デジタル人材の育成

未踏IT人材発掘・育成事業(ユース):2010年度採択プロジェクト概要(矢口PJ)

1.担当プロジェクトマネージャー

原田 康徳(日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 主任研究員)

2.採択者氏名

  • チーフクリエータ
    矢口 裕也(長野工業高等専門学校)

  • コクリエータ
    なし

3.採択金額

  • 1,792,000円

4.テーマ名

  • 柔軟な電子書籍をつくるクラウド組版システムの開発

5.関連Webサイト

  • なし

6.申請テーマ概要

電子書籍は比較的最近になって盛り上がってきた発展途上の分野である。そのため現状の電子書籍用のソフトウェアはどれも大きな欠点を抱えている。特に他種類のデバイスへの対応や、文字や画像を適切に配置していく「組版」においては現状のソフトウェアには大きな問題がある。

また、最近出始めた電子書籍作成のソフトウェアは高価でプロフェッショナル向けのものばかりで、個人が使えるフリーで簡単なものは整備されていない。

本提案は組版をサーバ上でデバイス・ユーザに合わせて動的に行うソフトウェアを開発することで電子書籍の制作を簡単にし、組版の品質を向上させ、特定のデバイスへの依存を開放するものである。

本提案のシステムではpTeXのラッパーを開発し、それをWeb上に設置することが大きなポイントとなっている。pTeXは優れた組版ソフトウェアである。主に論文やレポートの組版に用いられるが、小説などの組版にも対応できる。また、電子書籍の組版にも使うことができる。しかしpTeXで標準的に使用されているパッケージLaTeXは論文・レポートに最適化されているため、日本語の小説を組むには調節が必要になる。またpTeXは電子書籍のようにデバイスごとに画面(紙)の大きさが異なる場合の組版は想定されていない。そのため画面の大きさごとにパラメータの数値などを調整した.texファイルを作成するトランスレータが必要になる。こうした処理を一括して行うプログラムを開発する。

さらにそのラッパーをWebサーバ上に設置し、作者・読者両方のUIをWebアプリケーションの形で提供する。これにより作者はpTeXやその周辺環境の複雑な環境構築から開放される。読者側はデバイスや読者の好み(字の大きさなど)を組版システムに伝え、「動的」に組版が行えるようになる。これにより読者ひとりひとり、デバイスの1種類1種類に最適化した組版が行え、読者は最も快適に本を読むことができるようになる。

7.採択理由

Web上でpTexを動作させることで、電子書籍を手軽に出版できるようにする。矢口君は気づいていないかもしれないが、しっかりとしたすばらしい技術を再利用可能な形でWeb上の部品として提供したとき、思いもよらない使われ方をして、化学反応が起こる。

たとえば、この電子出版の技術を使えば、twitterで俳句を詠むと、縦書きの格好いい俳句の画像を表示するサイト、といったものが簡単にできてしまう。そこで重要なのは、よいAPIの設計と、大量なアクセスに耐えるためのキャッシュ、それとビジネス側からの要望としてはDRM的な要素である。

僕が採択したなかで、「化ける」規模が一番大きいと思っているので、その期待に応えてがんばって欲しい。