デジタル人材の育成

生成AI時代の人材育成に関する座談会

  • 座談会タイトル画像:専門家が語る!生成AIとの向き合い方、人材育成や個人の学びにおける成功のカギとは?

生成AIの登場や普及等を踏まえ、IPAでは2023年8月にデジタルスキル標準(DXリテラシー標準)を改訂しました。
さらに、“企業や個人は、この改訂をどのように捉え、何をすれば良いのか?”というニーズに応えるため、最前線で取り組みをリードする専門家5名による座談会を開催。

生成AIとの向き合い方、人材育成や個人の学びにおける成功のカギなど、示唆に富んだお話で盛り上がった座談会の内容を本ページでご紹介します。改訂されたデジタルスキル標準とあわせて、ぜひご覧ください。

目次

  1. 改訂内容を踏まえ、(自身の見地から)特に発信・浸透させるべきと考える要素はあるか?
  2. 企業は、自社での育成をどのように推進すべきか?留意すべきポイントは何か?
  3. 個人は、どのように学びを進めていくべきか?留意すべきポイントは何か?
  4. メッセージ発信の仕方など、国に期待することは何か?

オープニング:参加者からの自己紹介(敬称略)

ファシリテーター

小出 翔(デロイトトーマツコンサルティング合同会社 Director)

デロイトトーマツコンサルティング合同会社にて、主にデジタル人材育成やDX推進支援を担当。
本改訂ではIPAと一緒に事務局を担当した経緯から、進行を務めさせていただく。
皆様には今回のデジタルスキル標準改訂にあたってヒアリングにも参加して頂いているが(脚注1)、簡単に自己紹介をお願いしたい。

専門家

佐伯 諭(新生フィナンシャル株式会社 CMO、一般社団法人データサイエンティスト協会 スキル定義委員会 副委員長)

佐伯氏

新生フィナンシャル株式会社CMO、データサイエンティスト協会 スキル定義委員会 副委員長等を担当。
協会では、生成AIがデータサイエンスやデータサイエンティストに与える影響等を闊達に議論しているため、その点も踏まえ議論させていただく。
DX推進スキル標準の策定ではデータサイエンティストWGの主査として参画。

三枝 幸夫(クールスプリングス株式会社 代表)

三枝氏

2023年6月まで出光興産のCDO、DX推進スキル標準の策定ではビジネスアーキテクトWGに参画。2023年7月より、クールスプリングス社にて、DX支援や教育プログラム支援等を行っている。
このような座談会などを通じて最新の情報を広めたいと考えている。

深津 貴之(株式会社THE GUILD 代表取締役、note株式会社 CXO)

深津氏

株式会社THE GUILD 代表取締役、note株式会社CXOを担当。
AI関連では、全国の自治体で最初にChatGPTを使い始めた横須賀市の導入アドバイザリーや、StabilityAI社のJapan launchアドバイザーなどを担当。
DX推進スキル標準の策定ではデザイナーWGに参画。

武智 洋(日本電気株式会社 サイバーセキュリティ戦略統括部 エグゼクティブエキスパート)

武智氏

日本電気株式会社サイバーセキュリティ戦略統括部に所属。DX推進スキル標準の策定では、サイバーセキュリティWG主査、日本セキュリティオペレーション事業者協議会(ISOG-J)代表も担当。

広木 大地(株式会社レクター 代表取締役)

広木氏

株式会社レクター代表取締役。朝日新聞社社外CTO、日本CTO協会理事。
多数の技術経営顧問のほかChatGPT APIを用いたツール開発やLLM関係のイベントの開催なども行っている。
DX推進スキル標準の策定ではソフトウェアエンジニアWGに参画。

デジタルスキル標準改訂の背景・改訂内容

ファシリテーターからの説明:

  • 経産省主催の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」の配下にWGが立ち上がり、2023年6月中旬から8月にかけて改訂案を検討。
  • デジタルスキル標準は、DX推進スキル標準とDXリテラシー標準の2つで構成されるが、今回の改訂対象であるDXリテラシー標準は、ねらい/Why/What/How/マインド・スタンスで5つ要素で構成される。
  • 構成要素毎の改訂内容について、どこに何を反映したかを1枚でご紹介する。(脚注2)
  • デジタルスキル標準の改訂 要旨(2023年8月)
  1. (脚注1)
  2. (脚注2)
    詳細は、デジタルスキル標準改訂版をご覧ください。

ディスカッション

テーマ1:改訂内容を踏まえ、(自身の見地から)特に発信・浸透させるべきと考える要素はあるか?

