる仕組みがある』についてだけは、個人の方がかなり大きいという特異点となっており、個人と企業の意識のギャップと言えるのではないでしょうか。

次のグラフは参考データですが、現在の職場や仕事が自分に合っているかという「適職度」の判断基準や、転職の理由においても、やってみたい仕事、やりたい仕事、という項目が上位に来ています。

  • 参考:適職度の判断基準と転職者の転職理由の図

学んだことを活かせる場の有無、あるいは最近よく言われるキャリア自律という視点も含め、従業員がより主体的に業務を選択していける環境が望まれていると言えるでしょう。

言い方を変えれば、自身のキャリアプランや、いつ何を学ぶかは、会社や上司からの指示や指導待ちではなく、自分で決めていく時代になってきたと言うことだと思います。