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スマート安全ワーキンググループ インタビュー

公開日:2021年5月21日

デジタルアーキテクチャ・デザインセンター

  • Society5.0へ向けた、全確保のためのアーキテクチャを設計する

従来のガバナンスを変革していく重要性を、世の中に提言

──取り組んでいるテーマや目標は?

高橋:

DADC高橋氏の写真
DADCプロジェクトリーダーの高橋氏

DADCは、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したSociety5.0の社会になった時、産業構造や社会システムがどうあるべきかという課題に取り組んでいる組織です。実際、現在の法規制やガバナンスはサイバー空間にまで踏み込んで作成されていないため、社会の変化を見越して、それに適した考え方で変えていかなくてはなりません。このような中で、私たちのワーキンググループ(以下WG)は“安全”に着目した取り組みを行っています。

自動運転車を例に考えてみると、誤作動や通信障害による事故が起きる可能性が高まるなど、サイバー空間で発展してきたシステムが、フィジカル空間における安全に対して多大な影響をもたらすようになってきています。すなわち、Society5.0におけるCyber Physical System(CPS)が実現すると、サイバー空間で構築されたシステムがフィジカル空間を通じて身体生命を直接的に脅かすことになってしまうため、その安全性を担保・確保することが重要な課題になっているということです。

「スマート安全」WGが考えるガバナンスを確保するためには、単なる法規制だけではなく、企業や市場の動きも含めた広い範囲を視野に入れ、継続的に構築・運用・改善できるような最適な仕組みを官民が連携して設計することが重要です。その実現には、具体的な事例を通じて議論を進めていくことが必要であるため、まずは石油精製や化学製品を製造しているような石油化学系プラント分野の産業を対象にして取り組んでいます。

このように、より高い安全性が要求される分野に携わる人々が安全を確保していく時に、最初の拠り所となるのはやはり法律です。一方で、Society5.0の社会が実現すれば、AIをはじめとする技術革新やビジネスモデル改革などが極めて速いスピードで進み、これまで想定できないようなリスクが次々に顕在化していくことが予想され、法規制の変革だけでは必要な安全性を迅速に確保できない可能性があります。

つまり、Society5.0が実現するにあたり、従来にはないさまざまなサービスの恩恵を国民は享受できる一方で、これまでの延長線上では想像できないような新たなリスクや危険事象が起きる可能性もあります。想定できないことを予め法律で規定することは困難であることから、こうしたリスクや危険事象をコントロールするためには、今までのガバナンスの在り方を根本から見直し、変えていかなくてはなりません。その必要性を世の中に発信し、対応の在り方をステークホルダーと議論し、その行動変容を促していくことが、私たちのミッションです。

課題の共有、現状把握をしながら将来像の構想を今期の成果として発信

──具体的な活動内容は?

高橋:

ミッションを実現していくためには、従来のガバナンスは何が問題なのかを分析し、産学官の幅広い関係者と課題認識を共有することが不可欠です。その上で、関連する学術研究や国際標準の議論の方向性、最新技術の動向の把握などをしながら、ステークホルダーの方々はもとより、研究者や有識者とも意見交換を重ねており、将来像の構想を今期の成果として打ち出そうと取り組んでいます。

私たちが取り組んでいるガバナンスとは、社会の基盤そのものです。ところが、ステークホルダーの中で、特にビジネスに関心がある方々にとっては、短期的に直接リンクする話ではないため、深い関与を得にくいのが現実です。そこで、今あるビジネスやサービスを根本から変革していくために、ガバナンスの見直しがいかに重要かについて、より容易に理解していただけるような形で情報を発信していきたいと考えています。

石坂:

私は、このチームが目指しているガバナンスの特徴をしっかり捉えた上で、何が問題なのかクリアにするための予備調査を担当しており、問題点を考察したり、説明用の基礎資料の作成を行ったりしています。並行して、既存法制度の組織や指示系統の関係性などを明確化・構造化するためのアーキテクティングも試行的に設計していますが、国内外に同様の事例がほとんどないため非常に難易度が高く、試行錯誤しながら作業を進めています。

世界の最先端を行く、意義深い仕事ができる

──DADCで活動できる醍醐味や魅力は?

高橋:

DADC石坂氏の写真
DADC研究員の石坂氏

私がこのプロジェクトに参画したいと思ったきっかけは、Society5.0へ向けて、課題解決のための羅針盤を示すような、日本の目指すべき未来を見据えた活動ができると思ったからです。対症療法的な取り組みは世の中にたくさんありますが、社会の根本から未来のあるべき姿を考える仕事に携われることは、本当に意義深いと感じています。

石坂:

ガバナンスに関する方程式を解き、課題を解決する道を見つけ、実行していくことは、一個人ではとても取り組めないスケールの大きな仕事で、社会のさまざまな組織と連携しながらでなければできません。教育体制が充実し、DADCセンター長や日本でこの分野を先導されている大学の先生方に直接指導していただいたり、行政機関や企業、業界団体など多種多様な方々と接する中で、さまざまな意見やアドバイスをいただきながらアーキテクチャを考えたりすることができるのは、公的機関であるDADCならではだと思います。

研究者出身の私が知る限り、このような取り組みは世界のどの国でも行われていません。世界の最先端とも言えるこの仕事に自分が関わることができ、他では得られないやり甲斐と責任を体感しています。

産業アーキテクチャ設計のステークホルダーの合意形成を進め、アップデートしながら完成形へ

──今後、取り組んでいきたいことは?

高橋:

今年度出せる成果は、まだ諸段階なものですが、1~2年後には、規制当局や産業界と連携して、関係するステークホルダーがその行動を具体的に変える、新たな仕組みを作るなど、実装できるところまで推し進めていきたいと考えています。

DADCは民間企業と近い距離にいながら、社会をより良くするためのソリューションについて一緒に議論できる組織です。私たちのWGにとっても、ニーズがあるところに積極的に関わっていくことがアーキテクチャを設計していくために必要です。このため、企業の方々には社会的に意義があるような提言や課題がありましたら、ぜひDADCにご相談いただきたいと思います。

石坂:

日本のガバナンスにおける安全性をより進化させていくことが、「スマート安全」WGの活動です。そのためには、大規模複雑化したシステムにおける法規制などの課題を明確にし、誰もが理解できる形にする必要があります。そこで重要なポイントとなるのが、多くのステークホルダーの方々との合意形成を、どのように進めていくかということです。非常に難しい作業ですが、トライ&エラーを繰り返す中で知見も蓄積されてきています。まだ先になるとは思いますが、「スマート安全」のアーキテクチャを世の中に示し、段階的にアップデートしながら完成形に近づけていけるよう、日々の業務に邁進しています。

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    スマート安全ワーキンググループのみなさん

更新履歴

  • 2021年5月21日

    スマート安全ワーキンググループのメンバー・インタビューを公開しました。