佐伯:

まず、経産省やIPAが生成AIに関する取り組みを力強く推進していること、デジタルスキル標準を改訂し、発信しようとしていること、その姿勢がものすごく素晴らしいと思っている。ずっと遅れを取ってきた日本に対し、”みんなでスピードアップして取り組んでいこう”といった、大きなメッセージになれば良い。
生成AIによって最も変化したことは、生成AIへのインプットが”言葉”になったこと。誰でも使える”言葉”でAIを活用できることは、ものすごく大きな意味を持っている。”みんなでやっていこう”ではあるが、企業は生成AIがもたらすリスクを注意深く見極めながら進めていくべきと考える。
当然、うまく使えば業務効率化になる。一方で、実用化を検討した際に用途によってはリスクが大きいと考え、躊躇することも多いと思う。利用ガイドラインや社内ルールを作成するといった、様々なリスクを鑑みた企業の対応策が必要。その上で”激しく使っていく”という方向で良いと思っている。

小出(ファシリテーター):

”激しく使う”とともに、企業はどちらかというと手綱をしっかり持ち、危ないところを制して進めていくために、ガイドラインやルール作りに早めに取り組むべきだということを強く感じた。

三枝:

私も”ガンガン使っていこう”派である。この20年間、日本はいろんな面で経済的に発展が滞っている中で、一足飛びにキャッチアップし、先頭に立てるチャンスだと思う。国をあげて進めることは、とても良いことだ。
私が長年居た製造業では、ものづくりの精度が上がり、自動化が進んだ。ロボット技術がどんどん進み、生産性が上がり、品質も上がり、そこで日本は勝ってきた。一方で、その頃のヨーロッパやアメリカでは、労働組合がロボットに仕事を取られると反対していたことでいろいろな自動化が遅れた。日本は、受け入れ寛容度が高く、現場の技能員たちがどんどんロボットの扱いを覚えていったことで、勝ってきた経緯がある。
生成AIに話を戻すと、今、ヨーロッパやアメリカでは、デザイナーや俳優が仕事を奪われるだとか、その他のいろんな職種で反対運動が起きており、先ほどのロボット技術が登場した話を想起する。欧米がぐずぐずしている間に、日本がしっかり使いこなして先頭に立つことができる、大きなチャンスと考えており、その点を発信してはどうか。
もちろん、発信する中で、過剰な期待を持たせ、ハイプカーブのようにガタっと落ちては困るため、生成AIの持つ可能性と実態の両面を発信し、正しい理解をしてもらいながら、日本がまた先頭に立てるポテンシャルがあるといった、明るいトーンで発信すると良い。

小出(ファシリテーター):

過去の製造業におけるロボット技術と今回の生成AIを対比で例えて頂いたので、とてもわかりやすい。まさに今が勝つチャンスであり、生成AIに関しては、国もいち早くOpenAI社のサム・アルトマンCEOを呼んだりと、企業も含め動きが早いため、とても期待が持てる。

深津:

企業にAI導入を検討する場面で、使ったことのない人が禁止やリスクを主張するなど、一番最初の入口でブロックを受けている印象が強い。
禁止する/しないに関わらず、まずはとにかく全員が一回触ってみる。生成AIは時代の節目のテクノロジーなので、絶対に触らなきゃいけない。”まずは触ってほしい”というメッセージを大きく打ち出していけると良い。
生成AIを触り、基礎を学んだ上で禁止するなら良いが、教育業界でも、その他の業界でも、触ってもいないのに、急に禁止にしてしまうと、どんどん時代に乗り遅れたり、リスクが出てきてしまうと考える。

小出(ファシリテーター):

”触った上で判断する”という方が、非常に建設的である。

武智:

セキュリティの観点でいえば、生成AIにはリスクがあると同時に、生成AIを悪用する人・生成AIを利用して攻撃してくる人がいる。セキュリティの立場からすると、どんな攻撃を受けるかわからない中で、敵が使っているのに、こちらが使わないことはできないため、当然、使うことになる。
一方で、企業内のセキュリティ担当者からすれば、リスクがある中でChatGPT等の生成AIツールを本当に使わせて良いものかといった悩みがある。彼らも、生成AI禁止がビジネス的な負けを意味することを理解しているが、情報漏洩等のリスクがある中で、どのように使わせれば良いのかという点を悩んでいるように思う。とりあえずみんな使ってみよう、ではあるが、従業員に対して使い方をどう教えれば良いのかという課題がある。
他方で、マクロの視点で見れば、今の日本の失業率は海外に比べてかなり低いため、AIが入ってきても仕事が奪われるといった心配は起こらないだろう。逆に、中国は失業率が高いわけで、AIが入ることでもっと仕事を奪われるのではないかと考える人がたくさんいる。中国でAIを拡げるのはかなり大変だろう。
このように、日本にとってチャンスではあるが、日本にはセキュリティ人材は少ないという問題がある。私が代表を務める日本セキュリティオペレーション事業者協議会で、AIがセキュリティオペレーションベンダーに与える影響を議論していた際、マルウェアを調べたり、データを集めて何の攻撃があったかを確認したりといった、いわゆるTier1オペレーターの仕事は奪われる、もしくは、セキュリティベンダー側ではなく、ユーザー企業側で同じことが簡単にできるようになり、ユーザ企業側にその仕事が移るのではないかと話題になった。本当にそうなるか、いつなるかはわからないが、将来的に起こり得ると考えている。

小出(ファシリテーター):

生成AIを使わせていくが、一方で、生成AIが調査や分析などを行うことで人間の工数が必要なくなり、人間はより違う仕事に専念できるといった、リスキリングに関わる話である。また、従業員に生成AIの使い方をどう教育していくかも今後の課題だ。

広木:

生成AIに関して、正しい知識を持って活用していくことの重要性を問いていった方がいい。セキュリティや著作権などのリスクについて、誤った認識のもと使わないことを判断しているケースも珍しくない。
また、「チャットで答えてくれる」や「絵を書いてくれる」という表面的なアプリケーションのユースケースばかりに注目しているのも問題で、活用方法の広がりという体験のレベルのアップデートに注目すべき。AIエージェントやLLMを用いたUXに関しての幅広い知見をシェアしていくとよい。
「AIが~できるようになるから、〇〇の知識は不要」という言説は危険だと周知していくべき。直接触って、何ができて何ができないかを理解して、これまでの知識を活用して応用していく力こそが重要。

テーマ2:企業は、自社での育成をどのように推進すべきか?留意すべきポイントは何か?

佐伯:

企業としては、”目的を持って使い倒す部分”と”個人の裁量で自由にやらせる部分”の二つを区分けしながら進めた方が良いと思う。
後者は、個人が触っていくうちに、自らの仕事の生産性を高めるための使い方を学んでいきながら、みんなで共有し、話し合っていくことが第一歩と思う。
前者は、業務効率化や生産性向上など、事業のタスクに適用させるには、もう二、三段階のハードルを越える必要がある。まずはその推進のための人材育成や導入検討を進めるべき。既に取り組みが始まっているが、社内文書等を読み込ませ、生成AIのインターフェースを活用することでコーポレート部門の業務効率化に使ったり、負担軽減による従業員満足度向上の検証を確認したりするなど、社内で安全に使いながら、良さを確かめるといった適用から始めてはどうか。
そういう企業内での生成AI活用の先に、産業や業務領域を横断し、データを活用しながら、企業間連携の基盤モデルの検討が始まると考えていて、日本をもう一回元気にさせるために、なるべく早くそこに到達できるよう、教育を実施していくべきと思う。

小出(ファシリテーター):

”目的を持って使い倒す”部分は、企業がトップダウンでやっていかないとなかなか難しい側面もあるため、しっかり力点を置く必要がある。

三枝:

生成AIが成熟していくと、過去のベストプラクティスや現状を是とした最適化は、誰でもできるようになる。すると、事業会社側の立場でやるべきことは、事業の本質をもっと考える、どういう価値を提供していくべきかを考える部分に、企業リソースを振り向けていくことだと思う。
事業に関しては、やっている事業会社が一番専門家のはずだからこそ、本質に立ち帰り、改革を推進できる人材を増やしていくべきだ。反対に、オペレーション部分は、自動化や効率化が進んでいく。
足元では生成AIを正しく使いこなせるよう、プロンプトエンジニアリングなどを教育していき、テクノロジー部門というよりも、事業部門の人が自分たちで使える状態を目指すべきだ。効率を上げながら、事業の本質をどう変えていくべきかをきちんと考えられる人材を増やしていくことだ。

小出(ファシリテーター):

出光興産ではCDOのお立場であったが、経営目線では、ChatGPTを始めとしたAIをどのように使うべきと考えられるか?

三枝:

行き着く先は、小さな経営グループと、最前線のアルゴリズムをチューニングする部隊と、現場のオペレーションメンテナンス部隊のような体制を想像する。マネジメントの役割は大きく変わり、生成AIから出てくる様々なダッシュボードを見ながら判断するのが経営の役割で、その判断結果をもとに最適化していくプロンプトエンジニアたちと現業を回しつつ、フィジカル的な仕事が少し残っている状態になると考える。

小出(ファシリテーター):

体制面など非常に良いヒントを頂いた。

深津:

これからは、先ほどお話があったようなダッシュボードの中にGPTが埋め込まれて解説してくれるであったりとか、リクエストに基づいて集計やレポートを自動作成してくれる状態がやってくると思う。
一番大事なことは、経営者がGPTが労働集約的な課題を飛び越えて解決してくれるってことを理解し、これを使って社内の業務オペレーションを変えると意思決定し、GPTによって業務オペレーションがこんなに変革されるのだから全社を挙げて進めようといった推進力を打ち出すことだ。
結局、オペレーションを変えないと、何でも答えてくれる、ちょっとした先生くらいのツールに落ち着いてしまう。

小出(ファシリテーター):

活用の仕方について、会社として意思を示し、目的を持って進めていくことが重要と感じた。

武智:

セキュリティ観点では、セキュリティ統括者を各事業部に置くべきといった議論がある。コンプライアンスが注目された時期に、各部署にコンプライアンス担当を配置した動きと似ている。しかし、各事業部にセキュリティに精通した人材を配置できない。そこにAIを使うことが有効だと考える。Tier1オペレーターの仕事がなくなるといった話を出したが、一方、人材が不足しているユーザー企業のDX推進部署などに、人間ではなく、ChatGPT的な生成AIによるエキスパートみたいものを置くことができると思う。
一方で、今の生成AIの用途は限定的だと考える。例えば、マルウェア解析などのインシデントハンドリングや、元のデータベースから情報を引き出す用途には使われているが、事業に合わせるだとか、パーソナライズされた状態には至っていない。セキュリティ対応は、ポリシーやルール作り、インシデントハンドリング、その後の改善とサイクルが存在するが、サイクル毎で生成AIをどう使うか、どうプロンプトエンジニアリングしたら良いかが、まだ分かっていない。セキュリティプロセスに応じたプロンプトエンジニアリングをどう見いだすか、そのために必要な学びの進め方を示した教科書作りが必要と感じる。
これが実現できれば、徐々にユーザー側にセキュリティの役割がシフトし、セキュリティに特化した生成AIがどんどん使われ、よりセキュアかつ各事業にパーソナライズされたセキィリティ環境が実現できるはずだ。聞かれた点と異なるかもしれないが、皆さんの話を聞きき、そのように思った。

小出(ファシリテーター):

現場側をどんどんエンパワーメントしていく、現場側にセキュリティーが分かる人材を置いていく、人が置けないのであれば、生成AIを使いサポートしていく、といった点が今後の組織体制を考える上で重要になる。

広木:

経営者は日々のオペレーションを人間がやるという発想を減らしていくべきで、そのことに従業員のキャリアを固定してはいけない。ランザビジネスの従業員を雇わないという発想が必要。その分、改善や自動化にかかる人々の人件費を高く評価して払っていく形にしたほうがよい。

テーマ3:個人は、どのように学びを進めていくべきか?留意すべきポイントは何か?

佐伯:

繰り返しになるが、生成AIを使い倒しながらも、自分の専門領域において本当のプロを目指すしかないと考える。生成AIはほぼ全ての専門分野において良い感じの回答を生成するわけだが、それが本当に正しく、的を射ているものかどうかは、自分が判断する必要があり、その領域までそれぞれが頑張るしかない。
最近ひしひしと感じるが、生成AIとの対話で色々と試行錯誤ができるため、部下とアイディエーションしたりタスクを分担したりといった作業が減った。それは部下にとって成長の機会を失っているということかもしれないし、部下も同じ土俵に立っているとも言える。私たちはこのような状態にどう学びや教育を考えていけばいいのか?OJTのやり方は変わるのだろうが、とにかく、突き抜けていくしかない。

小出(ファシリテーター):

生成AIに使役されるのではなく、使役せよ、監督せよという話だが、そのためにはプロであることが非常に重要だと理解した。
佐伯さんとしては、教育コストをかけて投資としていくこと、つまり、AIを使用すれば自分一人でもできるが、教育機会として部下に自分の頭で考えさせる場を作るといったことは、これからも必要と考えるか?

佐伯:

必要と考える。実際に今やっていることは、アイディエーションする際、人間に加えてChatGPTを入れている。皆で生成物を評価検討し、プロンプトを修正し、また議論するといった仕事のスタイルに変化しつつある。

小出(ファシリテーター):

教育機会も与えられ、アイディエーションも倍速にでき、とても良いアイデアだと感じた。ぜひ多くの企業で試して頂きたい。

三枝:

個人としては、読み・書き・そろばん・生成AIといったことで、生成AIがビジネスをやっていく上でのたしなみになるはずだ。
ルーチンワークを早く丁寧にやれば良いという世界が終わり、先ほどの企業の話とも重なるが、より本質を考える必要があり、クリエイティブに考えるためのトレーニングなどが必要だと考える。
生成AIには、過去のデータがたくさん入っているわけだが、過去やっていないことを与えれば、生成AIも育っていくわけで、生成AIが考えつかないことを発想するためのトレーニングが必要だし、その発想を価値と感じるのは人間であるからこそ、本質を考えられる人材を目指すことが大事だ。

小出(ファシリテーター):

マニュアル通りにこなす仕事は、生成AIが代わりにやってくれるので、今後は、そこに費やしていた時間をクリエイティブなことやそのためのトレーニングにシフトしていく必要性が高まりそうだ。

深津:

自分はサービスを作る側なので、ユーザー行動をよく考えるが、人間が自主的に、つまり、『日本国民が自主的に生成AIを勉強する』といった前提は置かない方が良い。人間は怠惰で勉強したがらないし、新しいものには触りたがらないし、言ってもやってくれないという前提で、どうやって普及させるかを設計する。
最初は人間が関わらないところ、システムの中に組み込んで自動化してパフォーマンスを上げるといったところでもいいし、逆に、人間がやらざるを得ないところの設計から着手するのもありだ。
わかりやすくするために一番極端な例で言えば、ChatGPT等の生成AIを使いこなせるかどうかが、給与査定と密結合している場合、人は皆やると思う。他にも、TOEICや英検のようにある一定レベルの結果を出さないと社会人としてまともに就職できない状況をつくり出す。あるいは、センター試験に生成AI・DXの知識を問うものが組み込まれていて、それが解けないと一定以上大学に進学できないなど、やらざるを得ない構造を作ることが非常に大事と考える。

小出(ファシリテーター):

読み・書き・そろばんができなければ、当然大学にも入れないし、会社でも活躍できない。生成AIを使いこせないことが、パソコンでタイピングできないのと同じぐらいの世界だとすれば、それが評価に反映されて然るべきなのかもしれない。
技術の進展により、あまり生成AIを意識せずとも勝手に裏で動いてくれる状態となれば、もはや人間も活動を考えなくてもいい世界が来るかもしれないが、当面はそういうところが重要だと感じた。

武智:

極端な言い方かもしれないが、生成AIは単なるツールだ。私が社会人になった頃は、Excelもパソコンもなく、レポートは手書きだった。新しいツールが出れば、仕事をする中で身に着けた。生成AIも同じでどううまく使うか、ということが大事だ。
プロになるしかないという考えは、その通りだと思う。生成AIの出力が正しいか見極める必要があるわけで、プロになり、その領域の知識を持ち合わせないと、生成AIを使いきれない。プロを目指すことが大事だ。そのために、生成AIの技術トレンドや、それを自分でどう生かすかといったマインドは欠かせないだろう。
一方で、企業内で教えることができるか?という話がある。セキュリティに関しては、一組織内での経験には限りがあるため、企業内で教えきれなかった。結局、セキュリティに関しては、コミュニティが重要な役割を果たしている。私が所属しているコミュニティもそうだが、たくさんコミュニティがあり、その中でコミュニケーションしながら補い合っている。
マナビDXという取り組みがあるが、とても重要だ。コミュニケーションをIn personでできればさらに良いが、とにかく、そのよう場所で繋がりを作ることが重要だと感じる。転職も激しくなる中、企業が自社だけで人間を一から育てていくことはできない。それを補うのは、コミュニティであり、それをどう作るかが鍵だと思う。

小出(ファシリテーター):

個人が主導するコミュニティもあれば、産業、業種、複数の企業間で作るコミュニティもあるが、一社だけでは賄いきれないため、自前主義からの脱却として、教育や知見の獲得を共同でやっていくことが重要になりそうだ。

広木:

知的好奇心を高く持つこと、道具に対する手触り感のある理解を重視すること、試行錯誤を通じて、手を使ってものを考えるということに慣れること。
新しいものについて触れることなく、わかったふりをして切断処理をして何もわかっていないというような人ばかりになると、イノベーションを生み出すことができない。
ITに関して多くの具体的な手触り部分について軽視しすぎてしまい、競争力に繋げられていない。頭でわかっていることと手でわかっていることは違う。

テーマ4:メッセージ発信の仕方など、国に期待することは何か?

佐伯:

私は、政治ではなく、企業から発信させた方が良いと考える。例えば、孫さんとかを巻き込めるんだったら面白い。官ではなく、産業界とアカデミアがそれぞれ頑張っていく。国としては、しっかりと補助金などの仕組みを作るだろうから、それをみんなが使っていけば良い。今、日本はリーダーシップが足りてないわけだが、それを企業の中から引き出すしかないと感じる。

三枝:

貿易収支の視点で、デジタル分野でどれだけのお金がアメリカ企業に流れているだとか、取り返すために生成AIを使いこなしてビジネスとして世界に打っていくだとかのポテンシャルを示しながら打ち出していけると良い。海外にお金を吸い取られて悔しい、取り返したいと思う人が少しでも増えたらいいと思う。

深津:

皆で頑張ろうとか、気合の問題にすると絶対に機能しない。就職や大学受験と結びつけるといったことを国がしっかり握った上で推進し、社会が進まざるを得なくなる状況を作れれば良いと思う。国に何かしていただけるなら、そこが一番嬉しい。

武智:

国にお願いしたいことは、法律の問題だ。EUや海外が出す法案によって、産業界がやりたいことができなくなるといった事態にならないよう、うまく調整いただきたい。
昔、検索エンジンが普及した際、著作権関連でブレーキを踏んだが故に、日本で検索エンジンが発達しなかった経緯がある。同じことが起きないように、海外との法関係は国でしかできないと思うので、そこをしっかりお願いしたい。
産業界はビジネスだからこそ、アクセルを踏む時は踏むし、日本人の気質から自然とブレーキも踏むだろうし、あんまり心配してなくて良い。むしろ、国が下手なブレーキをかけたり、海外からの法の縛りをかけられないようにしてほしい。

広木:

メッセージの発信についてより、国産LLMや半導体資源等の国内のインフラに対する資本的なサポートや、LLMの活用を阻害しないような現行法に対する法的なサポートが重要。

クロージング

ファシリテーターから:

本日は、数多くのビジネスパーソンにとって有用な情報・アドバイスを頂けた。日本として、いけいけどんどんで進めていくこと、日本人の気質でブレーキは勝手に踏むだろうということ、日本発の生成AIビジネスに向けて、国は法を、産業界は推進を、それぞれ実施していくことが重要と改めて強く感じた。今後も、皆さまのお力を借りながら進めていきたい。
本日はありがとうございました。

更新履歴

  • 2023年8月21日

    公開